最終話 白い何かが出てきた

 アカネは結局高校を辞めなかった。

 勉強も一生懸命やるようになり、バトミントンの部にも入った。

 俺の家に来ても飯食って帰るだけとか、スマホ触ったり漫画読みながらゴロゴロするといった事はなく、ちゃんと勉強を聞いてくるようになった。


 そしてアカネが県内の国立の農学部に進学し家を出たその後に、俺とサヤカさんは入籍した。

 結婚式はせず俺の両親にサヤカさんを紹介しながら結婚報告をしに行って1泊しただけだ。

 サヤカさんは見た目が若いので、大学生の娘がいると言ったら凄く驚かれた。


 サヤカさんが俺の家に引っ越し、隣の家はお仏壇にお供えと線香をあげに行きつつ、3日に1度は空気の入れ替えをしている。


 お隣の家の方が広くて立派で趣があるけれど、サクゾウ爺さんとサヤカさんの元旦那さんの遺影のある家でサヤカさんとするのは遠慮を感じてしまうし、エアコンがある俺の家の方が何かと快適だからだ。


 家全体に「《病呪》」をかけているので、害虫や害獣やカビに食われる事も無いから、湿気さえ気をつければお隣は綺麗なままだった。


 だからアカネが帰省で帰って来るときは、お隣さんで迎えていた。


 アカネは基本的に大学の学生寮から帰って来ない。学業とバトミントンのサークル活動に忙しいようだ。だけど長期休みはちゃんと帰って来て、家の手伝いをしている。


 夏休みにはアカネは毎年バトミントンサークルの人たちを連れて来て農業体験をしていった。

 その中に、卒業したら古民家再生しながらスローライフしたいというカップルがいて、ここに住むにはどうしたら良いか聞いてきた。

 若者が村にやってくることは歓迎なので、俺の知る限り全てを教えた。


 この村は、役場のサポート制度を使えば主がいない家と休耕地をタダ同然で手に入れる事が出来た。後はどれだけ本腰を入れて再生し生活を軌道に乗せるかどうかだけだ。

 やり甲斐はあるけれどそれを楽しめるかは人それぞれだった。


「お母さん、若返ってない?」


「えっ?そうかしら?」


 サヤカさんは俺と同じ25歳ぐらいの年齢まで見た目が若返っている。

 肌年齢だけで言えば赤ん坊の卵肌みたいにプルプルだ。


「みんなに、私のお姉さんにまた会いに行きたいって言われてるんだけど?」


「そこまで若く見られる訳無いわよ」


 アカネは15歳から全然見た目が成長せずツルペタズンドーのままだ。

 だから姉妹にしては少し離れてるように見える。


「いやいや、お母さん、村のお年寄りにも八百比丘尼ヤオビクニって呼ばれてるんだよ?」


「ヤオビ……って何?」


 伝説の不老長寿の尼さんの名前だったよな。全国各地の伝承に残っているんだそうだ。


八百比丘尼ヤオビクニっ! 人魚の肉を食べて年取らなくなった人っ!」


「こんな山の中に人魚がいるわけ無いじゃない。でも河童なら沢にいいるそうよ?」


 確かにこの集落の周辺には河童の伝説がある。でも河童まっしぐらという名前でブランド化した俺のきゅうり畑で死んだ動物の中に河童はいないから、多分いないはずだ。

 絶滅してしまったらしいカワウソが昔は生息していたそうなので、それを見間違えたものとかだろう。


 ただ、死んだ野菜泥棒に河童のように頭が剥げてた奴はいた。

 サヤカさんが先に見つけて119番しちゃったもんだから、ちょっとした事件になって大事おおごとになってしまった。

 監視カメラの映像で何も無い所で急に倒れてる映像があったし、毒物の検出されなかったから原因不明の自然死心臓発作という事で方がついたみたいだけどね。


 実はそいつらが監視カメラに捉えられた時、遠隔で闇魔法の「《不運》」を全員にかけておいたんだ。

 何度かそれで成功してたからね。


 「《不運》」は今まで他人に与えていた不幸の分が帰って来る魔法だ。それでもスクールカースト上位の奴らにかけた時でも、バイクで事故って半身不随とか、部活中に怪我で失明とか、吸引中のシンナーに引火して顔に大火傷とか、重度のハウスシック症候群になって引っ越したとかにはなったけれど死ぬ事は無かった。

 だから何かが起きても逃げ帰る程度だと思ったんだ。

 でもそいつが「《不運》」で死んだんだとしたら、あの河童頭はどんだけ悪いことしてたんだろうか。


「お兄ちゃんも初めて村に来た時から全然年取らないし変だよ」


「うちの家系は25歳ぐらいで見た目の年齢があまり変わらなくなるんだ、あと俺はお義父とうさんな」


「何その羨ましい家系」


 家系じゃなく光魔法の「《成熟》」だけどな。


「むしろアカネの方がおかしいだろ。いつまでチンチクリンのままなんだよ」


「気にしてるんだから言わないでよっ!」


 アカネは一応ケツが少しだけプリンとなったし手足も伸びた。

 けれど胸だけは雄大な地平線のようにフラットのままだ。

 バトミントンのように敏捷さが求められるスポーツには向いているんだろうけどな。


「そういえばキク婆ちゃんが、「あの子は私に似たんさぁ」と言ってたな」


「へっ?」


 もしかしてアカネは聞いて無かったのか?


「キク婆ちゃんは小さくて可愛いらしい人だったよな」


「私がこうなのはお婆ちゃんの血なの!?」


 どうやらキク婆ちゃんはアカネに伝えなかったらしいな。

 顔はサユリさんにそっくりだし、同じようなボインのプリンになると期待してたって事か。


「顔はサヤカさん似で、体はキク婆ちゃん似だって事だな」


「ガーン!」


 まぁ貧乳はステータスだっていう奇特な奴もいるらしいし、顔だけは良いから見つかるんじゃ無いか?

 まぁそいつはロリコンだとは思うけどな。


「そうだったのね、私は小学校の頃に「おっぱいちゃん」とあだ名がつけられるぐらい発育が良かったから、アカネのお腹に寄生虫でもいるのかしらと思って調べて貰ったのよ」


「結果は?」


「いたのよ沢山」


 本当にいたのかよ。

 まぁ洗ってない野菜を「平気〜」と言って食べちゃうぐらい衛生観念が欠如してたもんな。

 有機農法って奴は動物の糞尿を肥料にする。そいつの寄生虫の卵がついている事は普通だ。俺が魔法で作った有機肥料は大丈夫だけどな。

 でもアカネは他の家でも野菜を貰って食べていた。その野菜についていて体内に取り込んでしまっていたのだろう。


「それで何度か虫下し飲ませて出したのよね。アカネったら白い何かが出てきたって大騒ぎしたのよ」


「お母さん! お兄ちゃんには秘密って言ったでしょ!?」


「そういえばそうだったわね」


 舌をチョロっと出して反省の態度を示すサヤカさんが超可愛い。

 今すぐ押し倒してしまいたい。


「お兄ちゃん」


「俺はお義父とうさんだぞ」


「寄生虫がいたって聞いて私に幻滅した?」


 アカネのやつ完全にスルーしてやがるな?


「幻滅っていうのは、何か素晴らしいものだと幻想を抱いていたものが、違うと気がついて目が覚めた時に思うものなんだぞ?」


「私、寄生虫がいそうって思われてたの!?」


「寄生虫がいるというか寄生虫だったというか……」


「寄生虫扱いされてたっ!?」


 畑に調味料持参で作物を食べに来て、学校帰りに家に来て俺の夕飯を全部食べてしまう奴を寄生虫と呼ばずになんと思えと。


「おっ……お兄ちゃん?」


「だから俺はお義父とうさんだと」


「ほら、お母さん、見た目は若いけど40こえたし、更年期に入るし、ピチピチJDの私に乗り換えない」


「はっ」


「鼻で笑われたっ!」


 10年経とうがツルペタズンドーのままの小娘に惚れるかよ。


「私からタロウさんを盗ろうとするとは、いけない猫さんねぇ」


「いはいいはいいはいっ!」


「おー、よく伸びる伸びる」


 どうやらアカネは見た目もそうだが肌年齢も若いらしく、サヤカさんによって頬がビヨーンと伸びていた。


「痛いよもう……」


「サヤカさんも良く伸びるんだぞ?」


「うわっ……、何それ」


 サヤカさんの頬を引っ張ると物凄く伸びるんだ。赤ん坊の肌並にプニプニだからな。


「凄いだろ、サヤカさんはアカネより餅肌もちはだなんだぞ?」


「ガーン!」


 この餅肌もちはだで女性として一番脂が乗り切った25歳ぐらいの見た目だぞ?勝ち目あると思ってるのか?


「私、お兄ちゃんの事本気なんだけどな……」


「お義父とうさんな」


「お母さんと一緒にどう?親子丼って言うんだよ?っていはいいはいいはいいはいっ!」


 親子丼は好きだぞ、鶏と鶏卵のバージョンも、マスとマス子のバージョンも、タコとたこまんまのバージョンもな。

 ネット通販って便利だから忙しい農家でも全国食べ歩きみたいなグルメが堪能出来るんだ。


「同じ顔の貧相な方を抱くメリットって何だ?」


ひんほーっへひほいっ貧相って酷いっ!」


 サヤカさん、体が若返って敏捷性も上がってるよな。

 バトミントンしてるアカネが回避する間も無くビヨンと頬を摘めるんだもんな。

 毎日のように畑仕事して、毎晩のように俺に抱かれて、体力も付いてきてるんだろうな。


「本当にいけない子ねぇ」


「良く伸びるけどサヤカさんの勝ちだな」


「ハーンっ《ガーン》!」


 あと勝手に俺のYシャツを寝間着にするのはやめた方がいいぞ。

 綿パンじゃ無くなったのは分かったけど胸ぺったんは凄く目立つからな。

 アカネは高校時代のジャージや体操着がまだ入るからそっちの方が寝間着にいいだろ。

 サヤカさんにはちょっとキツかったけれど、使ったあとコスプレプレイ後きちんと洗濯して置いていたから綺麗だしな。

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