第33話さっそく貴族に取り入ろう

僕たちは今、パッツパツ・スキニー公爵に謁見し、その奥さんや娘さんに米のことを教えようとしていた。

そんな中、娘さんがアリスに興味を持ちアリスと遊びたいと言ったところアリスは四足歩行の魔獣特有の服従のポーズをとった。

ドレス姿で。

「あ、あの、そんなにスカートの中を見せつけてどうしたいんですか?」

娘さんは困惑している。

「な、なんと破廉恥な!これは仲良しの印です。」

アリス、お前何言ってんだ?

ドレス姿でそんなポーズをするのがそもそもおかしいし、公爵家のご令嬢に向かって破廉恥なんて言ったらダメだよ。

てか、破廉恥なんて言葉知ってたんだ。

「アリスさっきのところに戻って。」

「はい。」

僕が戻るように言うと、ちょっと元気なさそうに答えて戻った。

「申し訳ございませんでした。アリスは魔獣なので人間のマナーに疎いのです。ましてや普段一緒にいるのが私のような平民ですので貴族様のしきたりなど全く知らないのです。」

「ああ、そうだな。少しばかり驚いたが、魔獣が人間のマナーを知らないというのは仕方ないことだ。それに私たちも急に呼んだのだ。これくらいのことで咎めるようなことはしないでおこう。」

「私もちょっと驚きましたがもう大丈夫です。気になさらないでください。」

よかった。

公爵と娘さんは許してくれた。

だが、奥さんが喋らないのは気がかりだ。

「それでは米の話をさせていただきます。」

僕は米のことを話した。

作り方、見つけた過程、これは研究をしたと嘘をついたけどこれくらいはいいよね。

リベンジ商会が独自の基準で米を売ることに協力すること。

公爵と娘さんは興味深そうに聞いていた。

奥さんは相変わらずあまり表情を変えなかった。

もしかしたら、奥さんには悪い印象を与えてしまったかも。

一通り話終わると、娘さんが質問してきた。

「米は何と食べても美味しいと聞きましたがそれは本当ですか?」

「何と食べてもというと少し言い過ぎかもしれませんが、さまざまな料理に合うことは確かです。」

「それは楽しみですわ。米自体の味は変わらなくても飽きることなくに食べられるのですね。実は、最近パンに飽きてしまっていて他のものが欲しいと思っていたのです。」

「飽きた?何を言ってるのだ。あのパンはジャポネー王国でいちばんのものだぞ。」

スキニー公爵はそう言ったが、多分そういう問題じゃないんだろう。

いくら美味しいものでも毎日同じだと飽きちゃうよね。

「お父様。そういうことではありませんの。毎日同じだといくら美味しくても飽きてしまいますの。」

「毎日同じ?何を言ってるのだ。その日の分はその日に作るようにしているのだ。その日の気温や湿度によって味は全然別物になっているではないか。」

そんなことわかるのかよ。

プラシーボ効果の類とかだと思うけど、これが美食家と言われる所以なのだろうか。

「2人とも、客人の前で言い争うのはやめてください。」

奥さんが久しぶりに口を開いた。

「ああ、そうだな。すまなかった。」

「私も少しみっともないところを見せてしまいました。申し訳ありませんでした。」「いえいえ、お気になさらず。」

「ところでクックさん。私からも一ついいですか?」

奥さんは僕に尋ねたいことがあるようだ。

奥さんからは少し警戒されているようだしなるべく好印象を与えられるようにしなきゃ。

「はい。僕に答えられることなら。」

「そうですか。それでは単刀直入に聞きます。アリスさんはあなたにとても懐いているようですが、いくら恩義を感じたと言っても魔獣が人間に簡単に懐くとは思えません。もしかしてあなた、かなり腕が立つのではないですか?」

なるほど、確かに魔獣を従えるのはそれなりに強さが必要だというのは常識だ。

今まではさっきまでの説明で納得してくれる人が多かったけど、この人は違うようだ。

相当警戒しているのだろう。

「私は、今はCランク冒険者です。ありがたいことにBランクへの昇格のお話をいただいたこともあります。」

「そうですか。米の研究のお話を聞いた時はかなり頭の良い方なのだと思いましたが、冒険者としてもBランク近い腕があると。とても優秀なのですね。」

ん?

なんか褒めてきた。

どういうテンションなのだろう?

「ありがとうございます。」

「それについては私からもお話ししたいことがあります。」

ウラギが口を開いた。

「聞きましょう。」

「このクック・フレリアンという男は冒険者としても一流のポテンシャルがあると思います。」

ちょっと、何言ってんの?

「ほお、面白いですね。詳しくお聞かせ願います。」

「はい。実はここに向かう途中、サド洞窟というダンジョンの調査をしている一団と会いまして、調査に協力してところ、フレアゲータに遭遇しました。詳しいことは話せませんが、その戦いでは彼の活躍により討伐することができたと言っても過言ではありません。さらに、彼はその場で洞窟病の解明の手掛かりとなるような仮説を立て今論文を作成しています。」

「なるほど。実力は申し分なくとても賢い。話を聞く限りクックさんはたいそう優秀な方なのですね。それにまだ15歳。恐ろしいくらいです。」

これはまずい。

僕はこんな形で目をつけられたいわけじゃないのに。

「確かに、こんな逸材、世界中探してもそうそういるものではない。」

公爵までそんなことを言い出した。

「あなた。彼を私たちの臣下にできないかしら?」

「確かにそれは良い案だ。どうだね?クック君。」

この質問断りづらすぎる。

ナカド学術学園の件もあるし、即答はできない。

「今ここでは決めかねます。しばしお時間をいただけませんか?」

「ああ、もちろんだ。よく考えて決めなさい。良い返事を期待しているよ。」

ちょっと、そんなこと言われたら余計断れないじゃん。

「私も楽しみにしていますわ。」

娘さんまで。

そんな純粋な笑顔で言われたらさらに苦しくなる。

本当にどうすればいいんだよ。

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