第24話 絶望、深淵より
――ズガァァァァァンッ!!
黒き渦が爆ぜるように炸裂した瞬間、街中が一気に黒煙と衝撃波に包まれた。
瓦礫が一斉に吹き飛び、アスファルトが大きく裂けてめくれ上がる。
「くっ……!!」
俺はとっさに腕を前に出したが、どうにもならない。
突風のような魔力の圧力に弾き飛ばされ、背中から無様に転がった。
「悠人っ!!」
リリムが叫び、駆け寄ろうとした瞬間――
「ドンッ!」という重い音と共に、目にも留まらぬ速度で瘴気の触手がリリムをはじき飛ばす。
「……ぐぁっ!」
小柄な体が吹き飛び、ビルの壁面に叩きつけられた。
石壁が崩れ落ち、粉塵が舞い上がる。
「リリム――!!」
必死で声を上げるが、返事はない。
俺の視界がぐらぐらと揺れ、頭の奥がジンジンと痛む。
「……っ、悠人、伏せろッ!!」
カグラの鋭い声が飛ぶ。
すぐさま無数の紙符が宙を舞い、爆ぜるように輝いた。
「封鎖陣・雷閃(サンダーフラッシュ)!!」
ビリビリと空間が弾け、瘴気を切り裂くような稲妻が炸裂する。
あたりが真昼のように白く光り――
――しかし。
バチィィン……!
雷撃が直撃したかに見えた瘴気の主は、微動だにしなかった。
まるで何事もなかったかのように、ふわりとローブが揺れるだけ。
「……はっ……うそ……!」
カグラの顔が引きつり、青ざめる。
次の瞬間、黒影は片腕をゆっくりと持ち上げ――
ドガァン!!!
見えない衝撃波が地面を抉り取り、爆風のようにカグラを吹き飛ばす。
叫び声も出せないまま、彼女は弧を描いて地面に叩きつけられた。
「カグラ――!!」
もう立ち上がろうとする力もないのに、俺は必死に這い寄ろうとした。
だが、視界の隅で――筒木が、無言で前に出るのが見えた。
「結界・斬鎖(ブレイドバインド)――!!」
筒木が渾身の力で護符を掲げ、空中に巨大な結界陣が出現する。
無数の鎖が光を放ちながら黒影に絡みつき、全方位から締め上げていく。
「……今だ……!」筒木が叫ぶ。
「ここで……っ、封じ込める……!」
護符が赤く灼け、汗が筒木の額からぼたぼたと滴り落ちる。
力を込め続けるその瞳は血走り、結界の圧が次第に強まっていく――
が。
「……くだらん」
黒影が低く呟いた。
その一言と同時に、まるで空間が“ひび割れる”音が響き――
パキィィィン……!
結界が、音を立てて崩壊した。
光の鎖が一瞬で砕け散り、破片が雨のように降り注ぐ。
「なっ……!」
筒木の目が見開かれる。
次の瞬間、黒影の影が地を這うように伸び――
ズドォン!!
筒木の体が横薙ぎに吹き飛ばされ、近くの瓦礫に叩きつけられた。
「ぐっ……!」という苦鳴が響き、筒木の体が地面に転がる。
――終わった。
リリムも、カグラも、筒木も。
全員が地面に倒れ込み、誰ひとり立ち上がれない。
俺だけが、膝をつきながら、呆然と立ち尽くしていた。
(……何もできない……)
震える手。
張り裂けそうな胸。
目の前にあるのは、“力の差”という、どうしようもない絶望。
黒影が、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
その深い闇の奥で、赤い光がチラリと輝いた。
「次は……貴様だ」
その声に、全身が凍りつく。
俺は――今、この場で消えるのか?
頭が真っ白になる。
でも、そのとき――
「……悠人……逃げて……!」
かすれた声が聞こえた。
リリムが、崩れ落ちながらも必死に手を伸ばしている。
震える唇で、か細い声が繰り返される。
「……逃げて……お願い……」
涙がにじむ。
けれど、足は一歩も動けない。
絶望の中で、俺はただ、目を見開いて“それ”を見ていた。
(つづく)
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