第8話めんどうな女性に絡まれました…

モーブレ・ディース団。

Bランク冒険者であるモーブレ・ディースをリーダーとした中規模パーティーだ。

モーブレ以外の団員はCランクが多く、BランクやDランクも何人かいる。

合計で15人いるんだとか。

ちなみに団員は全員女性、女性しか入れないというわけでなく男性からは少し敬遠されているらしい。

そんなパーティーに僕は今勧誘されている。

いや、入らないから。

「いや、僕は1人で旅をしたいのでせっかくのお誘いですが遠慮しておきます。」

こういう時は強く嫌と言うべきなんだろうが、僕はどうしても相手の顔色をうかがってしまう。

これは前世で身についてしまった悪い癖だ。

「いや、あんたは絶対に逃さないよ。私たちはこの組を結成してから5年、一度だって男の団員がいたことはない。つまり男に飢えてるってわけさ。」

この人はバカなのだろうか。

そんなこと言われたら余計入りたくなくなる。

まあ、元から入る気ないんだけど。

「おいモーブレ。お前、なんで男の団員が入らないのかまだ気づかねえのか?」

「もう少し自重するべきだぜ。」

なんだろう、カマセとアーテが頼もしく見えてきた。

「なんだい?私が眩しすぎるってことくらい知ってるさ。」

こいつ、重症だ。

「お前さんには教えとくか。あいつ性欲丸出しの下品な女だから男に相手されないんだよ。」

「今はかなりおとなしくなったが、昔は毎日のように男を誘った挙句、性病ばら撒いたんだぜ。」

「治療費も高くついて借金もあるんだよ。」

「冒険者はじめたのもそれがきっかけなんだぜ。」

「実力はあるから女の冒険者には先生として慕われてるんだ。」

「実際、教えるのは上手いんだが。男は怖くて関わりたくないってヤツが多いんだよ。」

なるほど。

確かに男としてはあまり関わりたくはないな。

「何こそこそしてんだい?そういうのは私と2人の時にしな。」

もういやだ。

というか他の団員はこういうの止めないのだろうか。

「先生。ここは一旦私が彼と交渉してみましょう。」

1人の団員が口を開くと他の団員も自分が自分がと名乗りをあげる。

そっちタイプだったか…

呆れた。

「うるさいよ!あんたたち。こういうのはまず組長である私が堪能するモンだよ。」

お前はもう少し言葉を選べないのか。

それに、僕の気持ちを少しは考えろ。

「はいはい。そこまでにしてください。それ以上はギルドとしても見過ごせませんから。」

そう声を上げたのはギルドの受付嬢だった。

助かった。

「チッ。しょうがないねえ。あんたたちとっと帰るよ。」

そういうとモーブレたちは、バツが悪そうな様子で帰っていった。

「ありがとうございました。」

僕は受付嬢に礼を言った。

「いえいえ、あの人たち若い男性冒険者に何度もあんなふうに声をかけてるのでよく苦情が来るんですよ。少し前にギルドから謹慎処分の下したのですが、反省してませんね。」

謹慎させられてなおあれか。

図太い奴らだ。

「ギルドの方も大変なんですね。」

「そうなんですよ。ああいう冒険者どうしのいざこざがあれば仲裁しなきゃいけませんし、こんなふうに冒険者が問題を起こせばギルドから急いで来ていろんなところに頭下げなきゃいけませんし。」

彼女が指差した方を見てみると、さっきまで僕を取り囲んでいた冒険者たちが酔い潰れていた。

「いつの間に…」

「本当大変ですよ…確かに給料は悪くないし、有給制度も充実してるんですけど。小さい女の子たちが思ってるほど夢のある仕事ではないんですよ。」

あれ?なんか愚痴が止まらなくなってない?

「良かったら何かお手伝いしましょうか?僕もこの騒動に関わってますし。」

「本当ですか?ありがとうございます。それでしたら、この人たちを起こした後ギルドの隣にあるバーで一緒に飲みましょう。」

ん?

「えっと…僕…」

「ああ、申し遅れました。私、マナシヤ冒険者ギルドの受付嬢をしております。ハルと申します。冒険者カードを発行した時以来ですね。」

確かに、冒険者カードを発行してもらったときの担当もこの人だったけど…

「あ、あのー、僕はこの人たちを起こせばいいんですよね?」

「はい、その後私のこと慰めてくださいよ。私結構疲れちゃいましたし、クックさんの顔タイプですし。」

「あの、ハルさん、モーブレさんと同じことしてません?」

「違いますよ!私はじっくり距離を詰めたいタイプですし。今日いきなりえっちなことしようとか思ってないですから。それに私はちゃんと愛を持ってクックさんに接していますから。」

そういう問題じゃないんだけど…

「まあ、一度くらいならいいですよ。」

「そんなー。一度だけなんて寂しいじゃないですか。」

「あはは…」

どうやらこの街は早めに出た行ったほうが良さそうだ。

「そういえば、クックさんはこの街にどのくらい滞在するんですか?」

「あまり長居するつもりはないですよ。」

「そうなんですか。では明日とかちゃんと能力鑑定してみてはどうですか?」

能力鑑定。

前世でいうところの体力測定だ。

困ったな。

単純なパワーや敏捷性なんかは手を抜けばいいんだけど、魔力量は専用の道具を使って鑑定するからうまく誤魔化せるかわからない。

「いやぁ、そういうのは遠慮しておきますよ。わざわざ時間を取らせるのは悪いですし。」

「何言ってるんですか?能力鑑定なんて毎日やってますよ。日々の自分の能力の成長が見たくて毎日のように通ってる方のいるんですよ。」

「でも…」

「それに!クックさんCランクにしては強すぎるかもしれませんし。こういった場合能力の虚偽申告と捉えられるかもしれないんですよ。まあ、能力を低く見積もる方なんてなかなかいませんけど。」

どうやら逃げられないようだ。

「わかりました。では明日伺います。」

大丈夫だろうか。

かなり不安だ。

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その後、酔ったハルさんの愚痴を一晩中聞くことになった。

受付嬢って大変なんだな…

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