飾りじゃないのよ兜は 2

ミコト楚良

三河キンダースクール

 三河キンダースクールの象徴である山門に、新年度最初の朝日がさしてきた。


 間口は 2.5 メートル、一間一戸いっけんいっこの切妻屋根の薬医門やくいもんは両側に袖塀そでべいを巡らせてある。 

 はり組物くみもの笈形おいがたの各部材に精緻な彫刻が施された、うつくしい山門だ。


 井戸水でみそぎをすませた忠勝ただかつ園長は、「まことに入園式日和じゃ」と、うれし気に目元のしわを深くし、園庭を眺めた。


 この園庭こそ忠勝の祖父、父が心血注いで守って来たものだ。

 自然の山と川を利用した巧みな造成である。木々が風にそよぎ、鳥がさえずる。園児は思いきり走り回り、沢で遊び、疲れれば木陰で休む。

 陽光をさんさんと浴びて、 たくましい身体からだと、自身でもって考えることができる子を育てる。それこそ、我が一族の信念。


「この三河キンダースクールで」


 忠勝は真白の新しい下着を身につけた。

 入園式に着るスーツは二十二歳で死んだ父の形見を直したもの。肩から、たすきがけにかけた、いかつい金の鎖は忠勝のセンスだ。


「さて、楽しみなことだ」

 

 南向きの明るく広い園舎では、乙女おとめ先生を筆頭とする保育士たちが、幼子たちを迎えんと準備万端で待っている。


「ものごとをやりとおす、たくましさと強さを持った子。

  思いやりがあり、親切で豊かな心をもち、 だれとでも仲良く遊べる明るい子。

 良いこと、悪いこと、けじめをつける正義の心を持った子。

 そのような子らを育てましょう」



 ようこそ、三河キンダースクールへ。

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