第2話 呼び止める声を無視して

「なるほど、空からこの子が落ちてきたと……」

 アスター学園の保健室のベッドで眠る青髪の女の子を見ながら保健室の先生のアルトが呟く。一つ結びされた腰まである長い髪を揺らし、ベッドから少し離れた所にある椅子に座ると足を組み、女の子の側にいるシアを見た

「シアさん」

 と、ため息混じりにアルトがシアを呼ぶ。名前を呼ばれたシアが振り向くと、ミコトも一緒にアルトを見た

「可愛い子猫ばかり拾ってこられては困るのよ」

「えっ?シア、猫を飼っていたの?いいなぁ」

 ミコトが目を煌めかせてシアを見た。その視線にシアは苦笑いで答えつつ目線をそらす。ふと、ベッドを見ると、話している間に目が覚めていた青髪の女の子と目が合った

「目が覚めたの?」

 シアが声をかけると、ミコトが顔を覗き込むように女の子を見た。アルトも椅子から立ち上がり、側に来て女の子の様子を見る

「私の言葉分かるよね?君、名前は?」

 ミコトが顔を近づけ問いかける。ニコニコ微笑み返事を待つミコトから目線をそらすと、シアとアルトもこちらを見ていた。三人の視線から逃れようと少し顔を布団で隠すと、ミコトが隠した顔を見るため、もっと顔を近づけた

「ねぇ名前は?」

「名前……。えっと……ライア」

 恐る恐る小声で応えるライア。その声を聞いて、ミコトが嬉しそうにシアがいる方に振り返る

「シア、ライアだって!」

 ミコトが大声でシアに言うと、アルトがミコトの体を押し退け、ライアのおでこや首もとに触れた

「熱はないわね、起きれるかしら」

 アルトの問いかけにライアがゆっくりと頷く。少し顔を隠していた布団をよけ、アルトに背中を支えてもらいながらゆっくりと体を起こす。ふぅ。と一つ深呼吸をするライアをミコトがニコニコと見ている

「アルト先生、ライアはこの後どうするの?」

「どうするって、お家に返すわよ」

「どうやって?」

「それが分かれば苦労はしないわね」

 今度はアルトがはぁ。とため息をついて、窓から空を見る。ミコトとシアも窓から空を見る。ライアも三人につられるように窓を見る。保健室が少し静かになった時、突然ぐぅとお腹が鳴る音が響いた

「お腹空いたの?」

 と、お腹を擦るライアにミコトが声をかけると、ライアがうんと小さく頷く。すると、ミコトがライアの腕をつかんでベッドから無理やり下ろした

「私もお腹空いたから、一緒にご飯食べにいこう」

「えっ、ちょっとミコト、起きてすぐは……」

 シアの呼び止める声を無視して保健室から去っていったミコト。足元がおぼつかないままミコトに腕を引っ張られるライアを見て、シアも二人の後を追いかけようとシアも走り出した

「シアさん」

 と、保健室の入り口でアルトに呼び止められ、立ち止まると、呼び止めたはずのアルトは机にある紙をパラパラと適当にめくり、一枚の紙を手に取った

。シアがそのままアルトの様子を見ていると、視線に気づいたアルトは椅子に座り、持っていた紙を窓に向けた

「暗くなる前にちゃんと二人一緒に帰ってくるのを忘れずにね」

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