第28話冒険者の日常
夜が明けて、僕たちはダンジョンの中に入ることになった。
高位の魔獣が発見されたと言っていたが、確かに初心者向けのダンジョンにしては強い魔獣が多いと感じた。
と言っても、僕たちにとっては余裕があるくらいの魔獣だ。
まあ、僕たちには氷虎族のアリスがいるから基本的にどんな魔獣も格下に見えてしまうのだが。
当のアリスは魔法の練習をしながら戦っているくらいには余裕があるようだ。
ただ、やっぱりまだ魔法の制御が完全じゃないからたまに味方にも当たりそうになっている。
ダニエルやジャイアント・ジュニアはまだいいとしてリサやナナは防御が心もとないから僕が守ってないといけない。
「キャー。」
「アリスちゃんこっちじゃないよー。」
ほら、こんな感じ。
アリスと2人で旅をしていたときはアリスが大暴れして僕が周りの地形の修復やアリスの過剰な攻撃を抑えるというのが基本の戦闘スタイルだったから、慣れてはいるんだけどね。
一段落すると調査員の人が現状を報告してきた。
「今のところ、普段はもう少し奥にいるはずの魔獣が散見されます。やはり、奥の方に高位の魔獣が出現したと考えるのが妥当でしょう。」
「そうか、俺たちならその魔獣の討伐、少なくとも特定ぐらいはできると思いますが、もう少し潜ってみましょうか?」
ダニエルはみんなの判断を仰いでいる。
僕としてはそれでもいいのだが、この先はより狭くなってるからアリスを連れて行くのは少し心配だ。
「そうですね。我々としてはそうしていただけるとありがたいのですが、いかんせん調査員の数が多いですからこの先もっと洞窟が狭くなっていくと危険でしょう。」
それもそうだ。あまり狭いところに大人数で行くのは得策じゃない。
今僕たちは僕、ウラギ、アリス、鋼鉄のばれいしょの4人、調査員10人で合計17人。
流石に奥まで行くのはリスクが大きい。
「じゃあ、この中から奥へ行くメンバーと地上に戻って資料を作るメンバーに分かれればいいんじゃねえか。」
ウラギがそう提案してきた。
確かにそれはいい。
「ですが、連絡はどうしますか?」
「それなら問題ない。俺が連絡用の魔道具を持ってるぜ。」
ウラギはなんやかんや有能だ。
「そうですか。ではそれでいきましょう。それで、誰が奥に進みますか?」
「そうだな。あまり人数はかけられないから、調査員は2人、冒険者は3人の計5人にしよう。」
「わかりました。」
そいうと調査員はさっさと2人決めてしまった。
「じゃあ、冒険者は俺が行こう。」
ダニエルが手を挙げた。
まあ、そうだよね。
「じゃあ、あとは俺とクックにしよう。」
え?なんで僕?
「僕?」
「ああ。アリスは狭いところは向いてねえし、ジャイアントは体がデカすぎる。男4人の中に女1人ってのは、ちょっと可哀想だし消去法でお前だ。」
こいつ、最初から僕を向かわせるためにこの人数設定にしたな。
「わかったよ。じゃあアリスは上でいい子にしててね。もし魔獣が襲ってきたら魔法を使わずに倒してね。」
「わかりました。」
僕がいない以上アリスに魔法を使わせることはできない。
危険だからね。
「それじゃあ、私たちは上に行きましょう。」
「アリスちゃん。上でいっぱい遊ぼうね。」
「はい。」
そんな感じでアリスたちは上へ戻った。
アリスは終始尻尾をブンブン振っていた。
僕たち5人は洞窟の奥を目指す。
出現する魔獣は奥に行くほど強力になっていった。
別れてから30分くらい進んでようやく最下層に入ったが初心者向けの魔獣はとっくに出現しなくなっていた。
僕たちなら対処できたけど、Cランクパーティーとかが適正かも。
あれ?僕ってCランク冒険者だったよね。
これは王都に行ったら昇格の話が始まりそうだ。
まあ、うまく受け流してCランクを維持しよう。
「やはり、全体的に魔獣が強くなっていますね。これじゃあとても初心者向きとは言えません。」
「そうだな。適性ランクはCってとこか。この先にいる魔獣次第ではBランクもありえるぜ。」
「そうだね。もしそうなったとき、俺たちも調査員さんを守ってる余裕はないかもしれません。」
「大丈夫。そのときは僕がお二人を連れて地上まで逃げます。ここに来るまで魔獣は倒してきましたし、もしまだ残っていたとしても今まで出てきた魔獣なら僕でもなんとかできます。」
「わかりました。そのときはよろしくお願いします。」
よし。
これで違和感なく自分はそんなに強くありませんアピールができた。
実際、この道を2人護衛しながら帰るくらいならCランクでも可能な範疇だ。
「それもいいが、お前は魔力量が多いんだからイレたちのサポートでもいいじゃねえか。」
こいつ、まためんどくさいことを。
「でも、2人の安全が第一だよ。」
「だったら、そのときはリサとナナに来てもらおう。連絡用の魔道具もあるからすぐに来てくれる。」
ダニエルがそう提案した。
別にシンプルでいいんだって。
「そうだな。おーい。聞こえてたか?」
「はいはーい。そのときは任せて。」
「私たちが調査員さんを迎えに行きまーす。」
「え?お二人が戦うんじゃないんですか?」
「え?クックさんが戦うんでしょ?」
「そうですよ。私たちは調査員さんの護衛です。」
「決まりだな。クックより2人の方がランク的にも人数的にも護衛に適してる。」
「ごめんね。クックさん。でも、もしもの時はジャイアントにも来てもらおう。」
まあ、いいか。
サポートをすればいいだけだし。
そもそも、そんな危険な魔獣が出ると決まったわけじゃない。
「わかった。そういうことにしよう。」
「ああ。そろそろ気をつけろよ。ダンジョンボスが近い。」
明らかにボスがいそうな部屋に近づいてきた。
なんだか暑いような気がするし。
それにしても、洞窟病については何も進展がないままだ。
せっかく最深部まで行くのだ、何かしら手掛かりになるようなことを見つけたい。
実は前世にはない病っていうのが異世界って感じがして少しワクワクしてたんだよね。
僕はこの世界に来てから知識が広がっていくのが楽しいと思うようになっていた。
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