第6話 形而上下の両立―魂と病の対話
岡山に向かう新幹線の車内には、朝の静けさが漂っていた。
隣の席で少し興奮気味の良江が手元の教則本をめくりながら何かを考え込んでいる様子を眺め、私は窓の外の流れる街並みに目を移した。車窓を切り取られる景色には普段の喧騒がなく、まるでこの旅の特異性を表すようだった。
私は隣の彼女を促し、落ち着いた頃合いを見て口を開いた。
「ところで、この間先生が言っていたよね。病気を治すには形而上の勉強と現実的なアプローチ、つまり“形而上下の両立”が必要だって。あれをもう少し分かりやすく説明してくれないかな。」
良江は手元のコーヒーをそっと持ち上げ、静かに微笑んだ。
「形而上下の両立ね…。たとえば、病気を治すには薬や治療といった科学的なアプローチが必要でしょう。でも、それだけでは十分じゃないの。心の在り方、意識の持ち方、そして——神が病気を通じてその人に何を伝えようとしているのか。それをどう受け止めるかによって、現実に作用することがあるのよ。」
その言葉を聞きながら、私はしばらく考え込んだ。
「つまり、形而上的な考え方が現実の治癒にも影響を与えるってこと?」
良江はゆっくりと頷きながら教則本をめくった。
「形而上学ではそう考えるわね。科学だけでなく、人の心や魂が現実に影響を及ぼす可能性についても目を向けるのが大切なの。」
私は少し身を乗り出して問いを重ねる。
「神の世界が形而上なのはわかる。でも…心の世界も形而上なのかな? 曖昧な定義や表現が、かえって混乱を生んでいる気がするんだ。」
良江は静かに本のページをめくりながら答えた。
「そうね…。形而上学には曖昧な部分もある。でも、そこにこそ私たちが探求するべきものがあるのよ。」
彼女の言葉は、未解明の領域に向かう勇気を促すものだった。
私は自分自身の思考を整理しながら、言葉を紡ぐ。
「もし魂がすでに寿命を認識しているなら、病気という形でその移行を受け入れるしかないのかもしれない。でも、それが宿命なのか、それとも運命の一部としてまだ選択の余地があるのか…その判断はどうすればいい?」
良江は静かに本を閉じ、私の問いを受け止めるように深く息を吐いた。
「それが難しいところなのよね。」
車窓を流れる風景に視線を向けると、変わらない景色とは裏腹に、私の心の中ではさまざまな思索が交錯していた。
「じゃあ、僕たちができることは何だろう?」
私は少し力を込めて問いかけた。
「ただ待つだけじゃないよね。奇跡と治療の両立、その可能性を追求するべきなんじゃないかな?」
良江は穏やかに微笑み、手元のコーヒーを一口含んだ。
「そうね。だからこそ、形而上的な問いと、形而下の対応を並行して考える必要があるの。病気は、ただの生理的な現象じゃない。その背後には神や魂が求める何かがあるはず。もし、その意味を見つけることができれば、現実の治癒にも変化が起こるかもしれない。」
その答えを聞きながら、私の胸に漠然とした不安が残った。それは奇跡と治療の可能性を同時に抱えていることによるものだった。
どうするべきか、どこへ向かうべきか——その選択は、すでに始まっているのかもしれない。
私は車窓を流れる景色を眺めた。今、向かっている岡山の勉強会もまた、そんな問いの答えを探す旅になるのだろうか——。
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