第12話
「フェイズ波動、確定。ゼロスペシーズの空間浸食反応を検知。警戒レベルCからAへ引き上げます」
ミラの声に重なるように、アリーナの警報が赤く点滅を始めた。
「実戦だ……!」
「速水ユウト、これより初出動対象として選定。現場部隊と合流後、即時対応を実施してください」
ノイの端末が光り、指先から展開されたデータパネルをスライドする。
「準備は?」
「……問題ない。ミラ、連携モードは?」
「完全同期。私が敵座標を常時展開します。あなたは集中して構造を“読んで”ください」
訓練生たちが驚きと尊敬の入り混じった視線を投げる中、俺は装備支給エリアへと駆け出した。
都市内部には、各拠点ごとに“出撃ユニット”と呼ばれる移動装置が配備されている。
待機していたのは、黒い装甲の単座型バイク──だが、タイヤもエンジンもない。
量子浮遊型ユニット《スレッドライド》。
「ID照合完了。適合者コード:HY01。スレッドライド起動します」
乗り込むと、身体が重力ごと“浮かび上がる”ような感覚に包まれる。
「目的座標を送信しました。転送ルート確保済み。推定到達時間、2分36秒」
「了解」
エンジン音もない。
ただ、都市の風が加速していく。
自動で展開された空間ルートを沿って、俺は一直線に目標地点──第三区画へと向かっていた。
「ノイ、通信は?」
『こちらアージェント司令室。ユウト、音声は届いてる?』
「バッチリ」
『よかった。現場には第一戦術班がすでに向かってる。君は支援ポジションで後方から構造支援。敵のデータが届き次第、ミラ経由で共有する』
「わかりました」
『焦らないで。君は“精密解体”ができる。無理に倒さなくてもいい。止めれば、それで勝ち』
「……はい」
スレッドライドが軌道の最終ブロックに突入し、速度が下がる。
都市の区画境界に配置された透明のドームが見えた。
そこから先が、今まさに“異常”に染まり始めている場所だった。
街路は歪み、信号も建物もノイズまみれになっている。
まるで、現実の“座標”そのものが書き換えられているような光景。
「浸食領域に突入します。空間安定フィールド、起動──」
ミラの演算で、俺の周囲に薄い光の膜が展開される。
都市の保護フィールドの外側にある、“未調律領域”。そこに踏み込む。
「視界補正、問題なし。ユウト、敵構造体を発見──正面五十メートル。三体。うち一体が大型個体。推定サイズ七メートル超」
ミラの解析が、次々とウインドウに流れ込んでくる。
その中央にいたのは──
「……来たか、ゼロスペ」
三体の異形は、明らかに“個体差”があった。
一体は人型に近い、細長い触手のような腕を持つタイプ。
もう一体は甲殻に覆われ、重装戦車のように動く型。
そして最後──中央に立つ、七メートル級の異形。黒曜石のようなボディに、赤い裂け目のような“眼”が並ぶ。
「構造タイプ:A-3《塔型兵装》。フェイズ干渉率37%。このまま放置すれば、周辺三ブロックが侵食されます」
「阻止する。ミラ、構造展開!」
「開始します──ユウト、行けますか?」
「問題ない。俺がやる」
スキル展開。
視界が、また数式に満たされる。
街路、敵、空気さえ──すべてが“構造”として並び始めた。
「Collapse.Field──Target.A3──解析開始!」
その瞬間、大型ゼロスペシーズが俺の存在に反応した。
構造波動が、空間ごと揺らした。
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