5-3 トリア編3 「いじめられて支え合う二人」なんて幻想、信じてたのかな?
(覚醒した私から魔力を『奪われる』ために頑張ってきた?)
どういう意味だろう、私は耳を疑った。
そもそもなんで、私が覚醒したことを知っている?
それ以前に、自分からレベルドレインを受けようとするんだ?
そう思いながら私は耳をすませた。
「それにしてもさ、レクター? あんたの部下、オーバルって本当に優秀なんだね」
「ああ見えても、昔は軍の諜報部で働いてたらしくてさ。盗聴器を仕掛けるのが日課だったって言ってたな」
「へえ……じゃあ、トリアは気づいてないの? 本当は、あんたがトリアの監視と護衛に潜り込ませたこと」
「ああ、あいつはあまりラウル以外には関心がないからな」
オーバルがレクターの部下?
……言われてみれば、彼女はうちのような貧乏貴族の賃金でも、文句ひとつ言わずに働いていた。
彼女の給金は別口からも出ていたためだったのか。
そう思っていると、ザックが尋ねていた。
「けどさ、トリアはまだ16なのに、なんで今覚醒したんだ?」
「バカかお前? ……100年前と今の暦が同じわけねーだろ? サキュバスが太陽をベースにした暦なんか使わねーよ。それに、満年齢を使うようになったは最近だろ?」
そうか、私の家に置いてある古文書の中身も、オーバルを通して読んでいたのか。
そして確かに『太陰暦』かつ『数え年』で計算すれば、私は今日18歳になる。
だが、そんなことよりも「なぜ」彼らがそんなことをしていたのかを理解したい。
「それにしてもさ……。まったく、苦労したよね?」
「ああ。あの二人、ほっとくとろくな結末を迎えないと思ったからな……」
「まあ、二人とも奥手だからねえ……。特にラウルは消極的だしね。あたしらが『不良役』やらないと、トリアと話すことも出来なかったもんな。ザック、こないだは悪かったね」
「へへ、礼なら『明かりの木の実』の情報を掴んでいたオーバルに言ってくれよ」
……そうだ、なぜ気づかなかった?
私がいじめられているときに、いつもラウルが駆けつけてきてくれた。
逆にラウルがいじめられているときには、私が駆けつけていた。
だが冷静に考えれば『徒歩で駆けつけられる範囲で、いじめが行われている真っ最中に出くわす』なんてこと、そうそう起きるはずがない。
それに『明かりの木の実』の件も、ザックが都合よく知っていたのはおかしい。
……彼らが、元々仕組んでいたということか。
「それでさ。その『最終段階』が終わって二人が付き合いだしたらさ、あいつらと友達になっていいか?」
ザックはそんな風にいうと、レクターはうなづいた。
「勿論だ。仮にもラウルは天才として知られてるしな。正式に婚約したら、おかしな貴族どもが、トリアに縁談を持ち込むことはないだろうしな」
縁談?
……そういえば、私の家に縁談が持ち込まれたことはない。というより、お父様はその話をしたことが一度もない。
「トリアってさ、めちゃくちゃ可愛いだろ? だから昔っから『可哀そうな子を助けたい、自称優しい僕ちゃん』がよく寄ってきたんだよな」
「そうそう。……ま、そいつらは『トリアはブスだ』って噂を流したら、すっかりいなくなったけどね。……ほんと貴族ってムカつくよ」
(そんな……。私が知らないところで、そんなことがあったなんて……)
この話が事実なら『私がブス』という噂をレクターたちが流したのは、私を守るためだったということになる。
……彼らは今までずっと、私とラウルのために『いじめ加害者の演技』をしていたということ?
それを聞いた私は、ガクリと膝を突いた。
だが、彼らは私に気づいていないため、話を続けていた。
「で、最終段階の計画についてだけどな? ……まず、俺とグロッサがトリアからレベルドレインを受けるわけだ。……といいたいところだけど、グロッサ?」
「なんだい?」
「お前は別に犠牲になんなくてもいいんだぜ? 俺に脅されたやったっていえば、あいつは納得すんだろ」
「バーカ。あんたのちんけな魔力じゃ、初陣で戦死が関の山さ! 私も付き合ってやるよ」
「は! けどありがとな。……まあ、それでトリアは魔力を持てるようになれば、取りつぶしを免れる。そしたら魔導士クラスに編入してもらうわけだ。先生に話は通してる」
「楽しみだよな、レクター! トリアはきっと、凄い魔導士になるもんね!」
……私がいじめられていたのに先生が見て見ぬふりをしていたのは、てっきり領主の息子であるレクターが怖いからだと思っていた。
まったく、つくづく私は察しが悪いんだな。
だが、その話が事実だとしても納得できないことがある。
「なるほどな。……けどさ、それだけならトリアに話せば良かっただろ? なんで、ずっと彼女たちをいじめてたんだよ?」
そう、ザックと同じことを思った。
私を傷つけるような真似をした理由が分からない。
「フン、バカなお前には分かんねえよな」
だがザックの質問にレクターは、ニヤリと笑った。
あの、人をバカにする態度は素だったのか。
「まず、理由の一つは、これくらい恨みを買わないとトリアのバカは、魔力を奪おうなんて考えねえからな」
「そうそう、あの子、お人好しだからね」
……悔しいが、それは事実だ。
私がその一線を超えようとしたのは、いじめられていた恨みが会ったからだ。
さらにレクターは続ける。
「理由はもう一つ。……あれだけいじめをやって、しかも証拠も残している。そして……極めつけはこの包帯だ」
そういいながら、レクターは腕に巻いている包帯を指さした。
わざわざ制服の上から巻いてあるため、露骨に目立つ。
「『先日の襲撃事件のアサシンは、俺だ』ってことも、これでトリアは気づくはずだ。けどよ、ザック、お前の銃の威力、ヤバすぎるだろ? もし当たってたら、腕が使えなくなってたぜ?」
「はは、悪かったよ。けど、うまくかわせてよかったじゃんか」
そうか、と私は思った。
……今にして思うと、あのアサシンは異様だった。
あの時、アサシンは声色を変えていた。
見ず知らずの人間なら、声だけで犯人像を特定することなどできない。つまり『私が声を知っているもの』だということだ。
また、思い返してみるとあの暗殺者は雰囲気には不釣り合いな『若者言葉』をよく使っていたのも不自然だった。
もっと言えば、所詮貴族のたしなみレベルの杖術に遅れを取るというのも、暗殺者の技量不足を抜きにしても考えにくい。あれはわざと負けたふりをしていたのか。
極めつけに、あの暗がりで彼に銃弾が命中したというのも、まぐれにしては出来すぎだ。
そう考えれば、あのアサシン=レクターだということも納得がいく。
……けどなぜ、そんな危険なことを?
そう思っていると、レクターはぽつりと呟く。
「これでさ……。俺たちが『トリアを迫害していた』っていう証拠は揃ったろ? 俺たちが魔力を奪われた後は、ザックは先生と協力して、今までの証拠を揃えて俺たちとグロッサの家を訴える手伝いをしてくれ」
訴える?
……まさか、と私は思った。
「そ! 裁判にはまず勝てるはずだから。……その賠償金があれば、ラウルがスフィアの街に引っ越すことが出来るだろ?」
……それを聞いた私は、思わず涙が出そうになった。
つまり彼女たちが今までこちらをいじめてきたのは全て、
「ラウルにはお金を、私には魔力を渡すことで、私たちが望む未来を与えるため」
だったということになる。
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