第4話 ふぃー、スッキリした

 アカネは学校帰りに俺の家に寄っていく事が多い。

 今日も俺の家の前でギギィという自転車のブレーキ音が響かせたあと、アカネがやって来た。


 アカネが俺の家に寄って帰るのは、大卒の俺に学校の授業で分からないものを教えて貰うというのがキク婆ちゃんやサヤカさんに言っている言い訳だった。


 実際に家に入るときは「勉強教えて~」と言いながら入ってくる。

 けれど家に入ると、友達から借りたという漫画を読むか、うちのWi-Fiに繋いでスマホゲームをして遊ぶか、学校のバカ話をするか、俺の夕飯を勝手に食べてから帰るだけで勉強は殆どしない。

 課題を手伝わされる事がたまにある程度だ。


 夕飯を勝手に食べるやり方でうちの畑の野菜を食べて死んでしまうとさすがに寝覚めが悪いので、アカネには光魔法の「《防呪》」をかけて防いでいる。自身にかけて「《病呪》」の野菜を食べても腹痛にならなかったので大丈夫だと思っているけれど、それでも死んだらさすがに責任は負えない。


「勉強教えて〜」


「チャイムを鳴らせといつも言ってるだろっ!」


 俺がちゃぶ台の前に座り、ノートパソコンで通販の顧客に定型文でのお礼を送信していと、アカネがガラっと玄関をあけ勝手に上がり込み、俺がパソコンを広げてるちゃぶ台の前にドカッと座った。

 足を広げるな足を、綿パンが見えてるぞ。


「こんな田舎にそんな習慣ありません!」


「俺は東京出身だ!」


 まぁコンクリート会社多めの、都会っぽくない東京で、ここより少しだけ都会ってレベルだけどチャイムは使ってたぞ。


 まぁキク婆ちゃんの所は縁側が開けられている事が多いから、そのままそこから声をかけて上がり込むって事が多いけど、うちは一人暮らしだし、リフォームしてアルミサッシにしてあるしエアコンもバッチリ利かせているから閉められている事が多い。


「郷に入れば郷に従えだよ?」


「じゃあこの家に入るならこの家の方針に従えっ!」


 アカネがエアコンで涼めるのは郷に従わず縁側がサッシだからだぞ?

 それにサヤカさんはちゃんとチャイム押すし、俺が戸を開けるまで髪を手で梳かしながら待ってるんだぞ。

 しかも玄関を開けて手を引って家に入れて抱きしめると、毎回「あっ」と言って赤面して恥ずかしがるんだ。

 本当に人妻なの?というレベルの初々しさをいつも感じさせてくれるんだぞ?


「いい加減都会風吹かすのやめようよ〜」


「アカネがその都会に行った時のためだぞ?」


 ここいらの奴の多くが都会の大学への進学を目指しているらしいし、そういった常識は学んだ方が良いだろう。

 勝手にベランダから入って「こんにちわ」とかしたら110番されるからな?


「私がご実家に挨拶行くときの練習って事だねっ!?」


「池上の実家は都会なのか?」


 全国系列のテレビ番組出てるし、池上の家は東京にありそうだな。


「池上君はこっちの子だよ?」


「なんだ都会じゃ無いのか?」


「父さんが単身赴任とは言ってたけど……」


 単身赴任?あぁ、地方のテレビ番組で収録してたりするのか?そういえば関西の芸人が共演してたな。


「単身赴任で都会なのか?」


「インドだってさ」


 あぁ、もしかしてタックスヘイブン的な奴でインドに事務所を構えてたりするのか?

 やるな池上。


「あっちはカースト制度が残ってるらしいから、失礼あったら大変な事になるかもしれないぞ?」


「えっ……」


「スクールカーストとかアカネの高校にもあるだろ?あれの本場だぞ?気をつけろよ?」


「うん……」


 アカネは何か腑に落ちないみたいな顔をしながら首を捻っていた。

 というかやっぱりあるんだなスクールカーストって。

 俺が通ってた高校にもあったもんな。

 あまりに酷い環境だったから、カースト上位の奴らに闇魔法の「《不運》」をかけたら、学校がすごく平和になったけどな。

 前世では「《不運》」は、「《祝福》」で解除出来ちゃうから嫌がらせにしかならないものだけど、こっちでは凄く強力だ。

 サヤカさんの旦那さんが死んでいたあと設置した人感センサーに連動した防犯カメラに反応した野菜泥棒に「《不運》」をかけておいたら、偶然足元にいたマムシに噛まれたり、偶然出没したツキノワグマに驚いたりして逃げ帰ってくれたんだよ。


「あっ!」


「何だ?」


「トイレ借りて良い?」


「はよ行け」


 アカネはもよおした宣言をしてきた。

 ドアは勝手に開けて入ってくるのにトイレは許可を取ってくるとは変な奴だ。


「あれ?」


「何だ?紙が無かったか?」


 アカネがトイレの戸を開けた音がした瞬間に疑問の声をあげた。確か3日前に交換した筈だけど、もう切れてしまったのか?


「この匂い……」


「あぁ、ぬか床をひっくり返したからな」


 サヤカさんが帰ったあと、浸かったきゅうりを出しつつ、規格外のきゅうりを漬け込みながらひっくり返したんだよな。


「ううん、お母さんの匂いがする」


「サヤカさんの?」


 そういえば5回戦目を風呂場でしながら洗いあっていた時にもよおしたとかで、サヤカさんが急いで体を拭いてトイレに駆け込んでたな。

 でもそれでサヤカさんの匂いなんでつくものか?

 どれとも洗濯乾燥機で回ってるシーツの匂いでも嗅ぎ取ったのか?


「来てたの?」


「あぁ、今日ネット通販用の商品の出荷を頼んだからな」


「ふーん……」


 そう言いながらアカネはトイレの中に入ってパタンとドアを閉じた。

 何か勘づいたのだろうか?女は直感が鋭いというしあり得るな。


「ふぃー、スッキリした」


「麦茶入ってるぞ」


 トイレから出てきて爽快な気分なのは分かるけど、恥じらいも糞も無いな。

 というか手をちゃんと洗ったか?


「氷入りじゃない!」


「贅沢言うな!」


 今日は気温も上がったし、出した分ぐらいは水分補給させようと思ってのサービスだ。

 嫌なら飲まなくていいんだぞ?


「それで、今日は何をするつもりだ?」


「保健体育の勉強!」


「そんな授業、高校にあったか?」


 俺の通ってた普通科高校には無かったな。


「最近ではあるんだよ?」


「それでどんな事を知りたいんだ?」


「陰茎を膣に入れる方法!」


ggrksググレカス


「カス呼ばわりされたって、痛ったぁ〜!」


 アカネはちゃぶ台に座ってる状態から大の字に仰向けに倒れようとした時に、ちゃぶ台の足に向こう脛をぶつけたらしく悶絶し始めた。


 短めにされている制服のプリーツスカートが捲れて、3枚セットとかで売られてそうな綿パンが完全に露わになっている。

 というかケツちっせぇなぁ。そんなんじゃいい子が産めないぞ?


「あぁあぁ、麦茶零して」


「ちょっと私の心配してよっ! JKの生足が大変な事になってるんだよっ!?」


「はっ」


「鼻で笑われたっ!」


 そんなに生足が大事なら、制服のスカートを短く履くんじゃない。

 一昨日も帰り際に玄関で「あっ、蚊に刺されてる」とかいってガニ股になって内腿を手で搔いけたけどあれは酷かったぞ。JKブランド気取るなら恥じらいを持たないと価値は無いぞ。


「えーっと鞄は……、って教科書もノートも入って無いじゃないか」


「私、置き勉派だしぃ」


 パソコンの無事確保したけれど、ちゃぶ台の傍に放られていたアカネのリュック式の鞄に麦茶が垂れていた。

 中を開けてみたらぐちゃぐちゃに入れられたジャージと体操着と弁当箱とちっこいポーチだけだった。

 というかアカネも一応初潮は迎えてたんだな。


「帰れっ!」


「ここが私の帰る家〜」


「お前の家は自転車に乗って2分だ!」


 家に入る時に「勉強教えて〜」って入って来たのは何だったんだ。アリバイにするなら教科書の1つぐらい入れて来い。


「だから保健体育ぅ〜」


「池上と盛ってろ」


「浮気を推奨されたっ!?」


 おや?アカネは誰かと付き合っているのか?


「何だ、付き合ってる奴がいたのか」


「うん、お兄ちゃん」


「10年後に出直せ」


 ツルペタズンドー綿パンに興味は無いっ!


「若い体を持て余すよぉ〜」


「スポーツで発散しろっ!」


 農家の娘だしその手伝いでも良いだろ。


「もうして来たよぉ〜」


「あん?部には入らなかったんだろ?」


 アカネは中学校時代はバトミントン部に所属していた。けれど高校では部活動はもう良いと言って入部しなかったとサヤカさんから聞いている。


「友達とダンスをして来たんだよ」


「ダンスユニットでも組んでるのか?」


「ううん、ゲーセンの奴だよ」


「遊んでたんじゃねーかっ!」


 最短より1時間以上遅かったもんな。夕飯時に差し掛かるし、もう今日は来ないと思ってたぞ。


「うん、でもスカートがひらめく様子をニヤニヤ見てるオジサンがいてさ〜」


「そんなにスカートを短くしてるからだ」


 わざわざ腰の所の部分を折って短くしてるって言ってたからな。

 それなら最初から短い奴を買えと思ったぞ。


「まぁそうなんだけどさ……、でもお兄ちゃんは全然私に釣れてくれないよね」


「俺はちびっ子には興味が無いぞ」


「子供扱いされたっ!」


 俺は、「おしっこは肥料になるんだよ」とか言いながらハウス内で座り小便する小学校1年生のアカネを知ってるんだぞ?

 湯上りで浴衣着てるキク婆ちゃんの方がずっと色気感じるんだからな?

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