第3話 ほんの少し立ち止まって

 ライアの腕を引っ張ったままバタバタと廊下を走るミコト。その後ろを追いかけるシアを通りすがりの生徒達が驚いた顔で見ている

「あっちが魔術室で、ここが上級生の教室、あ、私達の一年のクラスはあっち。それであの人がいる場所が……」

 食堂に向かうついでに各教室を指差し説明していく。ミコトが説明のため指差しした場所を目で追いかけていたライアの足元がフラフラとおぼつかなくなっていく

「ちょっと待ってミコト」

「なにー?」

「なにじゃないよ、ちゃんとライアを見なさいって」

 シアに呼び止められ、後ろにいるはずのライアを見ると、急に立ち止まったせいで、走っていた勢いが止まらずフラフラと動いた後、ペタンとその場に座り込んだ

「さっき空から落ちてきたばかりの何にも分からない子をつれ回しちゃ駄目でしょ」

「そっか。ごめんね、大丈夫?」

 シアに注意され、少し屈んでライアに謝ると、少し上目遣いでミコトを見た後、うんと一つ頷きふぅ。と一つ息を整える。ミコトが少し屈んでライアの様子を見ていると、三人の背後からコツッと足音が聞こえた

「二人とも何をしているんですか?」

 細く背の高い女性がミコトとシアに声かける。三人が一斉に声のする方に振り向いて、一番近くにいたシアが一瞬顔をひきつらせた

「実験室の片付けをするようにと言ったはずですよ」

「カメリア先生……。あの、えっーと……」

 シアがどう説明をするか戸惑っていると、ライアに気づいたカメリアが睨むように目線を向けた

「この子は?」

「この子はその、さっき空から……」

「そう!空から落ちてきたライアっていう子なんです!お腹空いたみたいでそれで……」

 座ったままのライアを起こしてカナリヤの前に立たせる。ジーッと見つめられ、目線をそらそうと顔を左右に小さく振ると、カナリヤが少し屈んでまたライアの顔を見つめた

「綺麗な青い目ね」

 そう呟くと、ライアがカナリヤを見つめ少し首をかしげた

「片付けはいいわ。二人はこの子の子守りを頼んだわ」

「やった!ライア行こう!」

 カナリヤの言葉を聞いて、またライアの腕をつかんで走り出したミコト。再び足元がフラフラとおぼつかなく走らされるライアを見て、シアが慌てて二人を追いかけようと走り出す

「シアさん」

 カナリヤに名前を呼ばれて立ち止まり、振り向くとシアを呼んだはずのカナリヤは廊下の窓から外を見ていた

「今夜は雨が降るかもしれません。早く帰るように」

「雨、ですか?」

 シアも窓から外を見ると、少し雲は多くも晴天の空。さっきのカナリヤの言葉を思い出して、少し首をかしげる

「シア、置いていくよー」

 来ないシアにミコトが大きく手を振り呼ぶ。いつの間にか廊下の端まで移動していた二人を見てシアが驚き慌て出す

「カナリヤ先生、失礼します」

 側にいるカナリヤにペコリと頭を下げ、急いでミコトとライアの側に向かう。合流して、階段を下る三人の話し声がカナリヤまで響いて聞こえると、カナリヤがフフッと微笑む


「おいでフルール」

 左腕を上げ呟くと、カナリヤの左腕に一羽のほんのり薄い茶色のフクロウが羽を大きく広げ現れた

「あの子の様子を見守っていて」

 カナリヤがフルールというフクロウにそう言うと、シアと見ていた窓から翼を広げ空へと飛び立っていった。フルールがグルリと旋回し校舎に隠れて姿が見えなくなると、窓を閉めて、ふぅ。と一つ深呼吸をした

「さて、私も雨が降る前に片付けて帰りましょうか」

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