第14話アリスVSハル

僕は今、戦争を始めようとしているのかもしれない。

マナシヤに来て冒険者ギルドで受付嬢のハルさんと出会った。

ハルさんは美人だが未婚で、僕で妥協しようとしているのか僕を食事に誘ったり、ギルドで強引に僕を担当したりすることがあった。

そんな人のところに僕は女性を連れて行こうとしている。

女性と言ってもメスの魔獣のことなのだが、今は人型に変身しているため見た目は人間の女性と大差ない。

ハルさんがつっかかってこなければいいんだけど…

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ギルドの扉を開く。

ハルさんが普段座っている受付テーブルは向かって正面やや右にある。

そちらを見てみると、僕に気づいたらしいハルさんが笑顔を向けている。

が、次の瞬間、ハルさんの笑顔が盛大に引き攣った。

これ、ダメなやつだ…

恐る恐るハルさんのところへ向かい、口を開く。

「こんにちは。」

「こ、こんにちは。クックさん。」

明らかに動揺している。

もう帰りたい。

「あの、今日は僕の横にいる子を冒険者登録して欲しくてきたのですが。」

「か、かかか、可愛らしい方ですね…クックさんとどういう関係なんですか?」

いや、それ最初に聞くことじゃないよね…

「旅を一緒にする仲間なんです。」

「へ、へぇ。一緒に旅を。一緒に…すごく立派なおっぱいですね。クックさんはやっぱり大きい方が好みなんですか?」

どうやらハルさんはもうダメらしい。

でも流石に、胸のことを聞くなよ。

まあ、ハルさんは小さめだから気になるのかもしれないけど、でも、僕は一応客として来てるんだから、正規の対応をしてほしい。

「あの…手続きを進めてもらえませんか?」

「あっ、し、失礼しました。えっとお名前は?」

やっと、正規の手順に戻ってくれた。

「アリスです。忘れました。」

こっちはこっちで大変だ。

種族を聞かれた時だけ忘れたっていえばいいのに…

「え、えっと、何を忘れてんでしょうか?」

そりゃこうなるよな…

「ん?忘れました。」

「は、はあ…」

これについては本当にごめんなさい…

「あ、僕から説明しますね。この子はアリスという子で、森の中で倒れていたところを拾ったんです。」

「ん?クックさん?」

アリスが物言いたげに僕を見ている。

もうお前はしゃべるな。

「ここは僕に任せて。アリスはとりあえず静かにしててね。」

「わかりました。」

「まあ、こんな感じで記憶とかもちょっと問題が…」

そう言いながらハルさんの方に向き直すと、ハルさんの目から光が消えていた。

「アリス…呼び捨て?それにタメ口…私より仲良いのかな?」

小声ではあったが、しっかりと聞こえた。

思ったより深刻だ。

僕はパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

「あの…ハルさん大丈夫ですか?」

「あっはい…大丈夫、だと、思い、たいです…」

大丈夫じゃないようだ。

「えっと…担当の方を変えてもらった方がいいかもしれないですね…」

「本当です。この女ちゃんと喋らないのです。」

突然アリスがそう言い放った。

終わった。

「はあ?私がちゃんとしゃべれない?舐めないでください。何年この仕事やってると思ってるんですか?」

ハルさんが顔を赤くして言い返す。

いや、今回に関しては、ちゃんと対応できてなかったよね。

「どうでもいいですよ。今、全然ダメだったじゃないですか。」

アリスもすかさず言い返す。

珍しくアリスの言い分が正しい。

「はあ?こっちは20までみっちり勉強して、2回も試験に落ちたのに諦めずに挑戦して、受かって、もう10年くらい頑張ってるんですよ。」

すごい剣幕だ。

でも、ハルさん、ほぼ年齢言っちゃってますよ。

それはそうとハルさんもハルさんなりに色々苦労して掴んだ地位なのだろう。

やっぱり受付嬢も大変なんだ。

「何言ってるのか一個もわかりません!」

アリスは多分、本当に言ってることを理解できていないのだろうが、喧嘩腰のままそんなこと言ったらダメだよ。

きっと、ハルさんは自分の努力がバカにされたと思ってさらに怒るんだろう…

「はあ?私の努力がわからない?周りが冒険者になったとか、家継ぐために働くとか、騎士になったとか、冒険者ランク昇格したとか、昇給したとか、彼氏できたとか、いい出会いの場があったとか、結婚したとか、そんなこと言ってる中、私は勉強して必死になって受付嬢になって、やっとこれからいい出会いがあると思ったら彼氏のかの字もなくて、同期も後輩もどんどん結婚してって、そんな気持ちがわからない?喧嘩売ってるんですか?」

ほらね…あれ?途中からおかしくない?

僕もわからない話になってきた気がする。

「だから!わかんないです!」

アリス…もうやめて…

「はあ?そもそもあなたなんなんですか?突然出てきて、私のクックさん取ってくなんて、何様ですか?」

僕はあなたのものじゃないです。

てか、ハルさんはあ?って言い過ぎ。

「だから!私はアリスです!クックさんの旅な…なんとかです!」

嘘だろ?仲間って単語出てこないの?

「なんとかってなんですか?いかがわしい関係なんですか?もうエッチまでしたんですか?」

ハルさん…業務中ですよ…

「忘れました!」

違う!絶対今じゃない…

「忘れた?クックさんは酔わせて襲ってきたんですか?寝てるところを襲ったんですか?ドSなんですか?ずるいじゃないですか!」

おいおい、僕が悪いヤツみたいじゃないか…

ハルさんもずるいってなんだよ。

もう我慢できない。

「アリス、静かにしようか。」

圧をかける。

「は、はいぃ。」

すぐに大人しくなった。

「ハルさんも落ち着いてください。僕はそんなことしませんよ。」

「うぅ、でも〜。私クックさんと結婚するのに〜」

ハルさん…もうダメなのか…

「僕、今結婚なんて考えてませんよ。だから、目を覚ましてください。」

「えっ?」

ハルさんは一瞬動かなくなった。

が、次の瞬間。

「うわ〜ん。クックさんに振られた〜。」

と大きな声で泣き出してしまった。

結構ガチの泣き方だ。

待ってくれよ。

僕、自分の倍くらい生きてる人が泣き喚いてるとこなんて見たくないよ。

こんなの前世の母親の最期以来だ。

嫌なものを思い出してしまった。

とにかく、誰か助けて。

ハルさんをどうにかして…

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