『おしえて、園長先生』 鹿角のカブトのおはなし

「〈来年はもう小学生〉さんから、おハガキをいただきました」

 リスナーからのおハガキを小松こまつ先生が読みあげている。

 三河キンダースクールは私設ラジオ局があるのだ。


 この三河キンダースクールは本多ほんだ家の家族経営のため、幼稚園関係者も保護者も園児も、本多〇〇先生に関しては苗字でなく、下の名前で呼ぶ。


 だから本多忠勝園長の娘の本多小松先生は、小松先生なのである。


「『えんちょうせんせいは、なぜいつも、シカのつののおぼうしをかぶっているのですか』という質問です。はい。おしえてー、えんちょうせんせーいっ」



 園長先生のお帽子は、正しくはかぶとです。

 漢字だと、ちょっとむずかしいから、よい子のみんなは、まだ覚えなくてもいいからね。

 五月の節句のときに見たことがあるかな。

 うん。ヘルメットみたいなものだね。


 園長先生は若かりし頃、五歳年下の元康もとやすくんといっしょに、大高おおたか中学校に、今川グループの若手として、お使いに行きました。

 そのときです。なんと今川グループの会長が新興勢力の若造にボコボコにされるという、衝撃的な事件が起きました。


 実は元康くんは今川グループに所属しているのが、いやになっていました。

 それで、『逃げちゃう? チャンスじゃん?』と、園長先生に持ちかけたのです。

 身分的に元康くんの方が園長先生より、えらい方なんです。

『うちの菩提寺まで走って逃げよう!』

 そう言われて、園長先生は逆らえませんでした。


 しかし、なんということでしょう。

 前日の雨で川が増水して渡ることができません。お寺は、この川の向こうなのに!

 園長先生と元康くん、ピンチ!

 すると、なんということでしょう。一匹の鹿が現れて、川をスイスイ渡って行きす。

 よく見れば、鹿が渡った場所は浅瀬でした。

 それで二人は、その浅瀬を渡って無事に菩提寺にたどり着くことができたとさ。


 鹿、グッジョブ!

 園長先生は、いたく感動して自分のかぶとに鹿の角をつけることにしました。



 例年、クリスマスのトナカイ役になった先生が、園長先生の鹿角脇立兜かづのわきたてかぶとを借りているのは、そんなわけです。

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飾りじゃないのよ兜は 2 ミコト楚良 @mm_sora_mm

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