第4話 家路

 公園近くの家から、夕餉ゆうげの匂いが漂ってくる。

 ここのところロクな物を食べていないので、空腹に響く。

 どの家でも明日を生きるために、食事の準備にかかっている。あの少女は今日、逆上がりができたことを親に誇らしげに報告していることだろう。

 犬を散歩させていたあの老人も、早朝のランニングを頑張っていた青年も、食事を摂って明日に備えているはずだ。

 それも皆、帰るべき場所──家があればこそだ。

 沈みゆく夕日を浴び、自分の影が黒く長く伸びる。見上げればポツポツと星が出てきている。月はまだ少し欠けていて、かじったリンゴのようだ。

 もうここにいても仕方ない、立ち去ろうとしたその時、誰かの呼び声を聞いた。知った声だ。

 一瞬、逃げようかとも考えたが、思った以上に空腹だったのか、足に力が入らずふらついてしまう。

 それが更に自身を目立たせてしまったのか、声の主は駆け足でこちらに向かってき、抱き抱えられた。

「ああ、良かった。ミケちゃんが無事で、本当に良かった!」

 ああもう分かったから、離してくれ。暑くて敵わない。

「本当に心配したのよ、でも無事で良かったわ。女の子が教えてくれたのよ、可愛い三毛猫がここにいるって。もしやと思ったら、本当にいたわ! あの子にお礼をしなきゃいけないわね」

 それに関しては同感だ、私もあの子に伝えたいことがある。

 猫の鳴き声で通じるかは分からないが、あの子なら伝わるだろう。


               〜了〜

 

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ある風景 つかさあき @tsukasaaki

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