第6話
「佳栄じゃん、おはよう」
いつもより少し早く家を出たところ、教室に着いた時にいたのは、志帆ちゃんだった。
志帆ちゃんは、去年も他の子たちよりも早く来て、課題に勤しんでいた。
家が遠いから、部活してから帰るといつも家に着くのが遅くなり、早寝早起きの習慣があるから勉強する時間がとれないと、愚痴を言っていた。
「おはよう、それ、数学?」
「んね、むずくない?代入法はわかるんだけど、加減法がさあ〜。最初から数揃えといてほしいよね」
「ねー。私もそれでよく計算ミスしちゃう」
「え〜、佳栄も間違う?なら私が間違えても仕方ないか」
「いや、そうはならないけど……」
志帆ちゃんはクラスの中でも明るい方で、私とは違って、上の人とも積極的に話しているのを見かける。
それでいて、人によって態度を変えたりしないから、クラスでも好かれている人だと思う。
だけど……。
「ねえ聞いて、最近のんが全然部活に
「うん、そうだね……」
志帆ちゃんは去年から秘密話が得意だ。
ふと、安心して零したように、自分のフィールドに持ってくる。
いい子なんだけど、彼女の舌がよく回るようになるのは人の悪口を自分が吐いているときで、逆に人の悪口を聞くときは露骨にいらいらしていたから、自分の思うことを他者にアピールしたい人間なのだろう。
「酷いっていうか、困るよね。8月にはコンクールがあるのに、サボられると。やる気ないなら辞めちゃえばいいのに。佳栄はどう?美術部、サボってる人いる?」
「元々毎回行ってる人が少ないからなー。私も面倒でサボることたまにあるし……」
「あそっか〜。美術部はそういうもんだもんね。こっちは団体だからねえ、1人でもやる気ないひとがいると困るんよねえ」
吹奏楽部はほぼ運動部、だなんていうのをたまに聞くが、彼女の発言にはそれと似たようなものを感じる。
どういうところでマウントをとろうとしているのだろうか、と思ったが、彼女はただ単に平林さんが平澤さんと仲良くしていることに嫉妬しているだけかもしれない。
私が下手な発言をするのは求められていないので、当たり障りないように相槌を打ちながら誰かが教室に入ってくるのを待っていた。
「のん!おはよ〜」
「おは、私が3番?なんか今日みんな来るの遅くない?」
「んね、だよね〜。佳栄が来たのもついさっきだしさあ、寂しかった〜」
「でも西野さん今日早いね。めずらしー」
「うん、家出たのが早かったから……。平澤さんはいつもこの時間?」
「そだよー。いつもはみーと一緒に来てるんだけどね、今日寝坊しちゃったらしくてー」
「そっか、平林さんと……」
「そうそう、
「ああ、うん。私も送っとこうと思ったんだけど、忘れてたわ〜。うーちゃんマメで助かったね〜」
吹奏楽部の2人で会話が始まったようで、もう私に入る隙はない。
わこちゃんと椎名ちゃんが来るまで本を読んでおこうと思って、教室の後ろの棚に本を取りに向かった。
赤いウサギ小屋 のばれ @noma22148
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