第22話ウラギとの相談

僕は今、ウラギとの商談のために居酒屋にいる。

アリスもいるけど、多分話の内容はわからないだろう。

少し退屈させてしまうけど、1人で外に出しておくわけにはいかない。

勝手に暴れられたらたまったもんじゃない。

「アリス、少し難しい話をするけどいい子にしててね。」

「はい。わかりました。」

早速ウラギはビールを僕たちはウーロン茶を注文した。

一応商談なんだけど、いきなり酒って。

ウラギってこれで大丈夫なのだろうか。

「ところでクック、その子はどうしたんだ。」

「ああ、この子はアリスっていうんだけど、マナシヤにいた時に森で倒れていたのを見つけて、それでこの子を拾ったんだ。そしたらそれ以来ついてくるようになって今は一緒に旅をしてるんだ。」

「へぇ。人間じゃないが、獣人か?」

「忘れました。」

ちょっと感動した。

アリスはしっかり僕の言いつけを守っている。

基本的に知能は低いけど、学習能力は思っていたよりあるようだ。

「そうか。記憶が曖昧なのか。でも、大丈夫か?もしかしたらやばい魔獣かも知れないぜ。」

「そこは大丈夫。僕が助けたことに恩義を感じてるらしくて色々手伝ってくれるんだよ。僕が言えば、人も襲わないし。」

「はい。私はちゃんとクックさんの言うことを聞いています。」

「そうか。ちゃんと躾けられてるようだし、これなら大丈夫そうだ。」

良かった。

ウラギが変に勘ぐってくるかもと警戒してたけど僕のことは結構しっかり信頼してくれているらしい。

それじゃあ、商談に移ろうかな。

「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか。」

ウラギは真面目な顔になった。

この切り替えはさすが。

「ああ。俺が聞きてえのは米のことだよ。あれが美味くなるって噂になってたと思えばそれを作ったのがクックだって聞いて飛んできたぜ。」

「そうだね。既存の食べ方と比べればかなり美味しいと思うよ。」

「俺も自分の舌で確かめたいんだが…」

「もちろん、そのつもりだったよ。でも、その前に見て欲しいものがあるんだ。」

「なんだ?」

「これ。もし買い取るならどのくらいの値をつける?」

僕は回復薬をわたした。

商人ギルドの鑑定士には銀貨3枚くらいって言われたけど、ウラギの目にはどう映るのだろう。

「これは、回復薬か?」

「そうそう。僕が作ったんだけど、商人ギルドの鑑定士には結構いいものだって言われたから売れるんだったら売ろうと思ったんだ。」

「ふーむ。確かに質が高い。回復成分の抽出濃度が70、いや、75%くらいか?薬草は、おそらくヒルネシソウか?」

驚いた。

薬草を当ててきた。

そう、僕がこの回復薬を作るのに使ったのはヒルネシソウという薬草だ。

薬草のわりに香りにクセがなくて弱い。

香草焼きには不向きだったからどんな料理にしようか考えていたんだけど、すぐにしなしなになってしまったからその時の思いつきで回復薬に加工してみたのだ。

ヒルネシソウは回復成分が含まれているが抽出が難しいとして有名だった。

てっきり保存環境を厳格に整えたり、抽出時の温度調整を1℃単位で調整したりする必要があるのかと思ったけど、多分ろ過しなきゃ不純物が多く混ざってしまうということなのだろう。

「よくわかったね。さすがウラギ。」

「クックこそ、ヒルネシソウからこんな上質な回復薬を作るなんて驚いた。やっぱ、俺の商人の勘ってのは間違ってなかったようだ。もしかしたら世界を変えるような逸材を見つけちまったのかもな。」

「大袈裟だよ。で、値段をつけるなら?」

「銀貨7、いや、8枚ってとこか。ヒルネシソウの回復薬なら他の回復薬と比較しても性能がいい。それに希少価値は言わずもがな。」

「そんなに?」

まさか、商人ギルドの鑑定士の方が見る目がなかったのか。

いや違う、ウラギの目がいいのだ。

怖いくらいに。

やっぱりウラギのことは侮れない。

仲良くなっておいて正解だった。

「でもまさか、米のことを聞きにきたらそれ以上のものが出てくるとは。」

「僕も驚いたよ。まさかそんなに高く売れるなんて思ってなかったよ。」

「こんないい話が聞けるなんて、ホントラッキーだよ。場所がイガタニでなければもっと良かったが。」

「そうだね…」

先ほどから数人がこちらをチラチラ見ている。

こちらをってか、ウラギを。

実は、ここイガタニはイガタニ出身のリボルビン・グッチャーという人が昔立ち上げたリボ商会が市場を独占しているのだ。

リボ商会は三大商会と言われる商会の一つでここイガタニを中心にジャポネー王国の北部から隣国のアルッシ王国の市場を牛耳っている。

基本的に独占意識が強く自分たちの市場は自分たちだけのものにして利益を得ようとする。

だから、新興勢力で世界全体に市場を開拓し始めているリベンジ紹介のことをあまり面白く思っていない。

いやでもリベンジ商会の噂は庶民に入るだろうし、そうすれば、リベンジ商会の方が安いとか言われるのだろう。

それに最近、リボ商会は利益を上げるために焦って高額商品の取引を増やしたり、値上げしたりして民衆の不満を買っている。

つまり、独占が崩れるピンチに直面しているのだ。

そんなとこに、リベンジ商会の関係者が来たらそりゃ警戒するよな。

僕がうかつだった。

リボ商会のことを知っていたのに堂々とリベンジ商会と商談をしてしまった。

というか、あんなに価値があるとは思わなかったから、居酒屋でも大丈夫だと思ったんだけど。

やっぱり、常にいろんなケースを想定して行動しないとね。

「ごめんウラギ、もう少し警戒するべきだった。」

「気にすんな。どのみち俺は顔が割れてるだろうしいずれこうなってた。それに、これでお前と俺が親しいことはアピールできたし、あいつらにお前を持ってかれる方ががキツイからな。」

「じゃあ、場所を変えようか。」

「そうだな。」

僕たちは場所を移すことにした。

いつの間にか寝てたアリスを起こして。

どうやらアリスは難しい話になると寝てしまうらしい。

多分アリスって授業中に寝るタイプだよね。

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