第10話料理人になること忘れてないよね?

僕の顔は母さん似だ。

だから、そこそこ顔面偏差値が高いらしい。

前世でも今世でも僕はモテることに対する憧れなんてなかった。

前世については今まで何度も言ってきたように、そんなこと考えられない程の憎悪に囚われていた。

今世では、別に人が嫌いなわけではないけど、人との距離が縮まることを恐れている。

親しくなればその分だけ相手のことを深く知ることになる。

良い面も、悪い面も。

逆にいえば、ボロが出やすくなるということだ。

今の僕にとって最も恐ろしいこと、それは僕の、睡蓮冬落の残虐性が暴かれることだ。

これは死よりも恐ろしいことだ。

とまあ、話が少し脱線したけど。

つまり、僕にとってそこそこ顔がいいというのはデメリットでしかない。

実際、モーブレには絡まれるし、ハルさんにはBランク昇格の話を持ってこられるし。

初めて母さんを恨んだかも。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ブランディングって…流石にそういった理由で昇格することはできませんよ。」

「では、マナシヤにいるうちに昇格試験を受けてみては?」

ハルさんは結構強引なところがある。

「昇格試験なら、今度王都に行くつもりですし、その時にでも。」

「そうですか。残念です。またマナシヤに帰ってこられるんですか?」

帰るっていう言い方は引っかかるけど、また来ることはあるだろう。

「そうですね。旅はしばらく続けるつもりなので、またここに来ることはあると思いますよ。」

「絶対ですよ。お待ちしてますから。」

ハルさんは目にうっすらと涙を浮かべていた。

数日前この街に来て大して長い付き合いでもないのに涙を流せるとはすごいな。

それとも僕が帰ってくるよに圧をかけているのだろうか。

いけない、こういう考え方をしてたら人を信用できなくなってしまう。

「そんな顔しないでくださいよ。まだもう少しここに滞在する予定なので、明日もまたお会いすることになると思いますし。この街にもう一度来ることもきっとあると思うので。」

「それでは、明日とか一緒にお出かけしませんか?」

おいおい、一応業務中だぞ。

「おいおい、ハルさんいくら婚活がうまくいってねえからって15の男に手を出すのはどうなんだ?」

「そうだぜ。あんたクックの倍くらいの年だろ?流石に厳しだろ。」

そう声を上げたのはカマセとアーテ。

僕でもわかる。

こいつらは一生独り身だろう。

でも意外だ。

ハルさんは美人だし、それでいて受付嬢なんだから言い寄ってくる男なんてたくさんいるだろうに。

「あの、私年齢は公開していないんです。勝手にアラサー扱いしないでください。」

ハルさんはとんでもない圧を放っている。

でも、ハルさんには申し訳ないが、僕にも20代中盤から後半に見える。

まあ、僕には40過ぎても全然老ける様子がなくて、まだ制服を着られそうな母さんがいるからそこら辺の感覚は少しズレてるかもしれないが…

「だがよぉ、ハルさんはちょっとばかり理想が高すぎると思うぜ。」

「そうだよ、今まで言い寄ってきた男の中にもそこそこいいのはたくさんいただろう?」

なるほど理想が高過ぎてズルズルきたパターンか。

「何言ってるんですか!妥協なんて許されません!妥協した先に真実の愛なんて存在しませんよ。」

この人、大人になって真実の愛とか、恥ずかしくないのだろうか。

というか僕がありになるって、ハルさんは年下好きなのだろうか。

そんなふうに3人の話が盛り上がり始めたので僕はこっそりと宿に戻った。

冒険者カードは明日ギルドが閉まる直前にでも取りにこよう…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日、僕はギルドに行くまでの間。

街から少し離れた所にある森で薬草採取をしていた。

森の少し奥まったところまで入ってみると、運よく薬草の群生地を見つけた。

僕が住んでいた所にはなかった薬草も何種類か見つけることができた。

もう少し奥までいってみたいし、マナシヤにもう少し滞在するのもいいかもしれない。

いつのまにかモーブレたちはマナシヤを出発していたようで僕としては嬉しい限りだ。

まあ、ハルさんはいるんだけど…

そんなん感じで薬草採取を続けながら奥へ進んでいくと血の匂いがした。

息を潜めて匂いの方へ向かうと、ビックバイソンの死骸があった。

あたらしいもので、噛まれたような跡がある。

これはギルドに知らせた方が良さそうだ。

日が傾き始めている。

ギルドは22時までやってるから夕食とか諸々のことを済ませてから行こう。

それでも少し早めに着くから少し気が進まない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ギルドに着くと、ハルさんが少し怒った様子で近づいてきた。

「昨日はどうして先に帰っちゃったんですか?」

「少し疲れてしまって…あはは…」

「そうですか。では、これがクックさんの冒険者カードです。昨日は魔力適性の鑑定士がいなかったのでその欄だけ空白ですが、問題ないはずです。」

「わかりました。ありがとうございます。」

僕がカードを受け取るとハルさんは少し顔を赤らめた。

「それで、デートの件なんですが…」

「その前に、実は今日、森で何かに噛まれたようなビックバイソンの死骸を見たんです。」

今度はハルさんは真面目な顔になる。

この辺はさすがと言ったところだ。

「本当ですか?わかりました。すぐにみなさんに知らせます。寂しいですが、緊急事態の可能性があるので、今日のところはここでお別れです。」

「はい。それでは。」

良かった。穏便にすんだ。

まったく、最近は冒険者関係のことで忙し過ぎた。

僕は料理人になるための旅をしているんだ。

冒険者関係のことに時間を取られるのは正直かなりめんどうだ。

でも、料理人になるってことは自分の店を出すということだ。

どこに店を出すとか、規模をどうするとか、その辺のことはまだまだ構想中だ。

仕入れ先は、ウラギに頼めばいいとして、従業員はどうしよう。

そういったことにつながるかもしれないから、人との関わりは大切にしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る