第5話







 喫茶店で朝ごはんを食べた後、せい君と街を巡った。様変わりした街、人気の観光名所を簡単だが案内した。朝早いから開店していない店も多かったが、街はガヤガヤと喧騒があり、その中に彼と混じっているだけで心が満たされた。


 「あの大きな看板は!? 猫が飛び出てる」

 「3Dのだよ」


 けれど水を差すように、一本の電話がかかってくる。


 「ご、ごめん…電話が」


 スマホをタップし、電話に応答する。


 『新山さん?』

 

 私を呼ぶ声が不安を掻き立てた。嫌な予感がする。一応小さな声で…はいと返事してみる。


 『すいませーん、今日も人足りなくて、午後から会社に来てほしいんですけどー…』


 嫌な予感が的中した。やはり、仕事のヘルプだった。休日出勤。なぜいつも私に白羽の矢が立つのだろうか。

 

 『ほんと人員がいなくて! 新山さんなら、いいでしょ!?』


 どこがいいのか…。


 『ほんっとにオナシャス…!』


 どうしよう…。


 今日はせい君との大切な休日。予定も空けて貰って、私自身もずっと楽しみにしていた。


 断るべきだ。断ろう。


 『は、はい…分かりました』


 了承しちゃった…。


 『ありがとうございます!』と、調子の良い声と共に、電話が切られる。私はその場に立ち尽くした。


 「…どうした?」

 

 眉をひそめ、せい君が此方に寄る。


 仕事が入ってしまったことを伝え、私は謝った。


 「あらら。じゃあもう解散?」

 「ご、ごめんね…!」


 もう一度せい君に謝る。


 「なぎが謝ることじゃないって」

 「…わ、私のせいだよ、本当にごめんっ…!」

 

 謝っている内に目頭が熱くなってくる。


 「ほ、本当は断れたかもしれないのに、断り切れなかった。私の気が弱くて…」


 いつもこうだった。いつも…。断ればいいのにできなくて、仕事一杯にさせて、周りに迷惑をかける。せい君にも迷惑をかけた。  


 冷たいなにかが頬を伝う。涙のようだ。自分の不甲斐なさ、情けなさに涙が止まらなかった。


 「なぎ」


 せい君が私の名前を呼ぶ。


 「そういうとこは変わってねーな」


 人間そんな直ぐに変われないよ。と心の中で呟いた。

 

 「俺もギルドで別格冒険団に推挙させられることもあった。断ったのに無理矢理な。確かに断るのって意外にムズいんだよな」

 

 言っていることは分からないが、せい君にもそんな時があるんだ…。

  

 「まあ言いたいことあんなら、伝えたら良いんじゃない? さっきなぎが魔法を使うなって言ってくれたから、俺は街を歩いて、見て聞いて、色んな発見があった。魔法で効率ばかり見る俺では気付けなかったことだ。なぎが気持ちを伝えてくれたから分かったんだよ」

 

 私は顔を上げる。


 「まあ要するに、そんな気にすることもねーってことだ!」


 「はっはっは!」と笑い飛ばしてくれるせい君。その励ましに、より一層涙があふれでた。鼻水も出てきた。色々出てきた。


 「あ、ありがどね…っせい君」

 「…泣き虫なのも変わんねーな」



 

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