第32話謁見

僕たちは今、パッツパツ・スキニー公爵家の謁見の間の前にいる。

公爵に気に入られるかは今後の僕の料理人への道に大きく影響する。

緊張する。

でも、それ以上にアリスが失礼なことをしないかが心配だ。

いつの間にか僕はアリスを気にかけずにはいられなくなってしまったようだ。

それもしょうがないか。

本当のペットみたいなんだもん。

「ウラギ・リベンジ殿御一行が謁見に参られました。」

城の従者がそう言うと謁見の間の無駄に大きくて派手な扉が開いた。

正面にはスキニー公爵が座っている。

僕たちは従者の案内に従ってゆっくりと前に進んだ。

スキニー公爵の近くに着くと跪いて頭を下げた。

「よろしい。面をあげよ。」

「お久しぶりです。スキニー公爵。リベンジ商会の遣いとして参りましたウラギと申し上げます。ご健勝の事とお慶び申し上げます。」

驚いた。

ウラギがこんな言葉を使えたなんて。

「それでそちらの者は?」

早速僕たちのことを尋ねてきた。

なんか気難しそうな感じの人だ。

でも、アリスを見ても何も言わないあたり良識はあるのだろう。

「はい。彼らは以前紹介した米の新たな食べ方を発見した者たちです。」

やはり、僕たちに会う前に連れてくるって言っていたようだ。

「そうか。元は私の娘が米に興味を持ったのだが、噂を聞いているうちに私も気になってしまったのだ。そこで、今日のディナーで振る舞ってもらいたい。どうだ?」

いきなり結構なことを言う。

失敗するかもとか、口に合わないかもとか考えないのかな。

ウラギは僕に目配せする。

了承しろってことだろう。

もちろんそれ以外の選択肢はない。

「光栄です。謹んでお受けいたします。」

「よし。それではここからは娘や妻も同席させる。そこで米のことを聞かせてもらいたい。しばし先程の部屋で待っておれ。ああそうだ、次のはあくまでも個人的に聞きたいことがあるだけだ。今ほどかしこまる必要はない。」

こうして謁見は終わった。

思ったよりあっけなかった。

もっと時間がかかると思っていたけど、あっという間だった。

もしかしたら、次の娘さんも参加する方がメインなのかも。

僕たちは応接室に戻った。

「ねえ、ウラギ。次はそんなにかしこまらなくていいって言ってたけど、実際どうなの?」

「まあ、最初の挨拶はかしこまっておいて、それであっちが同じようなことを言ってきたらその時は少し崩した態度にしてもいい。」

「わかった。でも、アリスはさっきのままでいてね。」

「なんでですか?」

「アリスはどのくらい崩した態度でいいかわかる?」

「わかりません!」

「じゃあ、さっきのままの方が安全だ。」

「わかりました!」

本当に元気だな。

この性格が伝われば公爵にも気に入られるかも。

本当、愛想がいいって得だよね。

「準備ができました。謁見の間までお越しください。」

従者の人に呼び出された。

正直、僕にとってもここからが本番だ。

公爵本人に気に入られるより、娘さんに取り入る方がきっと簡単だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕たちは再び謁見の間に入った。

さっきと同じ手順で跪いて頭を下げた。

「よい。面をあげよ。」

顔を上げると娘さんと奥さんがいた。

娘さんは僕と同じくらいか少し年下くらいだろう。

アリスの方を見ているけど、やっぱり気になるのかな?

奥さんはとても綺麗な人だった。

上品で落ち着きがある。

さすが貴族だ。

ウラギの方を見ているけど、どうしたのだろうう。

「お久しぶりです。リベンジ商会の遣いとして参りました。ウラギと申します。奥様もお嬢様もお元気そうで何よりです。」

どうやらウラギはこの2人にも顔が通っているようだ。

やっぱり商人の顔の広さってすごいね。

「もっと楽にしてよい。これは一応、非公式のものだ。」

「ははっ。ありがとうございます。」

「それでウラギさん。本題とは関係ないのだけど、またあなたの商会の化粧品を売ってくださる?とても使い心地がいいの。」

なるほど。

さっきから奥さんがウラギを見ていたのは化粧品を買いたかったからなのか。

確かにリベンジ商会は品質の良いものがたくさんあるし、きっとお客さん一人一人に合わせて化粧品も選んでいるのだろう。

「もちろんです。ありがとうございます。」

「じゃあ私からも質問を。クックさんでしたか?米は美味しいのですか?」

娘さんが僕に聞いてきた。

「はい。私は美味しいと思いますし、今までご馳走した方にはありがたいことに好評をいただいております。」

僕が言い終えると娘さんの目がキラキラしていた。

「それは楽しみですわ。今晩振る舞ってくれるのでしょう?」

「はい。ありがたいことに今晩、米を振る舞わせていただく運びとなりました。」

「あ、あの、それでもう一ついいですか?」

娘さんは少し戸惑ったような様子で僕に聞いてきた。

「はい。どうしましたか?」

「そのお隣の子は魔獣ですか?」

アリスのことが気になっていたのか。

まあ、きっと温室育ちだろうから初めて見る魔獣が怖いのだろう。

「はい。この子はアリスと言います。以前マナシヤの森で倒れているところを拾ってそれ以来共に旅をしています。」

「人を襲ったりはしないのですか?」

やっぱ、気になるよね。

「はい。私に恩義を感じているようで、僕の言いつけはちゃんと守ってくれます。それに最近は人と触れ合うのが楽しいようです。」

「私とも遊んでくれますか?」

あ、そっち?

てっきり怖がってるんだと思ってた。

アリスの方を見ると目を輝かせてる。

よかったね。

遊んでもらえそうだよ。

「はい。アリスもお嬢様に構ってもらって嬉しいようですよ。」

「それはよかったです。アリスさん。一緒に遊びましょう。」

そう言われるとアリスは勢いよく娘さんのところまで行って服従のポーズをとった。

こいつ、やりやがった。

「私もあなたと遊びたいです。これは仲良しの印です。」

「えっと、スカートの中を見せつけるのがですか?」

娘さんは明らかに困惑している。

周りの人たちも困った様子だ。

本当にすみません。

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