第24話商談っぽいことしてみました

僕たちは米を食べ終えたので、本格的に商談をすることになった。

なぜかアリスも一緒にいたいと言って聞かなかったので同席させているが、変なことはしないでくれよ。

「まず、この米の価値についてだが、かなり高いと思う。これから物価高騰、増産、価格安定という流れは絶対にくる。米を独占取引するってのは規模を考えても消費者心理を考えても現実的じゃない。」

「なるほどね。僕としても一部の商会による米の独占販売は望んでない。時間はかかると思うけど、庶民も簡単に手に入るものになって欲しい。その点、リベンジ商会と最初に取引するのは最善だ。他の商会より庶民に対する販売は信頼できる。」

「はい。私もそう思います。」

アリスはどうやら自分も話に入りたいようだが、アリスの脳じゃちょっと難しいだろう。

無視して続けよう。

「そうだな。そこら辺には俺も自信がある。そこでだ、俺たちリベンジ商会はお前が日々研究、改良してるレシピを独占取引したいと思う。」

「レシピ?飲食店経営でもするのか?」

もしそうだとしたら、将来僕のライバルになるかもしれないのか。

簡単には頷けない。

「いや、そうじゃねえ。米を売るときにそのレシピもなんらかの形で消費者に届けるんだ。」

なるほど。

冷静に考えればその通りだ。

あれだけ僕を他に渡したくないと言っていたウラギがわざわざ僕を困らせるようなことをするわけがない。

ちょっと雰囲気に飲まれたかも。

正直、こんな重々しい話し合いである必要なんてないのに。

「わかった。その方向でいこう。僕としてもリベンジ商会にはある程度のアドバンテージを認めるつもりだったし。」

「ありがとよ。じゃあ、そのアドバンテージについてはどんなことを考えてんだ?」

「そうだな。とりあえず、僕が米の研究をしてることが世間に知れれば、僕のレシピを買ってるってことが庶民目線では信頼できる要素になると思うんだけど…」

「それだけじゃ難しいな。そんなの他の商会が自分もって言い張ればどうにでもなるし、世間にはクックの名前までは知られてないだろうし。」

「そうだよね。レシピを教えるだけじゃ弱い。何か別のもの。」

「まあ、ちょうどいい分量が広まれば誰でもうまく作れちまうから、そもそもレシピの独占はあまり効果がないかもな。」

どうしよう。

炊飯器を作ろうとしても時間がかかりすぎるし、そもそも水の分量はまだ研究中だ。

あっ。

いいこと思いついた。

「じゃあ、重さを基準に売るんじゃなくて、何食分って単位で売るのはどうかな。」

「どういうことだ?」

「僕は大体どのくらいの量で1食分か知ってるから、それを基準に1人なら何回分の量かを表示して売ればいいんだよ。」

「なるほどな。確かにそれはお前と直接交渉しないとわからないし、調べようとすれば金も時間もかかる。それに一回リベンジ商会がそういう知識があるとわかれば次も同じところで買う方が安心できる。」

「そうそう。そんな感じ。」

「決まりだな。」

いい感じにまとまった。

「じゃあ、アリスを起こさなきゃ。」

「そうだな。本当いつの間にか寝てるよな。」

今日は、最初の方は頑張って話についてこようとしてたが、結局ダメだったみたいだ。

もう夜になっていたし、この日は近くの酒場で遅くまで飲むことにした。

僕はお酒はまだ飲まないけど。

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次の日の朝早く、ウラギが僕を訪ねてきた。

「そういえば、クックはこの後どうするんだ?」

「旅を続けるよ。ただ、次にどこへ行くかはまだ決めてないんだ。」

「それなら、俺と一緒に王都に来ないか?」

「それは遠慮しておくよ。前も言ったけど、僕はなるべく王都には自分の足で行きたいんだ。」

「ああ。もちろんわかってるぜ。だが、今は状況が違う。お前はいち早く王都で名を売った方がいいと思うんだ。」

「どうして?」

「米の噂は王都にも広がっててよ、お前の名を売るいい機会だと思ったんだ。料理人になるなら、ある程度の知名度があった方が後々便利だろ。」

「確かに、ある程度は名が知れてた方がいいけど、王都はやりすぎな気がするよ。ウラギだって行きすぎた名声は枷になるってわかるだろ。」

「確かにお前のいう通りだ。だが、それ以上のメリットがあるんだ。」

「そんなに大きなメリットがあるの?」

「ああ。実は、王都のパッツパツ・スキニー公爵のご令嬢が米の噂に興味があるらしいんだ。」

なるほど。

つまり、貴族に名を売るチャンスというわけだ。

確かにかなり魅力的だ。

貴族との繋がりがあれば金銭的な援助やコンスタントな売り上げが期待できる。

もちろん、他の人からの援助に頼って店を出す気はないけど。

それに、王都の貴族ともなれば僕の店ができたとき王都への進出のための心強いコネクションとなる。

そして、パッツパツ・スキニー公爵は美食家としても知られているから、料理人になるためにはいい試練となるだろう。

「わかった。そういうことなら同行させてもらうよ。」

「そりゃ良かった。俺の親父もお前に会いたがってたしちょうどいい。」

おい、そっちがメインだろ。

まあいいや。

「それで、ウラギはいつここを出るの?」

「明日じゃ急すぎるか?」

「僕は問題ないよ。あとはアリスだけど、聞いてみるね。」

「ああ、よろしくな。」

アリスも明日出発でいいらしかったので、明日出発することになった。

初めての王都か。

楽しみだな。

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翌日、僕たちは朝早くから正門に集合した。

アリスはかなり眠そうだけど、ちょっと前まで野生の中で生きていたようには見えない。

そういえば、馬車に乗るのも初めてだ。

どのくらい早いんだろう。

「王都には馬車を使えばどのくらいで着くの?」

「順調にいけば3日くらいあれば着くと思うぜ。」

歩けば半月くらいかかるのにやっぱり乗り物って便利だな。

こうして、僕たちの王都への旅が始まった。

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