第4話






 ジリリリ!

 と

 シャララン!


 目覚まし時計とスマホのアラームが2つ鳴り響いている。目覚めがかなり悪い私は、2種類の目覚ましを付けないと起きられない。


 「…ふぁ」


 小さく欠伸をする。


 …早く準備しないと。今日はせい君と出掛ける日だから。15年ぶりの街をせい君に案内してあげるんだ。美味しいご飯屋さん行ったり、観光地巡りしたり、今日一日いろんなことを楽しむんだ。


 布団から起き上がり、腕をぴょんと上げた。


 「ようし行くぞーーー!!」


 


 

 ───





 …集合2時間前なのに来ちゃった。



 いやどんだけ私楽しみにしてるんだよ。ウキウキ感が目に見えてめちゃ恥ずかしい。もちろん心から楽しみにしてたんだけど、だけれども、流石に早すぎた。早すぎたよね…。

 

 時計を見る。


 あと1時間55分。まだまだ遠い。


 どこかブラブラして時間を潰すしかないな。


 「おい! なぎ!」


 そうすると人混みの中から声が聞こえた。その間をかき分け、せい君が手を振りながら小走りで此方に来た。


 「せ、せい君…!? な、なんでこんなに早く」

 「いや、それはこっちの台詞。2時間前なら俺の方が早く着いてるかと思って」

 「えと、わ、私も似たような感じで……ぷっ」

 

 だんだん可笑しくなってきて、「…あはは!」と、二人ともその場で吹き出した。結局、どちらも考えることは同じみたいだね。


 「んじゃあ行くか」

 「そ、そうだね!」


 私たちは街の方へ歩き出した。


 今日は平日だというのに、街は賑わいを見せている。子供が母親と手を繋いで歩いていたり、老夫婦がゆっくり散歩していたり、若いカップルが話に花を咲かせていたりと、色んな人間模様を見ることができた。


 「なぎは朝飯食ったか?」


 横で歩いているせい君が、ふいに言う。

 

 「え? わ、私はまだだよ」

 「俺もだ」

 「あ、そ、それなら美味しいお店がね。あ、あるんだけど…」

 「なぎの行きつけかー」

 「う、うん…案内するね」


 スマホを取り出し、マップを見ようとすると


 「大丈夫」


 せい君に静止された。

 

 「店の名前って?」

 「え? タコカフェっていう、喫茶店…」

 「オッケー」


 そう言うと、目を閉じ、指をくるくると回し始めた。急になにをしているんだろうか。怪訝な顔でせい君の横顔を見つめる。


 「…うんわかった」


 ぼそりと呟き、何か納得したように頷く。


 「な、なにしてるの?」

 「索敵魔法。これで目当ての店はすぐ見つか……ん?」

 「ど、どうしたの?」


 一瞬、せい君が見たことのない怖い顔をする。


 「…いやなんでもない。それで、この魔法を使って……えーと」

 「え、な、なになに…?」


 私の肩にポンと優しく触れてくる。急なせい君の行動に、動転していると…


 「よし。着いた」


 あっという間に、目的の店が目の前に現れた。


 「え」

 「位置入れ替えの魔法と結合させると瞬間移動ができる。インターバルと発動が長いのがネックだが、かなりの時間短縮になるし、効率も良い」

 「えぇ…」


 魔法を使い一瞬で店にワープしてくれたようだ。せい君の言っている意味も原理もよく分からないけど…。


 「さあ入るか」


 確かに魔法ってとても便利かもしれない。


 でも私にはやっぱり分からない。


 「千種くん!」

 「おお? なんで急に俺の名字?」

 「あの…その、あのね、ま、魔法のことだけど…」

 「うん」

 「今日だけ、魔法は禁止しない?」


 私の言葉にせい君は驚きの表情を浮かべた。


 「どうしてだ?」

 「…あ、あの、えっと、上手く言えないけど……一緒にいるから道に迷ったり、時間かけるのも大切で……魔法を使うと失くなる気がして、えっと…つまり」

 

 う。我ながら支離滅裂だ。まとまった話ができない。自分が口下手すぎて嫌になった。


 「おーけー」


 あっけらかんとした様子でせい君は了承してくれた。無茶なお願いだというのに。 


 「い、いいの?」

 「…? そりゃいいだろ」

 「あ、ありがと…」

 「じゃあ入るか」

 「う、うん」


 喫茶店に入ろうとすると、店に立て掛けてある看板に目がいく。看板には、Closed、という文字がでかでかと書かれていた。



 「早く来すぎたようだな…」

 

 みたいだね…。


 

 

 

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