第30話洞窟病

僕たちは急いで地上に向かった。

僕は気づいたのかもしれない。

いや、気づいてしまったのかもしれない。

洞窟病の正体に。

僕の予想が正しければ、洞窟病とは一酸化炭素中毒だ。

洞窟という狭く空気の通りが悪い場所で火魔法を使うことによって一酸化炭素の濃度が高くなる。

それによって一酸化炭素中毒を起こし、死に至ることもある。

こういうことなんじゃないかな。

僕は正直がっかりした。

未知の病との遭遇、そしてその解明を目指す僕。

そんなシチュエーションに期待していたのに。

でも、僕にとっては理解できることでも、この世界では全くの新しい概念だ。

魔素だって、分子になっていること。

それを体外に放出するときに魔法になるってことがわかったらしいが、元々体内をめぐる何かを放出しようとしたときに魔法になるという体験を元にした推測に過ぎない。

言ってしまえば、論理的な根拠や、観察に基づく確実な証拠はない。

そんな世界で一酸化炭素中毒をそうやって説明すればいいのだろう。

上手い説明の仕方を考えているうちに僕たちは地上に到着した。

「おかえりー。」

「お帰りなさい!」

アリスたちは随分と楽しそうだ。

一応、こっちに調査員を迎えに来る可能性があったんだけど、ちゃんと準備してたのかな。

まあ、とりあえず返事をしておこう。

「ただいま。」

みんなが一息ついたところでウラギが僕に聞いてきた。

「それで、こんなに急いだ理由を教えてくれよ。」

やっぱそうだよね。

どう説明しよう。

難しいところを省いて正直に説明するのがいいんだろうけど、どこまで省けばいいのかわからない。

「もしかしたら洞窟病の原因がわかったかもしれない。」

「本当ですか?ぜひ聞かせてください。」

調査員が食いついてきた。

そりゃこの人たちにとっては世紀の大発見だもんな。

「えっと、物を燃やすときに煙が出るじゃないですか、」

「はい。それが何か?」

「その煙が人体に悪影響を及ぼす物である可能性が高いんです。実際、煙を吸うと咳き込むことがあると思います。」

「確かに。ですが、それがなぜ洞窟でだけそんな危険なことになるのでしょうか?普段は物を燃やしてもなんともないでしょう。」

「それは洞窟がある程度密閉された空間だからです。地上で物を燃やす分には煙は上へいくと思います。」

「なるほど。洞窟は上が閉ざされているから煙の逃げ場がない。そして我々がその煙を大量に吸ってしまい体調不良や最悪の場合死にいたる。そういうことですね。」

「その通りです。」

さすが学者。

理解が早くて助かる。

「でも、なぜクックさんは物を燃やすときの煙が人体に有害な物だとわかったのですか?」

「それは僕が料理の研究をしているからですよ。肉とか魚とか焼くことは多いですから。いつだったかは忘れましたが焼いた後の煙を吸って、むせてしまったことがあるんですよ。」

「なるほど。料理の研究から。やはり物事は色々なところで繋がっているのですね。勉強になります。」

「いえいえ、僕もたまたまそういう経験をして、それが洞窟病と繋がっただけですので。それにまだ仮説の段階ですし。」

「そうだとしてもこれは大きな進歩です。」

「ありがとうございます。」

「ところで、料理の研究をされているのですよね?」

「はい。」

「ナカド学術学園に来る気はありませんか?」

「はい?」

「あなたのような才能を簡単に見逃すことはできない。ぜひ我々の元で研究をしてみませんか?」

これは僕的にはすごくいい提案だ。

ナカド学術学園ならこの世界の最高の設備が揃っている。

でも、やっぱり懸念もある。

「ありがたい話ですが、いいのでしょうか。僕はまだ15歳ですし僕より年上の生徒さんもいらっしゃると思うのですが、そういう人たちは僕をあまり良く思わないでしょうし、それに僕は今、料理の研究の一環として各地を旅して回っているところです。あまり学校の中にいられません。何よりアリスが僕の元を離れようとしないので学校の中に連れ込むことになってしまいます。」

そう、これらは重大な問題だ。15歳の庶民が研究家として世界最高峰の学校に入学。

そして、そいつはあまり学校に顔を出さない。

僕をよく思わない人は多いだろう。

アリスに関しては、やはり魔獣となると警戒する人がいるだろうし、モンペみたいな人がいたらどうしよう。

当のアリスは寝てる。

こいつ野生を忘れてるんじゃない?

「でしたら、洞窟病の論文を書けばいいのでは。そうすれば皆あなたを認めると思いますよ。」

それはいい話だが。

「いいんですか?あなた方も洞窟病の研究をされておるのでしょう?」

「まあ、見つけたのはクックさんですし。優秀な人材を逃すわけにはいかないのでここは譲りますよ。その代わり今後他の研究者よりも贔屓にしていただければと思います。」

確かに理にかなってる。

でも今すぐ結論を出すような問題じゃない。

「検討します。僕たちはこの後王都へ向かうのでそのときにナカド学術学園を訪ねて返事をさせてください。」

「わかりました。ごゆっくり検討してください。」

調査員や鋼鉄のばれいしょの人たちはこの後報告書作りとか色々事後処理があるそうなのでここで別れた。

僕とウラギとアリスは馬車で王都に急ぐことにした。

アリスは馬車に乗るのをすごく嫌がったけど、寝てればいいからと説得して乗せた。

アリスが眠ると馬車の中でウラギが話しかけてきた。

「お前、やっぱただもんじゃねえな。」

「そんなことないよ。今回のは本当にたまたまだから。」

「だとしてもお前がやってることはすごいことだ。だが、おそろしいいことでもある。お前は今後生きてるだけで敵を作ってしまうかもしれない。」

なんだかウラギの口調が深刻そうだ。

「ウラギ?」

「まあ、優秀すぎる契約者も困ったもんだってことだよ。」

いつもの口調に戻った。

なんだったのだろう。

まあ、気にしなくていいや。

そんなことより、王都のことだ。

貴族にあって、できれば好印象を持たせたい。

それにナカド学術学園に行く件も考えないと。

人生初の王都はかなり忙しくなりそうだ。

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