第7話いや、別に冒険者として名を上げるつもりはないんです。
おかしい。
僕は今居酒屋でたくさんの人に囲まれ、称賛の声をかけられている。
絶対におかしい。
たかがビックバイソンを10匹ばかり倒しただけなのに…
なぜこうなった。
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僕はビックバイソンを火魔法を使って10匹ほど倒したのだが、近くにいた別の冒険者がその様子を見て僕のことを異様に持ち上げてきた。
その冒険者は二人組で、さすらいの冒険者としてそこそこ名が通っているらしい。
2人ともBランクらしいが、僕が見たところ父さんやウラギの方がステータスは高かった。
1人はカマセ・ドッグスといってパワーが390で魔力量は2950他に目立つ数字はなく魔法の適性は土と風。火も少しだけ使えるらしい。
背は少し低くて小太り40歳くらいに見える。
もう1人はアーテ・ホース。
この人は弓使いで弓術の数値が420と高いが他はパッとしなかった。
魔力量は2720だし、魔法の適性も水と雷の2属性だけで他は全く適性がなかった。
こいつは背が高いがかなり細身だ。
2人とも冒険者らしいたくましい顔をしている。
かっこいいわけではないけど。
それにしてもこの凸凹コンビは本当にうるさい。
「お前さんビックバイソンをあんなに簡単に仕留めるなんてすげーな。」
「ああ、あんたの火魔法には痺れたぜ。」
大袈裟だ。
ビックバイソンは火魔法か遠距離武器で対処すれば簡単に仕留められる、というのは普通に考えたらわかることだ。
この2人が無駄に僕を持ち上げるものだからまるで街の英雄といったような扱いをうけてしまった。
僕は料理人を目指してるだけの普通の旅人なのに。
「お前さんひょっとしてAランク冒険者か?」
「いやいや、もしかすればSランクかもしれないぞ。」
んなわけないだろ。
「いや、僕は先日Cランクになったばかりですよ。」
「はぁ?お前さんがCランク?それは謙遜しすぎってもんだぜ。」
「そうだ、俺たちがあんたを昇格試験に推薦してやろうか?この街なら結構ちゃんとした試験をうけられるぜ。」
余計なお世話だ。
「そんな。遠慮しておきますよ。まだCランクにもなったばかりなのに、こんなに早く昇格したら調子に乗っちゃうかもしれませんし。」
「だが、今の実力は絶対にCランクより上だぜ?」
「そうそう。あんたが謙虚なのは分かったが、冒険者ランクってのは適正なものにしておくもんだぜ?」
お願いだからもうやめて…
「いえいえ…」
ドン!
いきなり居酒屋の扉が開いた。
「話は聞かせてもらった。確かにそこのガキは強いらしいが、昇格するには幼すぎるんじゃないかい?」
振り向くと、そこには少し背が高めで豪華な装備を揃えた女性がいた。
どこか高貴な雰囲気がある。
外にはその仲間だろうか。何人か女性が立っている。
まあいい。
多分これはチャンスだ。
「そうですよ。何せ僕はまだ成人したばかりですし…」
「だから、そいつは私が預かってやる。」
は?
「どういうことですか?」
意味がわからなかった。
「そのままさ。私があんたを鍛えてやる。」
なんだそれ?
とりあえず彼女の能力を見てみる。
さっきの2人と同レベルといったところか。
目立つ数字はないが能力のバランスは取れていた。
魔法適性も火、水、風、土、光の5属性。
悪くはない。
が、こいつに教わることなんて何もない。
「お前、そんなこと言って有望株に唾つけといて師匠ズラして自慢したいだけじゃねえか。」
なるほど。それが狙いか。
「あんたは本当に小物だなぁ。」
僕もそう思う。
というか、この2人は片方が話したら次はもう片方が話さないといけないというルールでもあるのだろうか。
「黙ってな。この私にかかればそこの坊やでも立派な大人の男になれちゃうんだから。」
何を言ってるんだろう?
「いや、流石に素性のわからない人についていくことはできませんよ。」
成人したと言っても僕はまだ15歳だ。
こういう人は警戒した方がいい。
「坊や、私のこと知らないのかい?」
「はい。」
「はぁ?なんて惨めなガキなんだ。このモーブレ様を知らないとは。」
いや、誰だよ。
「すみません。聞いたことがないです。」
「全く、この由緒正しきディース家の一人娘を知らないとは。最近のガキは生意気だね。」
本当に聞いたことがない。
混乱していると、カマセとアーテが口を開く。
「お前さん安心しな。別に知らなくてもおかしなことじゃないぜ。」
「ああ、あいつが勝手にあんなこと言ってるだけで、ただの平民だよ。」
「貴族かぶれってやつさ。」
「取り巻きまで連れておめでたいやつだよ。」
良かった。
僕の勉強不足ではなく、あの人の頭がおかしいだけだった。
本当に良かった。
「とにかく、僕、今は昇格とか考えてないですから。また機会があればお願いするので。」
そうだ。僕は別に名のある冒険者になりたいわけじゃない。
Bランクに昇格するというのは僕の夢を叶えるには色々めんどうなんだ。
「そうか。まあ、あんま他の冒険者に干渉するモンじゃないか。」
「悪かったな。ちょっと騒ぎすぎちまった。」
よかった。
なんやかんやこの人たちも他人のプライベートに踏み入るようなことはしない。
そこら辺の常識はあるようだ。
「いえいえ、気にしないでください。別に褒められて悪い気はしませんから。またいつかお会いしたら、その時はいろいろお話ししましょう。」
「ああ、そうだな。」
「楽しみにしてるぜ。」
ようやく帰れそうだ。
今日はビックバイソンの肉の調理法を研究したかったのにもうすっかり夜になってしまった。
おかしいな。この居酒屋に入ったのは昼過ぎくらいだと思ったが。
これはダル絡みの域を超えてるよね。
さっきはあんなこと言ったけど、この人たちとはもう会いたくないな。
席を立ち、出口へ向かう。
「ちょっと待ちな。私はあんたを逃がさないよ。あんた、私の組に入りな。」
は?この流れで?
「あなたの組?」
愛想笑いも引き攣ってきた。
「そうさ!このモーブレ・ディース団に!」
おいおい。本当にもうやめてくれ…
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