第34話ウラギの思い

僕たちはパッツパツ・スキニー公爵へのお目通りを終わらせた。

今は一休みするためウラギが事前に取っていたと言う宿に向かってる。

当初の目的である貴族に取り入るというのは達成したと言って良いだろう。

しかし、公爵家の臣下にならないかと勧誘されてしまった。

僕としてはそこまでする気はなかったんだけど。

スキニー公爵の口ぶりからして、おそらく僕を料理に関する役職に就けようとしているのだろう。

また、冒険者としての実績を考えて、もしものことがあったときには戦力としても見ることができる。

確かに公爵の立場からすれば僕は良い人材なのだろう。

そういえば、ウラギもあんなに僕を褒めるからこんなことになったのだ。

ちゃんと説明してもらおう。

「ねえ、ウラギ。なんで公爵たちの前で僕をあんなに褒めたの?あれのせいで僕は公爵家に勧誘されたと思うんだけど。」

「それについては宿でゆっくり話させてくれ。まだ昼過ぎだから晩飯を振る舞うまでには余裕がある。」

わざわざ宿で話をするなんて、どうしたのだろう。

随分とかしこまった様子だし、結構反省してるのかな。

僕としては反省してるのなら許すつもりだし、断るときに少し手伝ってくれればそれでいいと思ってる。

とりあえず、話を聞こうか。

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僕たちは宿に着いた。

この話は僕とウラギのことだから、アリスには一旦自分の部屋で待ってもらうことにした。

アリスは構って欲しそうだったけど、お菓子を渡したら嬉しそうな様子で受け入れてくれた。

僕とウラギも部屋へ向かった。

ウラギは部屋に荷物を置くと僕の部屋に来てすぐに話し始めた。

「公爵家でのことだが、俺はお前を公爵家の料理人として雇ってもらうように仕向けた。別に調子に乗って話しすぎたわけじゃないし、俺はこれを狙った。」

どういうことなのだろう。

ウラギは僕の夢を理解しているはずだ。

これまでの態度からしても、今更僕を貴族に売り渡すなんてしないだろう。

もっと話を聞く必要がありそうだ。

「どういうこと?ウラギは僕が料理人になりたいって知ってるよね。それに、僕は一応リベンジ商会と専属契約をしているはずだ。そんな簡単に貴族に売り渡すようなことして大丈夫なの?」

「もちろんお前の夢は理解してる。そのために必要な冒険をしていることも。俺だってそれを諦めろなんて言うつもりはない。だが、サド洞窟の件で少し考えが変わったんだ。」

「と言うと?」

「もともと、お前は優秀な奴だと思っていた。てか。今もそう思ってる。だが、お前は優秀すぎる。料理研究家として優秀なのは別に構わねえ。でも、冒険者としての実力もあるし、洞窟病の件を考えれば学者としても第一線を張れると思う。これらの根幹はお前の脳みそだ。はっきり言って、お前の脳みそはこの世界を変えるだけのポテンシャルがある。いや、もしかしたらこの世界を変えるなんて簡単に思えるほどかもしれない。」

なるほど。

つまりウラギは僕のポテンシャルが高すぎて放っておくことを危険に思ったのか。

それで、僕を貴族の元で働かせることによって行動を制限させる。

これが目的かな。

「つまり、ウラギは僕を危険視してるってこと?」

「まあ、それもあるが、それ以上に俺はお前のことを思ってこうしたんだ。」

僕を思って?

どういうことだろう。

「どういうこと?」

「お前の力が世に知れ渡ればいろんなやつがお前を利用しようとする。それは俺みたいに金を稼ぐために専属契約するとかならまだいいんだが、人によっては戦争や犯罪に巻き込むような方法でお前を利用すると思う。それはお前にとって悪いことでしかないはずだ。そんなことになって欲しくないから、信頼できるスキニー公爵の元で働いてもらおうとしてんだ。」

なるほど。

確かに、ウラギの言う通り僕を悪いことに利用しようとする人は今後現れる可能性がある。

必要悪って言うのかな。

ウラギが僕のことを考えてあんなことをしたのはわかった。

でもそれは僕にとっては嫌なことだ。

難しい問題だけど、僕の夢は変わらない。

それはわがままなのかもしれない。

でも、どんなに愚かだとしてもそれが僕の答えだ。

僕のこの力は僕の夢を実現させるためにあるんだ。

何がなんでも実現させる。

自己満でもいいし、結局夢の先に幸せがなかったとしてもいい。

そのくらいに思える夢なんだから、大切にしたい。

もともと一度終わった人生なんだ。

それもかなりひどい形で。

今世で何も手に入らなくても、悪いように利用されたとしてもそれは前世の僕の行いに対する罰だと思う。

「ウラギの気持ちはわかった。でも、僕は自分の夢を追う。僕を悪いように利用しようとする人がいるならどんな手を使ってでもねじ伏せる。」

「そうか。お前がそう言うのなら俺はこれ以上止めねえよ。だが、納得はしてねえ。俺はこれからもお前を悪用されないために俺のすべきことをする。たとえそれがお前の邪魔になってもやめねえ。お前に嫌われてもやめねえ。俺が見込んだ男はパンドラの箱だったんだ。一度開けちまった以上命をかけてでも管理しないとな。」

パンドラの箱は失礼じゃないか?

まあ、和解と言っていいのかはわからないが、とりあえずこの話はこれで終わりだ。

これから公爵家で晩御飯を振る舞うことになっているしそろそろ準備をしよう。

今夜、公爵の提案も断ることにしよう。

怒りを買うかもしれないが、丁寧に説明しよう。

というかアリスが娘さんに気に入られてるからそれを上手く使えば穏便に済ませられるかも。

「じゃあ、そろそろスキニー公爵のところに向かおうか。」

「そうだな。公爵は美食家で知られてるが、米はきっとあの公爵の口にも合うと思うぜ。」

「そうだといいね。」

アリスを呼びに行くとアリスはドレスのままお菓子を食べていたようで悲惨なことになっていた。

僕は慌ててアリスの服の食べかすを払って部屋を掃除する。

ウラギはそれを見て笑っている。

これがいつも通りの僕たちだ。

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