第4章この世界の文明は遅れてる

第16話マナシヤ出発

魔法、魔素、魔力、この世界でこれらは明確に分けられている。

魔素とは万物に宿る1つの物質。

魔力とは魔素によって生みだされるエネルギー。

魔法とはこの世界に存在する一部の生物が体内の魔素を放出するときに発生する現象の総称。

この体内の魔素を放出するための器官を魔力回路という。

前世の人間には無かったものだ。

この世界において、魔法を使うための最低条件は魔力回路が整っていること。

稀に魔力回路に異変があり魔法を使えないことがある。

魔法を使うどの生物においても確認されている。

この症状は魔力無しと呼ばれ、魔力無しの人々は蔑まれ奴隷にされることが多い。

つまり、差別の対象ということだ。

でも1番重要なのはこの世界の魔法は理論上、科学で説明ができるということだ。

魔法が解明されれば文明を大きく進めることが可能だ。

前世では文明の発展に対しリスクマネジメントができておらず様々な問題があとから露わになった。

そのせいで生態系のバランスは崩れていった。

文明を退化させることなんてできないからどんなに大きな規模で協力しても平和なんて実現できなかっただろう。

でも、この世界ならできるかもしれない。

平和を目指すのもいいかもしれない。

僕は、平和な世界で料理人になりたいから。

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ギルド長との話し合いからしばらく経って僕たちはマナシヤを出発する日になった。

あれからハルさんとは和解しハルさんは僕たちの旅を応援すると言ってくれた。

これで心置きなく次の旅をはじめられる。

街の正門を出ようとすると、ギルド長とハルさん、モモさんが見送りに来てくれた。

「クック、気をつけて行ってこい。」

ギルド長は力強く僕の背中を押してくれた。

「わたしとクックさんなら安心なのです。」

アリスは自信に満ちた表情で答える。

そういうのは送り出す側が言うことな気はするけど…

「行ってらっしゃい。待ってますから。」

ハルさんは涙を流しながらそう言った。

待ってますからというのは少し引っかかるが、ハルさんにはお世話になったしいつかまた会いにこよう。

「クックさん。約束忘れないでくださいね。」

モモさんは完璧な営業スマイルだ。

さすがとしか言いようがない。

「はい。僕もまたここを訪れることはあると思いますし、その時はよろしくお願いします。」

3人ともニコニコしていた。

「で、約束ってなんですか?」

笑顔のままハルさんは聞いてきた。

なんだか怖い。

「あれだよ、クックさんの料理を食べに行くってやつ。」

モモさんナイスフォロー。

「ああ、ダブルデートだっけ。楽しみだなぁ。」

「その時は最高の料理を振る舞いますよ。」

「そりゃいい。わしも参加しようじゃないか。」

ギルド長も興味があるようだ。

僕としてはたくさんの人に食べてもらいたいから大歓迎だ。

「「いや、ギルド長は結構です。」」

受付嬢2人が冷たくあしらう。

確かに、若い女性2人の話におっさんが乗ってきたらキモいけど…

これは流石に可哀想だよ。

案の定ギルド長はしょんぼりしてる。

「まあまあ、みんなで来てくださいよ。お客さんが多いのはいいことですから。」

「はーい。」

不満そうに返事をしたのはモモさん。

ハルさんはギルド長を睨みつけている。

せっかくいい雰囲気でお別れができると思ったのに…

「それでは、僕はこの辺で。本当にお世話になりました。」

「ありがとーございました。」

アリスもちゃんとお礼を言えた。

こんな感じで、僕は僕にとっての最初の街を出発した。

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最近、僕が料理をつくるときはアリスに配膳やものの準備を手伝ってもらっている。

いつか僕の店を出したら接客と配膳を任せたい。

会計は絶対にやらせちゃダメだ。

つまり、店を始めるときにはもう1人は従業員が必要だ。

ちなみにこの手伝いはアリスが自分からやりたいと言ってきたのだ。

僕の役に立ちたいという理由もあるとは思うが、1番は怒られたくないからだろう。

実は、アリスと出会って間もない頃アリスは僕が料理をしているときにつまみ食いをして鍋を空にしたことがあった。

そのとき僕はちょっと強めに叱って、一発殴ったんだけど、ちょっと強すぎたみたいで大怪我をさせてしまった。

もちろんすぐ治癒魔法で回復したんだけど、アリスはそれ以来つまみ食いは悪いことだと学習したらしくつまみ食いをやめた。

ついでに僕の機嫌をとろうと手伝いを始めたのだ。

今はできることが増えていくのが楽しいみたいだから良かった。

そしてアリスは採集が得意だった。

氷虎族は人間より五感が鋭いから薬草の匂いを覚えさせればたくさんとってきてくれるし、足腰の強さを活かして高いところの木の実を簡単にとってくれる。

これは嬉しい誤算だった。

相変わらずお行儀は悪いけど…

それもだんだんマシになってきた。

それに狩りは流石の腕前。

効率を考えることはできないだろうが本能的にほぼ毎回最善なんじゃないかという選択をする。

僕も狩りについてはアリスから学ぶことが多い。

最初の頃は従業員候補としてとんでもないハズレを引いたと思ったけど、なんやかんやいいコンビになってきたかも。

アリスといるのは楽しいし。

そんなことを考えていたら、近くで小さい生き物の気配を感じた。

魔力は感じるが、動物か魔獣か特定はできない。

ウサギとかそんな感じだと思うけど、警戒はしておこう。

どうやらアリスも気づいてるようだ。

「アリスお願いできる?」

「任せてください!」

アリスは一気にかけだした。まずは一直線に獲物目掛けて。

獲物がアリスに気づいたようだ。

逃げ出したのがわかった。

アリスは足音を消し、獲物の到達予想地と自分を直線で繋いで走り出す。

こうなったら、アリスの勝ちだね。

これが今の日常。

僕は修行の旅を思ったよりも満喫している。

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