第12話アリスはクックに好かれたい

綺麗な白の長髪、ところどころ混じる黒髪が白虎族らしさを醸し出している。

細長いしま模様の尻尾はで感情の起伏が見て取れる。

魔獣の人型の形態は初めて見るから色々気になるが、まずは服を着てもらおう。

確かリュックの中に冬用の上着があったはず。

母さんからのお下がりだから、アリスのような女の子に似合うだろう。

「ご主人様!どうです?人間になったわたしは?」

アリスはドヤ顔で立ち上がる。

「うん。いいと思うよ。」

別に、人になったわけじゃないんだけど…

つか、裸を堂々と見せつけるな。

「でも、乳も生殖器も変な感じです。」

やめなさい、それは人前で堂々といじるものじゃない。

「あった。とりあえずこれを着て。」

「なんでですか?」

そこから説明しなきゃいけないのか。

「人間は他の人に裸を見せるのを嫌うんだ。夫婦とかカップル以外は。」

「フウフ?カップル?なんですかそれ?」

「アリスたちで言うところのつがいみたいなものだよ。」

「わたし、ご主人様とつがいになれるのですか?」

違う。

なんで嬉しそうなんだ。

「そうゃない。とりあえずこれを着て。」

「でも、つがい…」

しょうがない…これはしたくなかったけど…

目つきを悪くする。

「これは命令だ。」

魔獣は自分より強い者に逆らえない。

その性質を利用した。

「はい!」

アリスはすぐに着た。

尻尾の様子からして、着なきゃ殺されるとでも思ったのだろう。

意外と似合っていた。

「いいかい?僕と一緒に旅をするなら人間の生活を覚えてもらう。服を着るのもその一環だ。」

「わかりました。イッカンってなんですか?」

これは僕の失態だ。

白虎族が一環なんて知ってるわけがない。

「そのうちの一つということだよ。」

「難しいです!」

なんでそんなに元気に言うんだよ。

「まずは、街に行って服を探そう。」

「わかりました。」

「で、街に行くにあたって、アリスには白虎族であることを隠してもらう。」

「どうしてですか?わたしは誇りある氷虎族なんですよ?」

「街の人たちがびっくりするからだよ。それができないなら街へは連れてけない。」

「わかりました…」

アリスは少し不服そうだ。

「とりあえず、そうだな、僕がアリスを森で見つけて保護したことにするから、アリスは種族のことを聞かれたら覚えてないって言ってね。」

森で倒れていた、記憶喪失の獣人という設定だ。

「わかりました。覚えてないです。」

なんだか心配だが、元の知能の低さを誤魔化すのにも記憶喪失という設定は使える。

何事もないといいんだけど…

「それと、ご主人様って言うのやめてくれる?」

「ではなんとお呼びすればいいのですか?」

「好きに呼んでいいよ。」

「では、ご主人様で。」

話聞いてたのか?

「アリス、ご主人様はダメだと言ったはずだ。」

「しかし、ご主人様はわたしより強いのです。」

「だから?」

「ご主人様なのです。」

「他の呼び方はないの?」

少し圧をかけてみる。

「主様…」

アリスはしゅんとしながら答える。

全然変わってないよね。

「他は?」

「難しいです…」

「名前で呼ぶのはダメなの?」

「強い方の名前は気安く呼べないのです…」

「そっか…じゃあ敬称をつけてみるのは?」

「ケイショウ?」

「名前の後にさんをつけると相手へ敬意を払っていることになるんだ。」

「わかりました。でも、ご主人様のお名前は?」

「クックって言うんだ。」

「わかりました。クックさん!」

アリスの顔がパッと明るくなった。

この子、子供のような無邪気な笑い方をする。

幸せそうなのが伝わってくるいい笑い方だ。

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アリスは街に着くと初めて見る食べ物に興味津々だ。

「服を買った後、何か食べてみる?」

「はい!」

本当に子供みたいだ。

服屋に着くと、アリスは初めて見るであろう服にまたも興味津々だ。

「どういうのがいいとかある?」

「強いのがいいです。」

強いの…おそらく戦いやすいのということなのだろう。

僕は伸縮性のいい生地のものを探していると、スパイが着るような服に目が止まった。

ピタッと着られるものだから戦闘の邪魔になりにくいだろうし、魔力伝導率の良い素材だから防御力も魔力を込めれば、かなりのものになる。

肌の露出も少ないから肌が剥き出しのとこを狙われたりしないし、温度変化にも強い。

考えれば考えるほどアリスにはピッタリに思えてきた。

「アリス、これなんかどうかな?」

「なんか、かっこいいです。」

尻尾をブンブン振っている。

気に入ったようだ。

でもこんなに尻尾を振ると危ないな。

「じゃあこれにしようか。」

その服を買ってアリスに着せてみたのだが、なぜか僕の上着を返してくれない。

「その上着、欲しいの?」

「はい!クックさんがわたしにくれたものですから。大切にします。」

「暑くないの?」

「氷虎族は暑いのも寒いのも強いんです。」

暑いのにも寒いのにも強いってことだね。

大切にしてくれるならあげてもいいか。

こうしてアリスのコスチュームは夏も始まりそうなこの時期にしては少々暑そうなものに決まった。

まあ、似合ってるし不自由もないみたいだからいいか。

そういえば、アリスも一応冒険者登録するべきなのだろうか?

した方が良いのだとすれば、ギルドに行かなければならない。

ハルさんの元に女の子を連れて行く…

考えただけで憂鬱だ。

とりあえず、アリスは食べ物に興味があったみたいだし、食べ歩きでもしながらどうするか考えよう。

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アリスは本当に美味しそうに物を食べる。

自分が作った物をこんな顔で食べてもらったらきっと嬉しいのだろう。

だが、アリスはかなり食べ方が汚い。

自分が作った物をこんな風に食べられたらきっと殴ってしまうだろう。

やはりアリスには早めに礼儀作法を教えて、そんなにたいそうな物じゃなくてもお行儀は良くなってもらおう。

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