第17話人間の武器を使いましょう
この世界では冒険者や騎士といった戦闘を仕事にする人たちがいる。
が、戦闘の技術は前世より遅れている。
ただただ力任せに殴ったり、剣を振るったり、魔法も見た目が派手で強そうな雰囲気があれば評価される。
弓矢も、槍も、斧も、なんとなく上手い人たちが自分の技術を教え込むが、正直前世の映像化やデータ化の進んだものと比べれば粗末なものだ。
それでも武器を上手く扱える人はたくさんいるし、できる限りのことを教えようとする人もいる。
だが、根本的に間違っている。
魔族や魔獣に比べて人間の魔力量は低いことが多いし、身体能力も全然低い。
そのな人間が魔族や魔獣と対等に戦うにはもっと頭を使う必要がある。
もっといえば、人間の1番の武器である道具を上手く使った戦闘を磨く必要がある。
武器や防具、戦闘用の魔道具はもうどこでも使われているが、それだけじゃ足りない。
鉄の剣でいくら攻撃してもミスリルタートルのような硬い甲羅は砕けないし、いくら魔道具で身体能力を強化してもアリスのように圧倒的な身体能力を持つ魔獣と正面衝突したら基本的に人間が負けるし、魔道具で魔法の威力をあげても人間には限界がある。
僕が言うと説得力がないかもしれないけど、人間って弱いんだ。
武器を使っても、魔法を使っても人間じゃたかが知れている。
じゃあその二つを合わせよう。
そんな簡単なことさえこの世界の人たちは思いつけない。
魔法の中には、炎の矢を突ばすようなものもあるけど、武器に魔法を施す人は見たことがない。
僕は10歳の時に武器に魔力を込めることに成功した。
武器の強度は飛躍的に高まり、木の剣で鉄にヒビをつけることに成功した。
さらにそれから2年かけて武器に魔法を塗布することに成功した。
剣を振るだけで火が出たり、槍で突くだけで雷が出たりした。
武器を加工するのは簡単だ。
魔力伝導率の高い植物をすりつぶす。
それを絞ってできた液体を僕は魔力水と呼んでいるが、それに魔力や魔法を込める。
一晩くらい置けば魔力水に色がつく。
それに武器をつけて3日くらいすれば完成。
面倒なのは魔力伝導率の高い植物を探すことと、魔力水に魔法を込めること。
魔力水に魔力や魔法を込める際、かなり微細な魔力や魔法でないと魔力水は蒸発してしまう。
それと、魔力水は魔力や魔法を込めると発熱するからあまり人の多いところではできない。
最近はアリスを使って魔族型魔素でもできるか試そうとしているのだが、アリスには微細な魔力を出すのが難しいみたい。
魔力のコントロールは人間の方が優れているかもしれない。
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そういえば、アリスは魔法をあまり使わない。
氷、風、雷、光と4つの適性があるのに狩りで使ったところは一度も見たことがない。
くしゃみをするときに魔法を出したことがあるくらいだ。
どうしてだろう。
聞いてみるか。
「アリスは魔法を使わないの?」
「魔法は難しいです。強すぎて獲物が食べられないです。」
どうやら魔法が強すぎて獲物に食べられなくなってしまうほどのダメージを与えてしまうらしい。
つまり、魔獣は魔法の出力調整が苦手ということだ。
死にそうな時の最終手段と言ったところか。
じゃあ、魔力量が低い魔獣はほとんどただの動物ということだろうか。
もちろん魔力のコントロールが上手い魔獣もいると思うが。
それから僕はアリスに魔法の練習をさせている。
人目にさえつかなければアリスの魔法で何が壊れようが、僕の魔法で森も、川も、道路も再生できる。
アリスもだんだん魔法を制御できるようになってきた。
世の中では人と魔族の戦争、人魔戦争が勃発するかもしれないというのに、僕たちは平和すぎるくらいだ。
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そういえば、次に目指す街はイガタニという穀物生産の盛んな街だ。
僕は元々日本人だったから米は大好き。
この世界ではあまり栽培されていないらしいから少し残念に思っていたのだけど。
でも、これからイガタニを訪れれば米が食べられる。
ちなみにこの世界で米があまり普及していないのは米を主食ではなく、野菜として捉えているからだ。
茹でただけの米をサラダに入れて食べる。
これがこの世界の米の食べ方だ。
実にもったいない。
米の本来の食べ方をイガタニでそれとなく普及できれば、米を増産する気になってくれるかも。
いろんなおかずに合うし、腹持ちもいい。
もち?
餅もいいね。
スイーツにも惣菜にも使える。
あとは、寿司とか、丼ものもいい。
「クックさん、嬉しそうです。」
アリスが笑ってくる。
「うん。今楽しいことを考えていたんだ。」
「楽しいこと?なんですか?」
アリスがいつものように尻尾をぶんぶん降り出した。
「今目指している街にある美味しい物のことだよ。」
「美味しいもの?早く食べたいです。」
2人で笑い合うこの時間がいつまでも続くといい。
最近はそんなふうに思っている。
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ー遠く離れた地ー
そんな2人の様子を水晶から覗く黒いローブの女の影があった。
「ビックバイソンの暴動が起こったと聞いてすぐにマナシヤに向かいましたが、彼がわたくしが到着する前にビックバイソンを倒したのですか。」
「はい。そのようです。」
その部下らしいローブの男が答える。
「隣にいるのは人型ですが、氷虎族ですね。ビックバイソンの大群を簡単に制圧し、氷虎族を手懐ける…彼には注目しておきましょう。これからも監視を続けなさい。」
「はい。おうせのままに。」
「ですが、氷虎族に魔法の使い方を教えているのは気になりますね。一体何が目的なんでしょうか。」
「わかりませんが。氷虎族は強力な魔獣です。使役して自分の武器にするか、周りへ自分の力を誇示すると言ったところでしょう。」
「どちらにせよ、いざとなればわたくしが直接…」
「その必要はありません。御身を危険に晒すようなことはあってはなりません。」
「そうですね。そのときはお願いします。」
ため息混じりに女は答えた。
「ええ。おおせのままに。」
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