第13話アリス、人間を知る

アリスと出会った次の日、気は進まないが僕たちは冒険者ギルドに行くことにした。

だが、その前にアリスには最低限のマナーを知ってもらおう。

まずは食事。

「アリス。ちょっといい?」

「なんですか?」

尻尾をブンブン振って、目を輝かせている。

「これの使い方を覚えて欲しいんだ。」

取り出したのは、スプーンだ。

これならすぐに使えるようになるはずだ。

「なんですか?これ?」

アリスは不思議そうにスプーンを見ている。

「スプーンといって食事の時に使うんだよ。」

そんなこんなでスプーンの使い方をレクチャーしたのだが、

想像以上に大変だった。

アリスはスプーンをグーで握って口に物を運べるようになるまで2時間かかった。

人間だって大きくなってから箸の使い方を覚えるのは大変だけど、それを加味してもアリスは不器用すぎる。

思った以上に種族間の文化の違いを埋めるのは大変かもしれない。

アリスを従業員として雇う未来が見えなくなってきた。

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疲れたので、お昼を外の屋台で済ませてからギルドに向かうことにした。

屋台選びの際、アリスはせっかく覚えたスプーンを使いたいらしく、スープや煮物の屋台に行きたいと言って聞かなかった。

本当に子供っぽい。

でも、最近はアリスのこういうところに癒されている自分がいる。

まあ、そんな癒しの時間はおそらくもうすぐ地獄と化すだろう。

そう。ギルドに着いてしまったのだ。

つまり、僕はアリスを連れてハルさんに会うことになるのだ。

今世で1番のピンチなのではないか、とさえ思ってしまう。

ギルドに入るのをためらっていると、アリスが口を開いた。

「クックさん。人間のメスは乳の小さい者が多いですけど、あれでちゃんと母乳が出るのですか?」

すごく怒られそな発言だ。

人間をメスって言うのは良くないね。

だが、これについては本で読んだことがある。

「人間は魔獣とか獣人に比べて生涯で産む子供の数が少ないから、アリスに比べると小さい人が多いんだよ。」

「なるほど。ん?でも、エルフは全然子ども産まないのに乳が大きいですよ?」

「あぁ、それはエルフは子供が産まれずらいから産まれた子を確実に健康に育てるためにそうなるらしいよ。」

「難しいです。では、人間だけ貧相な乳なのですか?」

言葉を選べ。

でも、こういうの気にする女性はいるだろうし、ある意味この世界の人間は不遇なのかも。

「そういう傾向があるってだけ。」

「では、人間のメスはどうしてあんな邪魔そうな服を着ているのです?戦いづらいのではないのですか?」

「メスって言うのやめようか。女性と言ってね。」

「わかりました。なんでですか?」

さっきの質問の答えを知りたいんだろうけど…

なんかところどころ言葉が足りないよね。

「それは、自分をよく見せるためなんだけど、うーん、アリスは僕の上着返す気ある?」

「それは、命令ですかぁ?」

アリスは泣きそうな目をしている。

なんか一つの芸になってない?

「嫌でしょ?それと似た感じだよ。」

「わかりました。では露出が多いのも同じですか?クックさんは人間は暑いし寒いって言ってましたよね。」

だんだん会話が怪しくなってきたな。

人間は白虎族と違って、寒さも暑さも感じるってことを言いたいんだよね。

「まあ、そこは僕も不思議だと思うんだけど、多分そういうことなんだろうね。」

「わかりました。ではでは、ああやってくっついて歩くのはどうしてですか?」

アリスはカップルのような人たちを指さしている。

アリスは尻尾をブンブン振り始めた。

僕に人間のことを聞くのが楽しくなってきたらしい。

「あれは、前に言ったカップルとか夫婦とかだよ。きっと仲がいい証拠なんだよ。」

「つがいですか?人間のつがいは仲がいいのですね。」

「白虎族は違うの?」

「はい!我々、氷虎族は強いオスがメスを従えるのです。弱いオス子孫を残す価値がないので強いオスが従えるメスの下僕になるのです。弱いメスは強いメスに虐められてしまうのです。」

魔獣も色々大変なんだな。

人間と比べると戦闘力重視だから弱いと本当に惨めな思いをするだけなんだろう。

そういえばずっと気になっていたことがある。

「そういえば、アリスは自分のことを氷虎族って言うけど、こだわりがあるの?」

一応、人間の中では白虎族と言うのが正確な学名だ。

「白虎族と言うのは、黒龍族と比べられてるようで嫌いなのです。」

確かに、前世でも龍と虎は対照的に描かれることがあったけど、こっちの世界でも似たような関係なのかもしれない。

ちなみに、黒龍族というのは、この世界の魔獣の中で最強とも言われている種族だ。

「黒龍族とは仲が悪いの?」

「ずっと喧嘩しているんです。魔王様に使える魔獣の中に魔獣十(まじゅうと)と言われるすごいヤツが存在して、昔は1、2を取り合っていたのです。」

すごいヤツって…

まあ、そういう位というか役職のようなものがあるのだろう。

なるほど、ライバル的な存在なのか。

いや、僕たちからはそう見えても、きっと本人たちにとっては種族の誇りをかけた大切な勝負を競い合ってるわけで、もっと深い因縁のようなものがあるのだろう。

確かに、そう言う相手と同列に語られるのは嫌なことだよね。

「魔獣十ってやっぱり名誉なことなの?」

「メイヨってなんですか?」

今いい流れだったのに…

「誇り高いことって感じ。」

「はい!そうなんです。」

「そっか、じゃあ僕もこれからは氷虎族っていうようにするよ。」

「はい。そうするといいです。」

なんで上から目線なんだ…

でも、こんなふうにアリス通して魔獣について知ることができたのはいいことかもしれない。

人間以外の種族のことはやっぱりまだわからないことが多いからこれからも勉強を続けなくちゃ。

そのためにもこの旅を大切にしたい。

だが、これから待っているのはアリスとハルさんの対面だ。

アリスは僕が威圧すれば大人しくなるからまだいいけど…

ハルさんはどうにもならないし…

会ってなかったこの数日間にハルさんにいい出会いがあった、なんてことにならないかな。

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