第3話 僕は、みんなの悪霊だ。

僕が笑うと、なぜかみんな怒り出す。

ある時、精神科医の前で、ガックリうなだれて、

声を絞り出して、

「人生なんてつまらないです。」

と、僕が申しあげると、精神科医はなぜか、にこにこしている。

やがて、どんどん、薬の量が減ってきて、

僕の不幸が増すたびに、病気が快方に向かった。

なんでよ?

僕が、どんどん不幸になると、みんなどんどん元気になる。


親友だったH君も、僕が苦しんでいくと、

元気になってきた。

僕は騙されていた。

施設では、僕の文学を応援する者はいない。

それは仕方がないと思う。

施設のカリキュラムを無視して、

孤独に文学を一人で、勝手に、やっているのだから。

でも、書いた作品を、メンバーに、

「読んで下さい。」

と申し出ると、みんな読んでくれる。

しかし、先日、世話人さんが、

「もう、あなたの作品は読みません。」

と言った。僕は途方に暮れた。

グループホームに住んでいる輩は、

全員、僕の不幸が楽しいのか、

全員、僕の邪魔をする。

人の幸せを願うのが、この世の常かと思うのだが、

最近自分が、かわいそうになってきた。


実家の父親は、僕の作品にケチをつけた。

施設外の友達は、僕の作品を全部踏みつけていた。

友達に渡してほしいと頼んでいた作品は、

全部、捨てられていた。

「ちゃんと渡しているよ。」

という言葉は全部うそだった。


作業所の女性管理者のAさんは、僕の作品なんか求めていないという。

僕なんかいなくても痛くもかゆくもないみたいだ。

僕が入院して、作業所に戻ってきたとき、

僕を心配していた人は一人もいなかった。

あんなけ僕は、みんなに気を使っていたというのに。

まるで僕は余計者だ。

みんなに気も止められず。

みんなから嫌われる的だ。

世話人さんにも𠮟られるのは、いつも、僕だ。

僕は、何もしていないのに、僕が罪をかぶる。


家族でも、一番僕が𠮟られた。

でも、実母が、一番闘っていたことを僕は知っている。

父親が、ふざけていて、ノーテンキで、独裁者で、いい思いをしていた。

家事を全部実母に任せ、父親は、テレビばかり見ていた。

実母は、仕事を全部終えると、炬燵に倒れ込んで眠った。

可哀想に、実母は、63歳の若さで、病気で亡くなってしまった。

実母は、働き闘いすぎたのだ。

太く短い人生だった。

実母が亡くなった瞬間、さすがの僕も膝をついて泣き崩れた。

大学病院でのことだった。


あれから18年経った。

父親と僕だけの生活は6年間続いた。

本当に僕には、苦行の6年だった。

僕の家族は父親が一番幸せで、実母と僕と弟はみんな病気に苦しんだ。

父親は、家族3人を犠牲にして、会社で出世したとしか思えない。


先日、父親と会って、会食した。

当たり前の御託なことを得意に語る老人になった父親だ。

それでも、父親には長生きしてもらいたいと思う僕だ。

父親は、自分の事しか考えない。

父親は、僕の気持には気づいていない。

電話をしても、父親は、自分の事しか話さない。

僕は聞いてやるんだ。


こんな苦しみの悪霊の僕でも天国の実母は見守ってくれる。

なぜ、僕が、悪霊なのか?

僕は、ドストエフスキーの『悪霊』が、愛読書の一つだからだ。

なぞらえているんだ。読むと、救われるからね。


今日も全員が、僕をイジメる。

今、ひどい、咳だ―。

みんな、そんなにも、僕の不幸が楽しいのですか?


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