この世界には魔法がある。

魔法と言えば黒歴史を思い出させるよな魔法陣やかっこいいような難しいような詠唱をイメージするかもしれないけど、この世界には魔法陣は存在しない。

詠唱についてはあるにはあるんだけど僕は使ってない。

魔法は体内の魔素を放出するときに起こる現象だ。

将来的には科学で解明できると思うんだけど、僕が魔法研究について行き詰まっているのは魔法には明確なイメージが必要だという基礎中の基礎だ。

魔法とは体内から物質を放出する行為だ。

言ってしまえば呼吸とかと一緒。

なのに明確なイメージが必要。

ここがよくわからない。

詠唱はこのイメージするという行為において重要だ。

僕みたいに詠唱なしでも魔法を出せる人というのはイメージする能力が高いということなのだろう。

少数派ではあるが、別に珍しくはない。

そして、重要なのは詠唱はイメージに必要なだけだということ。

だから、決まった文言なんてない。

例えば火球を出そうとするとき、ファイヤーボールといってもいいし、火の玉とかでもいい。

極論を言えばウォーターボールって言いながら火球を放つこともできる。

つまり、詠唱は人によって変わるのだ。

まあ、大抵はファイヤーボールとかそいうシンプルなのが多いが、たまにものすごいイタイ詠唱をする人もいる。

前見たのだと、漆黒の獄炎って言いながら初級の回復魔法を使っている人がいた。

震えたよね。

まあ、そういう人たちの気はしれないが、詠唱を見ればその人がどんな人かちょっとだけわかるから面白い。

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僕たちは今、ダンジョンの探索に誘われている。

「えっと、僕たちは今王都に…」

「いいんじゃねえか。ちょっとくらいなら時間もあるし。」

僕が断ろうとしたところを遮ってウラギが了承してしまった。

おい。

お前が早いほうがいいって言ったんだろ。

「ちょっとウラギ、僕たち急いでるんじゃなかったの？」

「いいじゃねえか。もし来る途中でついでにダンジョンの調査に協力してきました、なんて言ったら、きっと只者じゃないって思われるぞ。」

どうやら、僕が冒険者としても実力がある、というのを１つのPRポイントにしたようだ。

余計なお世話だよ。

僕は料理人を目指してるの。

とは言っても、もう断れる雰囲気じゃないし諦めよう。

「わかったよ。では、そういうことで鋼鉄のばれいしょの皆さんも、調査員の皆さんもよろしくお願いします。」

「お願いします！」

こういう時アリスは元気に乗っかってくれるから僕のテンションの低さを誤魔化せていい。

愛想がいいって本当にお得だよね。

「そうですか。ありがとうございます。一応、我々はジャポネー王国のナカド学術学園の研究員なんです。ですから、報酬はそれなりのモノをご用意させていただきますね。」

驚いた。

ナカド学術学園。

学術国家として知られているジャポネー王国の中でもおそらく1番の名門だ。

国家直属の学校で、各国から優秀な人材が集まっている。

この学園の図書館は別名世界の叡智と呼ばれている。

世界の叡智って、みたいに思うかもしれないが、てか僕もそんなふうに思っていたことがあるが、実際とんでもないところだ。

人が3万人くらい入れるほど大きくて、その大きさでも図書館と別に書庫を用意しなければならないほどの文献がある。

この世界の全てを知れると言っても過言ではない。

まあ、科学とかそういうのはまだ前世の方が発展してたけど。

僕もこの学校の論文には度々お世話になった。

それに結果論だけど、ナカド学術学園とのコネができたのは大きい。

僕を料理研究家として広めてもらえるかも。

「ああ。俺たちからも改めてよろしくな。」

ダニエルが挨拶してきた。

「はい。よろしくお願いします。」

でも、鋼鉄のばれいしょもナカド学術学園から依頼を受けるなんてかなり信頼されているようだ。

すごいね。

「それで、今回の調査なのですが、まずは、このダンジョン、サド洞窟の生態系の調査です。先ほども言った通り高位の魔獣が確認されましたので、このダンジョンのランクの見直しの必要もあるかもしれませんし。そしてもう一つ。これはできたらでいいのですが、洞窟病の解明です。」

洞窟病。

本で読んだことがある。洞窟に入った冒険者が訴える体調不良のことだ。

死者も出ていて魔獣や魔族との戦闘以外では最も冒険者の命を奪っているという。

確かに、この病気は長年研究がされているのにも関わらず、なかなか解明の糸口が掴めていない。

冒険者の命を守るためにも必要なことだ。

「洞窟病か。厄介だな。」

ウラギも洞窟病のことは知っているらしい。

てか、結構博識だし、どこか良いとこの学校でも出てるんだろうか。

ちなみに僕みたいな田舎の貧乏人は学校なんていってない。

それでも、それなりに本は読んだし、いろんな知識は持っているつもりだ。

前世の知識のあるしね。

「まあ、あくまで洞窟病に関しては簡単に研究が前進しないことはわかっていますから、そこに執着することはないですよ。」

確かにその通りだ。

歯がゆいだろうが先が見えなすぎるから慎重になってしまうのはわかる。

「任せてください。クックさんならダイジョブです。」

アリスは僕のことを買い被りすぎだ。

清々しいほどのドヤ顔して、尻尾もブンブン振って、なんかプレッシャーになるからやめてよ。

「アリスちゃんはクックさんが大好きなのね。」

「可愛い〜。」

アリスは女性陣に構ってもらって満更でもなさそうだ。

僕と初めて会った時は人間のことをエサとか言ってたのに、最近は人間に構ってもらうのが楽しいみたい。

すごい変わりようだ。

まあ、人間のことをよく思うようになったならそれは良いことだ。

将来僕の店で働くことになったら、そうやっていろんな人に愛想を振り撒いてほしい。

ペットみたいな人気が出そうだ。

宣伝材料としても使えるし、僕はアリスに期待するようになっていた。

あ、でも、頭の方は全く期待してないよ。

「それでは、今日はもう暗いですからここらで野宿して明日、洞窟に潜りましょう。」

こうして僕たちのダンジョン探索が始まった。