第11話

ターゲットが一斉に動き出した。

五体──それぞれが異なる動きをし、パターンもランダム。まるで本物の敵のような挙動だった。


「ユウト、視界に同時出現したデータラインを捕捉して。動作予測を重ねるには、五体すべての演算を同時に行う必要があります」


「できるのか、そんなの……!」


「あなたなら可能です。私はあなたの演算補佐。信じてください」


ミラの声とともに、視界に重なるようにラインが展開される。

赤、青、緑、黄、紫──各ターゲットの座標と移動軌道が色分けされて表示された。


(まずは、赤──一番近い!)


右手をかざし、意識を一点に集中。


【対象:ターゲットD01】

【構造解析開始──】

【完了:87%|想定崩壊ポイント:両脚支持部】


「Collapse()!」


低く呟くと、赤のターゲットが内部から崩れ落ちた。

爆発音すらない、無音の撃破。


「次、青!」


回転しながら飛びかかってくる青の敵を、ぎりぎりでかわしつつ解析。


【対象:ターゲットD02】

【構造安定度:高|出力要求値:増加】


(構造が複雑……なら、もっと内側を──)


「Focus.Field──CoreOnly!」


コマンドを切り替えると、視界が再フォーカスされる。

青い敵の胸部、その中心に輝く点が浮かび上がった。


「Collapse()!」


敵の動きが止まり、中心から光があふれ、消滅。


(あと三体……!)


「ユウト、脈拍上昇、負荷率42%。演算効率は保たれていますが、ペース配分を」


「わかってる……!」


紫の敵が背後から回り込んでくる。

だがその構造は“空洞”に近い。全身の質量が極端に偏っている。


(弱点は、後頭部……!)


「Break.Node──Collapse!」


直撃。敵の頭部が四散し、身体全体が砂のように崩れる。


(あと二体……)


「スキャン! 黄、緑、同時に!」


視界がさらに情報で満たされる。

ミラが補佐演算を加速させ、俺の認識領域は拡張された。


まるで脳が二つあるような感覚。

同時に二つの解析を走らせ、敵の行動と構造を先読みする。


「黄、外殻重装型! 崩壊は無理、ならば内部圧縮──!」


「Compress.Zone──Redirect!」


黄のターゲットの装甲が逆に内側へと圧縮され、内破。

演算成功率91%。破壊力は自己記録更新。


「最後、緑!」


緑のターゲットは跳躍。空中からの強襲。


だが、今の俺にはもう“見える”。


「Collapse.Point──Suspension.Layer」


緑の動きが空中で静止する。


一瞬の間、重力のベクトルそのものを“書き換えた”。

滞空状態で動きを奪われた敵は、ただの的だった。


「Collapse()──完了」


着地するよりも先に、緑のターゲットは分解された。


五体、全撃破。

演算成功率平均94%。時間、28秒。


──静寂。


「……演習、終了」


ノイの声が、はっきりと響いた。

周囲にいた訓練生たちのざわめきは、もはや言葉になっていなかった。


「なんだ、あの解析速度……」

「てか、あれ一人でやってんの?」

「ミラって補佐AIだろ? それでも補いきれないはずなのに……」


ノイがゆっくりと俺に歩み寄る。


「想定以上。これなら、初期訓練は免除でもいいレベルね」


「……そんなに?」


「うん。君はもう、実戦に入っていいわ。次のゼロスペ事案には、出撃許可が下りると思う」


「……マジかよ」


それは、期待でもあり、恐怖でもあった。

だけど──心は、不思議と、落ち着いていた。


「ユウト、あなたはすでに、世界を“読み取る目”を持っている。あとは、それを誰のために使うかを考えるだけ」


ノイの言葉が、胸に残った。


そしてその瞬間、ミラの声が内側から響いた。


「外部アラート。スフィア波動検出。第三区画、座標245-Aにて異常発生」


訓練アリーナの空気が一変する。


──ついに、来た。


本物の戦場が、目の前に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る