第35話米で晩餐って面白いね
僕たちはパッツパツ・スキニー公爵邸で米を振舞った。
僕はてっきりいつも通りの晩御飯の一品として米を出すのだと思っていたが、いざ公爵邸に着くと立食パーティーのような会場が用意されていた。
使用人の1人に今夜はここでパーティーをすること、大きめなテーブルを1つ米のためだけに使うこと、おかわりの分も合わせてテーブルを5回いっぱいにできるくらい米を調理してほしいことを伝えられた。
正直、規模が大きすぎて戸惑った。
米を振る舞うのに立食パーティーって、貴族が催す米の品評会みたいだ。
そう考えるとちょっと面白かった。
この世界で米を炊くというのはそのくらいの価値があるのか。
それはなんだか嬉しい。
気分が良かったので僕は結構楽しく調理できた。
アリスもそんな僕を見て楽しそうに手伝ってくれた。
手伝うって言っても炊けた米の鍋を運ぶくらいしかすることなかったけど。
なんか、スキニー公爵の娘さんに遊んでもらってた時間の方が長かった気がする。
遊ぶって言っても庭で追いかけっことか娘さんをおんぶして駆け回るような物だった。
正直、怪我させそうで怖かった。
使用人さんも怖かったみたいで僕に何度も大丈夫か聞いてきた。
アリスといると無駄にヒヤヒヤさせられる。
そういえばウラギは、奥さんに化粧品の話をしていたらしく米の調理がだいぶ進んでから顔を見せた。
来る時は手伝うとか言って癖に。
まあ、そんなこんなで調理が終わったらパーティーが始まった。
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僕はスキニー家の専属料理人が準備してくれた品々を堪能していた。
さすが美食家と言われるとこの料理人。
どの料理もクオリティが高かった。
これだけでわざわざ王都に来た甲斐があったと思えた。
ただ、料理人の1人にレシピを聞こうとしたら断られてしまった。
そうやら公爵直々に勧誘された僕のことをライバル視しているらしい。
まあ、そんなもんか。
なんて考えているうちにスキニー公爵がやってきた。
「やあ、クック君。この米最高だよ。本当にありがとう。」
なんか口調が変わっていた。
随分ラフな感じになったな。
「気に入っていただけたのならよかったです。」
「はは、そう言うのいいから、私の元で働く件はどうする?ぜひ来て欲しいな。」
そうだった、ちゃんと断らないと。
なるべく怒りを買わないように。
「その件ですが、お断りさせてください。」
僕は深々と頭を下げた。
「そっか〜。残念。どうしてか聞いていい?」
なんか思ったより軽いな。
まあ、怒ってないのならいいか。
「僕は今、一流の料理人になるための修行の旅をしているんです。確かに、今すぐ料理人として働ける環境というのはありがたいですが、僕は様々な文化やニーズを学んでもっと料理に関する見識を深めてから料理人になりたいんです。いつか自分の店を出したいと思っていて、この世界のありとあらゆる美味しいものと僕が考えた美味しいものを出せる。そんな店にしたいんです。」
「そっか〜。確かにそれは君にとって大切なことだね。でも、貴族のとこで料理人をする経験も悪くないと思ったら私に声をかけてよ。私のとこで働いてもいいし、他の貴族のもとで働きたいなら協力するよ。」
本当に?そこまでよくしてれるの?
すごく嬉しかった。
「はい。そのときはよろしくお願いします。でも、いいんですか?他の貴族様のところで働いても?」
「ちょっと嫌だけど、私以外の貴族ももっと食に関心を持つべきだと思ってるから、いいことにするよ。それにその時は私から人材を貸し出すって形を取るから大丈夫。」
確かにそれならいいか。
今日も何人か貴族が招待されてるから他の貴族に食に興味を持って欲しいというのは切実な願いなのだろう。
てか、今日決まったことなのになんで招待客がいるんだろ。
後で聞いてみたら、どうやらこの日はスキニー公爵家でなんか政治に関する会議があったのだとか。
もしかしてウラギはこのことを知っていてこの日を狙ったのか?
本当に侮れないヤツ。
そんな感じでスキニー公爵と話し終えるとアリスが娘さんを連れてやってきた。
「あの。クックさん?アリスさんってとってもおもしろい方ですね。」
アリスは満更でもなさそう。
「そうですか。ありがとうございます。お嬢様も楽しそうでなによりです。」
「あっ、そういえば、私がどこで米の噂を聞いたかわかります?」
どうしたんだ?急に。
「王都にも米の噂が広まっているというのはウラギから聞いております。お嬢様もそれで知ったのでは?」
「いいえ、そうではありません。」
なんかドヤ顔された。
アリスも真似してドヤ顔してるし。
てか、アリスのドヤ顔って煽り性能すごいな。
「では、どこで?」
「お友達に聞いたんです。」
「お友達?」
「はい、エミ・ブバルディアさんというエルフの方です。私が小さかった頃、森で迷子になったところを助けてもらってそれ以来すごく仲良くしていただいているんです。」
「そうだったのですか。素敵なご友人ですね。」
「はい。だから、もしエミさんに会うことがあったら米をご馳走してください。彼女も気になっていたようですので。」
「わかりました。エミ・ブバルディアさんですね。覚えておきます。」
「お願いします。桃色の長い髪と金色の瞳が特徴のエルフの方です。」
なるほど。
ちゃんと覚えておこう。
僕にこのチャンスが巡って来たのはその人のおかげだから。
こうしてパーティーは終わった。
ちなみに、米に1番ハマったのは奥さんだった。
買い占めろって聞かなくて大変だった。
こうして、貴族への謁見は僕の想像を遥かに超えた大成功に終わった。
そういえば、スキニー公爵の口調が変わったのは、元々あれが素だけど謁見の間では舐められないように高圧的に接していたのだそう。
貴族も大変なんだね。
でも、一息つく暇なんてない。
ナカド学術学園の件に、リベンジ商会に行く件、あと、エミ・ブバルディアというエルフの件。
まだまだやることはたくさんある。
明日からも忙しくなるぞ。
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