第23話アリスに接客は難しい

僕はウラギとアリスを宿に連れてきた。

アリスには自分の部屋で休んでもらうことにしてウラギと2人で米のことについて話し合った。

「で、本題だ。まあ、さっきの回復薬のせいで米はそんなにインパクトないだろうけど。」

失礼なヤツだ。

僕にとっては米が美味しく食べられることの方が断然重要なのに。

「まあ、とりあえず今炊くから待ってて。」

「たく?なんだそりゃ?」

そうか、元々この世界にはない調理法だから炊くって概念がわからないのか。

「今からする調理法のことだよ。焼くのとも、煮るのとも違うからとりあえず今は炊くっていう表現をしてるんだ。」

「ふーん。まあ、言いやすいからいいか。それで、具体的に何をするんだよ。見せるだけじゃなく言葉でも教えてくれよ。」

全くめんどくさいヤツだ。

多分、車の助手席に座ったらあれこれ指示してくるタイプだろ。

嫌われるぞ。

「まずは、米のぬかとか胚芽を取り除くために水につけて手でかき混ぜる。僕はこの行程を研ぐって言ってる。」

「へえ。ぬかとか胚芽は邪魔なのか?」

「うーん…使いようはあると思うけど、今はまだ研究中ってとこ。」

「そうか。何も無駄にしない精神、いいと思うぜ。」

「はいはい。で、この研ぐって行程を2、3回繰り返す。何回かやった方が確実に取り除けるからね。次に研いだ米を水につける。ただ、この時の水の量はまだ試行錯誤の段階。好みにもよるんだろうけど、米がある高さよりは多く入れる。」

「なるほど、水を吸わせることであの硬い米をやわららかくして食べやすくするのか。」

「まあ、大体そんな感じ。」

なんだ、意外と筋がいいじゃないか。

正確には水と熱によって糊化(こか)させるんだけど、科学のない世界でそこまで考えられるなら上出来だろう。

「でも、水に浸けるだけで美味くなるとは思えねえな。」

「正確には水に浸けて熱するんだ。そうすると米が柔らかくなるんだ。」

「へぇ。なるほどな。これもお前が研究して見つけたのか?」

「そうだよ。」

「やっぱり、お前のポテンシャルは異常なくらいに高いな。組んでおいて正解だった。」

「おだてても味は変わらないぞ。」

「いいんだよ。本心なんだから。」

「はいはい。でも、僕もウラギと組めて良かったと思ってるよ。正直、他のどの商会よりも信用できるし。」

「嬉しいこと言ってくれんじゃねえか。じゃあ、仕入れの話だが…」

ウラギが言いかけると突然扉が開いた。

「美味しそうな匂いがしました!」

アリスだった。

もう少し待ってて欲しかったけど、しょうがない。

仕入れの話は後にしよう。

「とりあえず、食べようか。」

「ああ、そうだな。それにしてもおてんばなお連れさんだな。」

「ハハハ…」

ちょっと恥ずかしかった。

当のアリスは尻尾をブンブン振って米のことしか頭になさそうだ。

僕たちは米を食べた。

ウラギも気に入ったようで、色々な食べ方を試している。

「ちょっと、ウラジさん。私の分をとらないでください。」

アリスは自分の取り分が少なくなって不服なようだ。

てか、名前間違えてるし…

「別にいいだろ。お前はクックと旅してんだから毎日食えるんだ。今日くらい我慢しろ。あと、俺の名前はウラギだ。間違えんな。」

「いやです。私はたくさん食べたいです。」

どうやらアリスは僕がなだめるしかないようだ。

「アリス、落ち着いて。ウラギは僕の大切な友人なんだ。アリスも少し我慢しておもてなしして。」

「なんでですかぁ?」

アリスは明らかにしょげた。

久しぶりにこの流れを見た気がする。

「アリス、僕は将来自分の店を出したいって言ったよね。」

「はい。」

「アリスには接客と配膳を手伝ってもらうって言ったよね。」

「はい。任せてください。」

「じゃあ、これはその練習だと思って。」

「セッキャクってそんなに難しんですかぁ?」

こいつ、接客の意味を知らないで手伝うって言ってたのか。

「接客っていうのはお店に来てくれた人に楽しんでもらえるようにすることなんだ。だから、アリスがお客さんに食べないでって言ったらダメなんだ。」

「わかりました。接客頑張ります。」

アリスはまだ不服そうだが、とりあえず我慢してくれたようだ。

「本当にアリスはクックのいうことを聞くんだな。」

ウラギも感心している。

「はい。私はクックさんの前ではちゃんといい子にしています。」

そんな堂々と猫被ってることを告白されても困るんだけど。

「ハハ、つまり猫被ってるってことか。」

「私は猫じゃありません!」

確かに氷虎族だから猫ではないんだろうけど、そういうことじゃないんだよな。

「アリス、猫を被るって言うのはその時だけいい子にしてるってことだよ。」

「そうなんですか?難しいです。」

「ハハ、アリスは面白いな。頭はちょっと足りてねえかもしれないが、元気だし素直だし。いい仲間を見つけたな、クック。」

「僕もそう思うよ。アリスはよく笑うからこっちまで元気をもらえるんだ。」

「はい。私はクックさんと一緒だと楽しいです。」

文脈的には私も、の方が良かったかも。

こういうことを考えるあたり、僕は面倒な性格をしてるようだ。

「おいおい、そういう時は私もって言った方がいいぜ。」

ウラギはそれを口に出してしまうデリカシーの無さも持ち合わせているようだ。

僕らは結構嫌なヤツなのかも。

正直、ウラギと似た系統って嫌なんだけど。

「わかりました。私も、ですね。」

ここにいるとアリスは場違いなほど素直だ。

まあ、そのおかげでこの場の雰囲気が明るくなっているのだからありがたい。

「ああ。素直なのはいいことだぜ。俺やクックみたいにめんどくせえ性格してると人もよってこないからな。」

お前と同じにするな。

一応マナシヤでは結構人気者だったんだぞ。

「いえ、クックさんはすごいです。めんどくせえのはウラギさんだけです。」

よく言ったアリス。

でも言葉遣いが悪くなってきてる。

将来接客を任せたいから言葉遣いには気をつけさせよう。

本当にアリスに接客ができるのか不安になってきた。

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