第5話ウラギ・リベンジ

「ウラギ・リベンジ…もしかして、リベンジ商会の関係者の方ですか?」

「なんだ兄ちゃん、知ってんのか。リベンジ商会。」

ウラギは少し驚いたような顔をした。

「はい。もちろん知ってますよ。リベンジ商会は今やあの三大商会に迫る勢いで成長している新興商会じゃないですか。」

「ハハハ。それは買い被りすぎな気がするが、あれは俺の親父がつくったんだよ。」

なるほど。商人だったのか。

抜け目ないところは父親譲りなのだろうか。

こういう人との繋がりは大切にした方が良さそうだ。

「と言うことは、ウラギさんはいつかリベンジ商会を継ぐんですか?」

「まあな。今はその時に向けて修行中ってこった。交渉術もそうだが、商品の仕入れ方とか知っておくと使えるかもしれないし、いろんな地域のニーズを知ることも大事だと思ってさ。一応自衛のために冒険者はじめて、それでいまBランクなんだぜ。」

この人は自分に必要な能力を鍛えながらその周辺知識もちゃんと学ぶタイプらしい。

僕と同じだ。

「真面目なんですね。なんかちょっと意外です。でも、その気持ちわかりますよ。役に立つかもしれないと思ったものは全部手に入れたいですよね。」

ここは少し本音で話せた気がする。

「ハハハ。そうだよな。商人ってなると効率重視のヤツが多いからこういうとこなかなか共感されねぇんだよ。俺たち気が合うかもな。」

「そうですね。」

家族以外とこんなふうに会話をしたのはいつぶりだろう。

前世でもこんなことなかったかも。

「それにしても。リベンジ商会も大きくなったな。言っちゃ悪いが、この辺けっこう田舎だろ?こんなとこまで名が知られてるなんて。」

ウラギはなんだか嬉しそうだ。

「なに言ってるんですか。色々な商品を庶民、それもこんな田舎にまで安価で流通させてくれるのはリベンジ商会だけですよ。高価な商品はそれに合った買い手を見つけるのが上手だってかなりの評判ですし。」

実際、一庶民としてリベンジ商会の貢献にはかなり感謝している。

彼らがいなければ庶民が簡単に入手することができなかった商品なんて山ほどある。

衣類、本、魔道具、インテリア用品。

彼らのおかげで庶民におしゃれ文化が根付いたと言っても過言じゃない。

「ハハハ。確かに庶民をターゲットにした商業戦略はとってるな。でも、高価なものの買い手を見つけるのが上手いってのは、ただ単に客を選んでるだけだよ。」

確かにそうなんだろう。

でも、それは悪いことではないと思う。

「いいじゃないですか。商品を大切にしてるってことですよ。その方が売り手も安心できるでしょうし。」

「ハハハ。ありがとな兄ちゃん。そう言ってもらえると嬉しいぜ。そういえば兄ちゃんどこへ向かってるんだ?」

「マナシヤです。」

「じゃあ馬車で送ってやるよ。」

「ありがとうございます。」

「なんなら王都まで一緒に旅するか?」

「それは流石に悪いですよ。それに王都方面には行ったことがないのでなるべく自分の足で行きたいんです。」

「王都に行ったことない?じゃあ兄ちゃんどこで冒険者の昇格試験やったんだ?」

「地元の守人の元で修行したんです。」

「えぇっ!そうか…でも、だったら余計王都まで一緒に行くべきだぜ。」

「心配してくれてるんですか?」

「まあな。」

ウラギが心配してるのには訳がある。

冒険者の昇格試験というのは王都の冒険者ギルドで行われるものに比べて、地方の街や村の冒険者ギルドで行われるものは基準が緩くなることがある。

ましてや守人なんて個人によるものだからより緩くなりがちだ。

もちろん地方の冒険者ギルドや守人にも昇格試験の基準や対応に関する教育は行っているようだが、王都ほど厳格な試験を行うところはかなり少ない。

「大丈夫ですよ。僕が習った人は信頼できる人ですから。」

「へぇ、誰に習ったんだ?」

「ダド・フレリアンというんですが、ご存知ですか?」

「ダド・フレリアン…あぁ、知ってるぜ。確か腕はBランク級って言われてるよな。あそこの集落に行ったことあんだよ。集落の人を大切にしてるのがわかるし、集落の人たちからの信頼もあっていい守人だと思ったよ。確かにそれなら安心か。」

「フフッ、ありがとうございます。」

父さんが褒められてるのになんだか自分まで嬉しくなる。

「そういえば、兄ちゃんの名前は?」

「クック・フレリアンです。実は、ダド・フレリアンは僕の父なんです。」

「そうだったのか。いい親父さんを持ったな。ん?ダド・フレリアンの息子?ということはお前もディサペア島の出身か。じゃあ5年前のも体験してるのか。」

「はい。」

「そうか…大変だったな。」

5年前の…それはディサペア島から人が消えた事件。

通称ディサペア島事件のことを指す。

ディサペア島で魔獣の大量発生が起こり、その魔獣がそこに住んでいた人へ一斉に攻撃してきたのだ。

あまりの数に島にいる冒険者たちでもなす術がなかった。

高ランクの魔物もいた。

僕たちは島から逃げることができたが、亡くなった人も大勢いた。

この事件があって人間と魔族の溝が深まってしまった。

種族なんて関係なく仲良くすればいいのに。

なんて、僕がいえた立場じゃないか。

とにかく、それが原因で僕たちは引っ越した。

「いえいえ。今こうして生きてますから。」

「なんか辛いこと思い出させちまったな…そういえば、クックはなんで旅してんだ?」

気まずかったのか、強引に話題を変えてきた。

まあそうだよね。僕もその方が助かる。

「僕、料理人を目指してるんです。世界中の人、いや、どんな種族でも笑顔にできるような料理人を。」

「料理人?なんだ、てっきり魔獣を狩つくすとかそういうのかと思ったが。いいな。応援してるぜ。そうだ!俺と、いや、リベンジ商会と専属契約しないか?」

「本当ですか?ありがとうございます。でも、いいんですか?」

「あぁ、俺の勘がお前と組んどけって言ってんだ。」

「商人の勘ですか。頼もしいですね。それじゃあよろしくお願いします。」

「あぁ、よろしくな。クック。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る