第15話頑張れハルさん
ハルさんが泣き出してからどれくらいの時間が経っただろう。
僕とアリスは、冒険者ギルドの会議室にいる。
ギルド長とモモさんという受付嬢と一緒に。
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ハルさんが泣き出してすぐにモモさんは僕たちのところに来て謝りながらハルさんを奥の方に連れて行った。
その後すぐにモモさんは戻ってきてアリスの冒険者登録をしてくれた。
登録手続きが終わって帰ろうとすると、僕たちを呼び止めて会議室に連れてきた。
ちょっと準備があるからとモモさんは一旦会議室から出て行った。
「これから何があるのです?」
アリスは不思議そうにしている。
「僕にもわからないけど、騒がせちゃったし怒られるかもね…」
「なんでですか?わたしたち悪くないです。」
いや、お前は悪いところあっただろ。
「でも、アリスも大きい声出して騒いだし、ハルさんと口論になってたから。」
「なんでですか?全部あの女が悪いんです!」
そういうところだぞ。
「アリス、人間の世界では喧嘩両成敗って言葉があって、喧嘩をした人全員に非があると考えられてるんだ。」
「ヒがある?」
「悪いってこと。」
こういうやりとりも日常だと思えるようになってきた。
「おかしいです!喧嘩してないです。喧嘩は負けた方が悪いんです。」
確かに、魔獣にとってはあれは喧嘩ではないだろう。
でも、僕について来る以上アリスには人間の価値観に合わせて生活してもらわないと困る。
「アリス。僕と旅をするなら人間のルールに合わせてもらう。それができないなら僕についてこないでほしい。」
「わかりました…」
アリスはバツが悪そうに答える。
そうしているうちにモモさんが帰ってきた。
「すみません。遅くなりました。改めまして、私はマナシヤ冒険者ギルド受付嬢のモモです。ハルとは同期なんですよ。」
「今回はお騒がせしてすみませんでした。」
一応謝っておく。
「いえいえ、今回は完全にこちらに非がありますから。」
「そうで…」
アリスが言い切る前に圧をかける。
「すいませんでした。」
アリスは多分僕に謝ったのだろうが、結果的にモモさんに謝ったように見えるからよし。
「ただいまギルド長が向かっていますのでそれまで世間話でも。」
え?ギルド長?
「ギルド長が?」
「はい、今回の件できちんと謝罪をしたいとのことで。」
「そうでしたか。わかりました。」
どうやらハルさん以外はまともな人が多いようだ。
「実はハル、クックさんと初めて会った後、運命の人だって騒いでたんですよ。」
「そ、そうだったんですか。」
なんでだよ…
「それで一緒に呑んだ後もたくさん慰めてもらったって自慢してて、随分クックさんを気に入っていた様子でしたよ。」
「あはは…そんなつもりじゃなかったんですけどね…」
「あの子、このギルドの受付嬢で結婚できていないのが自分だけだからってかなり焦ってたらしくて…そう言う私も先月4人目の子を産んで復帰したのでプレッシャーをかけてしまったのかもしれません。」
「確かに、同期は4人も産んでるのに自分は未婚だと焦ることもあるんでしょうね。」
「しかも、あの子年に一度の受付嬢認定試験に2回落ちてるから今32歳なんです。同期と言っても私は一発合格なので今30なんです。」
ハルさん裏で年齢バラされてるなんてお気の毒に…
モモさんもモモさんで口軽くない?
「あはは…受付嬢という職業もいろいろ大変なようで…」
「でも、あの子32歳で、男性経験ゼロで、かなり重いですけど悪い子じゃないんです。」
ハルさんの未婚の理由あなたが作ってませんか?
「でも、ハルさんはお綺麗ですし、きっといい出会いがあると思いますよ。」
僕は心からハルさんを応援しようと決めた。
「ちなみに、クックさんはどうですか?あの子。」
「僕は旅を続けたいので、今誰かと結婚とかは考えてないです。」
「そうですか。まあ、しょうかないですよね。どうして旅をしてらっしゃるんですか?」
「料理人になりたいんです。そのためにいろんなところを回って、文化を学んで、知識を深めたくて旅をしてるんです。」
「素敵ですね。いつかハルとダブルデートでもしてクックさんの料理食べに行きますね。」
実現するだろうか。
「ぜひいらしてください。」
「その時は子供用のメニューも準備しててくださいね。」
子ども、ハルさんにできるまで何年かかるだろうか。
「もちろんです。」
ここまで言い終わると会議室の扉がノックされた。
ギルド長だろう。
もしかしたら入るタイミングを伺ってたのかも。
扉が開く。
背が高く、体格のいい強面のおじさんが入ってきた。
「初めまして。マナシヤ冒険者ギルド、ギルド長のシロクマです。この度はうちのハルがご迷惑をおかけしたようですみませんでした。」
シロクマ、この人の第一印象はかなり強い。
能力を見たが、まだBランク冒険者級の実力がある。
年齢を考えれば、もとはAランクかもしれない。
「いえいえ、こちらこそお騒がせして申し訳ありませんでした。」
「確かに、随分お疲れのようで。」
シロクマさんはアリスの方を見る。
嫌な予感がしてアリスを見ると、寝ていた。
確かに途中から空気だったけど…
モモさんとの話に夢中で気づかなかった。
「あら、クックさんとのお話に夢中で気づきませんでした。」
モモさんも気づいていなかったらしい。
「すみません。」
「いえいえ、まあ、かなりの言い合いだったらしいですから。」
恥ずかしかった。
このあとは他愛もない話をしたばかりで、特にトラブルもなかった。
ハルさんには明日あって話すことにした。
このままマナシヤを出てくわけにもいかないしね。
アリスのことについては記憶が曖昧な子ということにしたが、そのせいでこの近くにかなり強い魔獣がいるかもしれないと言うことになり、余計な心配をさせてしまった。
まあ、このくらいなら問題ないよね。
とりあえず、一通りやることはやったから、そろそろマナシヤを出発しよう。
なんやかんや楽しい街だった。
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