第5章商人クック・フレリアン

第21話魚の生食は好きですか?

イガタニに来てから3日が経った。

僕たちはここ3日間毎食米を食べていた。

煮物と合わせてもよし、魚と合わせてもよし、もちろん肉に合わせたってよし。

この世界に来てからは米を食べるのは初めてだったから僕もアリスもすっかりハマってしまった。

そんなふうに米を食べていたら意図せずとも噂は広がっていく。

普段はお金がない時に我慢しながら食べるようなものだから、安価で手に入る。

それが美味しいなんてわかったら人気になる。

僕が予想したようにこの3日で米は買い尽くされてしまった。

まさにイガタニの米騒動。

買い溜めしておいてよかった。

そして、この噂が広まったことでクック・フレリアンの名が料理界隈の一部に認知されたことだろう。

これも1つの狙い。

食に関することで有名になるというのは将来料理人になったときに役にたつ。

あのクック・フレリアンのお店っていう一つの広告になるのだ。

やっぱり、店を出すタイミングである程度知名度があるというのは大きなアドバンテージになる。

しかし、それもほどほどにしなければならない。

あまりにも名が広まると、期待が大きすぎて現実が微妙に感じたり、妬みや恨みを買って無駄に客を逃す可能性がある。

そう、どんな時も目立ちすぎるのは良くないのだ。

それに、ちょっとした噂に留めておけば、街の役所の人だとか貴族だとかにはあまり目をつけられない。

ある一定の層にのみ目をつけられる。

その一定の層の中には彼が含まれる。

きっと2、3日したらここに来ると思うから待っていよう。

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イガタニに来て5日目となった。

僕たちは、マナシヤの時みたいに近くの森に入り浸って、薬草採取や魔獣、動物の狩り、魚釣りなんかをして食に関する研究を進めていた。

ちなみにこの世界には魚の生食文化がない。

もちろん、そこらの川にいる魚を生で食べるのは僕にも抵抗があるが、イガタニには海がある。

海っていいよな。

田舎でも海があればまだ救いようがある気がする。

と、これは前世の価値観だね。

ちなみに、前世の僕は東京で生活していたけど、父親の実家は北海道の東の方だったし、母親の実家は鳥取だった。

つまり、田舎だった。

僕はああいう雰囲気好きだったけど、普段東京に住んでいるとやっぱり不便に感じてしまうことが多かった。

今世は田舎生まれ田舎育ち。

やっぱり僕にはこっちの方があっていた。

話が逸れたけど、僕の直近の課題は刺身を作って広めること。

これがなかなか難しい。

まず、生食に適する魚かどうか調べなきゃいけないんだけど、今のところ魚の身の成分を分析する方法なんてこの世界にはないし、食べてみるしかなかった。

治癒魔法があるから万が一のことがあっても死にはしないが、お腹は痛くするし、何よりアリスに馬鹿にされそう。

「アリスって、魚を生で食べてたけどなんともないの?」

「氷虎族はお腹が強いので大丈夫です。でも人間は弱いんですよね?じゃあ生で食べるのはバカです。」

ほらこれだ。

いや、言ってることは正しいけど。

こんなこと言われたら生食実験しづらいじゃん。

「実は今、魚の生食を試してみようと思ってるんだ。」

「何言ってるんですか?危ないですよ。」

なんでこんな時に限って真顔なんだよ。

僕がバカみたいじゃないか。

「いや、人間にも魚の生色の可能性があると思ったんだよ。陸上生物と違って新鮮な魚の身って臭みが少ないだろ。」

「そんな気もするような…」

アリスは思い出しながら考えているようだ。

なんか、考えるアリスって構図面白いな。

「試してみます。」

試す?

「試すって何をするの?」

「今から食べ比べてみます。」

そういうとアリスは森の中へ駆けていった。

きっと獲物を探しに行ったのだろう。

さすが魔獣。

ワイルドだね。

少しするとアリスは血だらけのウサギを咥えながら帰ってきた。

人型なんだから、咥えてないで手で持ってこいよ…

「クックさんの料理と比べるとまずいです。」

当たり前だろ。

そのための料理だよ。

「うん、それで?」

次にアリスは魚を取って食べた。

「肉より臭くない気がします。」

そうか、それはよかった。

「そうなんだ。じゃあ僕も試してみようかな。」

僕はビックサーモンという魚を捌いてみた。

身は濃いオレンジ色で油がのっていた。

見たところ生食もできそうな感じだけど、どうだろう。

ぐだぐだしてても何にもならないので、とりあえず食べてみた。

味は美味しい。

でも、もう少し様子を見てお腹が痛くならないか確かめないといけない。

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だいたい3時間ぐらいが経過した。

今のところ何もない。

これは大丈夫なやつなのではないか。

成功したと思ったら、嬉しくなってきた。

「アリス、どうやら生食は成功したらしい。」

「そーですか。」

アリスはあからさまに興味がない様子だった。

まあ、氷虎族はいつも生で食べているんだから当然か。

なんだかはしゃいでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

この調子で生食実験を続けていこう。

どの魚が生食できないかを特定するために1日に試す魚の種類は3種類までにしておこう。

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僕たちがこの日の作業を終えて街に戻ると目当ての男が来ていた。

「久しぶりだなクック。噂になってたから駆けつけて来たぜ。」

そう、ウラギだ。

「お久しぶりです。ウラギさん。」

「おいおい、そんなかしこまらなくたっていいぜ。」

「わかったよ。それで、一応聞くけど要件は?」

「もちろん米のことだよ。」

さすが商人は耳が早い。

ここからは商人クック・フレリアンとしてお金稼ぎをしようじゃないか。

まあ、ウラギは信用できるからそんなにバチバチした感じじゃないけど。

「クックさん。この人誰ですか?」

アリスが聞いてきた。

そういえば、アリスは初対面か。

「この人はウラギ・リベンジという商人だよ。」

「ショウニン?」

「簡単にいうと僕の手伝いをしてくれる人さ。まあ、見てればわかるよ。」

そう言って僕はウラギとアリスを近くの居酒屋に連れ出した。

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