第25話馬車の旅

僕たち3人は王都に向けて旅をしている。

王都へ向かっているのは王都の貴族であるパッツパツ・スキニー公爵のご令嬢が米に興味があるらしく、貴族に僕の名を売るチャンスだと思ったからだ。

僕たちはこの機会を逃すまいとして急いで王都に向かっている。

ウラギの馬車は思った以上に快適だった。

速いし、揺れも少ない。

だが、いくらウラギがBランク冒険者だといっても、護衛もなしで王都から僕たちの所へ来てたなんて、大丈夫だろうか?

僕の大事な取引相手が護衛なしで旅して魔獣に襲われて絶命、なんてことになったらどうするんだ。

かなり心配だ。

でも、馬車の運転は上手い。

これを知ってしまったらまた徒歩の旅が始まるのが少し憂鬱だ。

ただ、アリスはそれでも酔ったみたい。

「おえぇ。気持ち悪いです。自分で歩きたいです。」

「そんなにキツイの?」

「はい。死にそうです。」

いつも元気なアリスがこんな感じだと、僕も普段より元気が出ない気がする。

やっぱりアリスには元気でいて欲しいな。

「困ったな。一応、俺んとこにある馬車の中でもかなりいいのを選んだんだが、こんなに馬車が苦手だとは思わなかった。」

「そうだね。僕はかなり快適だと思うんだけど。アリスに馬車はダメみたいだね。」

「でも、現実的にアリスだけ自分の足でってわけにもいかねえんだよな。そんなとこ他のヤツに見られたら、色々めんどくせえことになる。」

「だよね。女の子を走らせる商会なんてイメージが着いたら一気に信用がなくなりかねない。」

「一応、時間的にはまだいくらか余裕があると思うから、少し休憩するか。」

「そうだね。」

「わかりましたぁ。おえぇ。」

そんな無理して返事しなくていいのに。

僕たちは馬車を停め道の脇で休むことにした。

アリスはうつ伏せの状態からぴくりとも動かない。

死んでるんじゃないかと思うほどだ。

尻尾もぐったりしてるし、かなり深刻なようだ。

幸い、想定より早いペースでここまで来られたらしく、まだ1日目の日没前なのにもう半分くらいのところまで来られたみたいだ。

ウラギって何気にスペック高いな。

「まあ、だいぶ日も傾いてきてるしこのままここで野宿することにしようか。」

「そうだな。俺はテント張っとくからクックは晩飯作っててくれ。」

「了解。アリスはそのまま休んでて。魔獣の気配がしたらその時は教えて。」

「はーい。」

やっぱりまだぐったりしている。

相当馬車が苦手なようだ。

もしかしたらこれが最初で最後の馬車になるかも。

よっぽどの事情がない限り、アリスの体調を優先したい。

この日の晩御飯はイガタニで買ったオークの肉を使った生姜焼きだ。

生姜焼きのタレがしみた白米を想像しただけでヨダレが出てきそうだ。

おっと、料理人を目指してるのにそんな品のないことを考えてはダメだ。

作るのに集中しよう。

「なんだこれ、めっちゃいい匂いがするじゃねえか。一体何作ってるんだよ。」

「イガタニで買ったオーク肉を焼いて、生姜を使ったタレを絡めたんだ。」

「なんだよそれ。生姜にそんな使い方があるのか?」

「そうだよ。名付けて生姜焼きってとこかな。きっと白米にも合うよ。」

「全く、お前はもう料理研究家とか名乗っていいんじゃねえか?今すぐ王都に店出しても全然生き残れると思うぜ。」

「いや、まだまだだよ。もっといろんな地域の料理を学んで、いろんな人、種族の文化を知って、ニーズを理解して、それから店を出すんだ。せっかくなら誰からもこの世界で1番の店だと思われたいし。」

「ハハ、そういえばお前はそいういヤツだったな。まあ何年でも待つさ。店を出す時はのこと招待してくれよな。」

「もちろん。仕入れもリベンジ商会を使わせてもらうよ。」

「本当にいい契約だったぜ。実はあの後、親父とか上の連中を説得するのに苦労したんだよ。話が行き詰まってたところでちょうど米の噂が流れてきて、そしたら親父たちが手のひら返して今すぐ連れてこいって。」

「なかなか大変そうだね。」

「まあ、親父の気持ちもわかるがな。俺は自分の勘を信頼できるけど、他のやつが直勘で契約してきたなんて言ったら、それなりに心配になるしよ。結局、客観的には明確な利益がないと商人ってのは難しいんだ。」

「勉強になるよ。僕も一応商人ギルドには登録してるし、商人の端くれだから。」

「そういやそうだったな、むしろうちに入ってくれても…」

ぐぅ〜

ウラギが話してる途中にいきなりお腹の音が鳴った。

アリスの方から…

見ると、尻尾が元気に動いてるし、体調が良くなってきたのかも。

「アリス、お腹減ったの?」

「はい。ぺこぺこです。」

話し方もいつも通りに戻ってるし、本当に元気になったのかも。

「全く、お前は間が悪いな。せっかく俺がクックを勧誘しようとしてたのに。」

「そんなこと言われても、僕にその気はないよ。」

「ハハ、やっぱダメか。」

「クックさんはわたしません!」

「なんだアリス?ヤキモチか?」

「ヤキモチってなんですか?」

「ハハ、嫉妬してるってことだよ。」

わかってないな、ウラギ。

アリスは嫉妬なんて言葉知らないよ。

「シットってなんですか?」

ほらね。

「ずるいってことだ。思ったより大変だな。」

「そうでしょ。アリスの知能は子供並みだと思ったほうがいいよ。」

「ハハハ。」

ウラギの高笑いも聞き慣れてきた。

「ん?」

アリスが急に首を傾げた。

「アリス、どうしたの?」

「あっちの方から魔獣の気配がするのです。」

アリスが指差したのは森の方だ。

なるほど。

ゆっくりご飯とはいかなかったか。

「とりあえず行ってみよう。」

「おう。」

「はい。」

なんかこれじゃちゃんとした冒険者パーティーみたいだ。

僕たちがアリスが指した方向へ進むと、複数の魔獣がいた。

そうやら冒険者パーティーが対峙中のようだが、明らかに戦闘には向いてなさそうな格好の人が何人かいる。

どうしたのだろう。

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ーイガタニの街ー

はあ、やっとイガタニへ着きました。

クックさんはどこにいるのでしょう。

※クックたちはすでにイガタニを出ています。

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