第7話 何もかも散らかったまま

「えーと、服は……」

「確かここに置いた気がするんだけど」

 クローゼットの奥にある服を引っ張りだす。ミコトとシアの服が次々にベッドに放り出され、椅子に座って様子を見ているライアが不安そうに二人を見ている。ベッドの上にどんどん増えていく服に戸惑いつつマリーから貰ったクッキーが入った袋をぎゅっと抱きしめた


「食べないの?」

 クッキーを見ていると突然目の前から声が聞こえて驚いて顔を上げる。ライアに声をかけたシアも一瞬驚いたた後すぐニコリと微笑んだ

「もしかして開け方が分からない?」

 そう聞くと、ライアがゆっくりと頷く。すると、シアがフフッと笑ってクッキーの袋を縛るためにつけられたリボンを指差した

「このリボンの紐を引っ張って」

 指差されたリボンの先を見つめそーっと引っ張ると、するりとすぐにリボンはほどけ、開いた袋から甘いバターの香りがした。その香りに嬉しそうに微笑むライア。恐る恐る一枚クッキーを取り出して一口食べた

「美味しい?」

 シアがそう聞くとクッキーを食べながらゆっくりと頷いて答える。美味しそうに微笑むライアを見ていると、クローゼットの方からガタガタと騒がしい音が聞こえた

「あった!見つけた。本当に残してたんだ」

 ミコトの体より少し小さな洋服とズボンを持ち、ライアの体に合わせる。ライアには少し大きそうな服やズボンを見てシアがクスクスと笑う

「なんだか昔のミコトを見てるみたい」

「えーそう?」

 数着ほど服を見たり合わせながら話していると、二人の話を聞きながらクッキーを食べていたライアがクシュンとクシャミをした

「急いでお風呂入って着替えないと」

「じゃあ私ちょっと準備するから、二人先に行ってて」

「わかった。ライア行こう」

 手を差し出すと、テーブルにクッキーが入った袋を置いてミコトの手を握る。ミコトが二人分の着替えを持って浴室のある場所へ向かうため、部屋を出た。少し開けたままになった扉の隙間から二人がパタパタと走る足音とミコトの声が聞こえて、シアが扉の方を見てフフッと笑う

「さてと、少しでも片付けておかなきゃ……」

 ベッドに積まれたたくさんの服を見てシアが一人呟く。近くにあった服を一着取ろうと手を伸ばした時、窓からコツンと物音が聞こえた。外は小雨が降る中、部屋の窓を開け、辺りを見渡すと部屋の前にある大きな木に一羽の大きな鳥がいるのが見えた

「フルール。おいで」

 シアが声をかけながると、木に止まっていたフルールが大きく翼を広げ部屋に入る。くるりと部屋を一周してライアが座っていた椅子の背もたれに立ち止まった。左右に顔を動かして、また大きく翼を広げる。羽根に付いていた雨粒が部屋に撒かれ、シアの頬にも雨粒が触れ、拭っている間にフルールが外に飛び出した

「また見守ってね、フルール」

 窓から手を振り雨の中去っていくフルールを見送ると、窓を閉めミコトが出した服やライアが溢したクッキーの後、フルールが部屋に撒いた雨粒を見て、さっきよりも散らかった部屋に困ったように笑うとベッドに置かれた大量の服を探り着替えを取った

「さてと、ミコトがあっちでも何か問題を起こす前に私もお風呂場に行かなきゃな」

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