♠︎愛の対価♡
「俺は構わない。では、始めよう。」
「ありがとうございます。」
下心丸出しでゲヴァニエルは小瓶を受け取った。
ゲヴァニエルの不敵な笑みにキシュは無垢な笑顔を微笑み返した。
ゲヴァニエルの部屋にて、
キシュに香油を塗るのにちょうどいい場所がベッドしかかなかったのでバスタオル一枚のキシュをベッドに横たわるようにゲヴァニエルは言った。
そして、ふと、ゲヴァニエルは疑問に思っていた事を口にする。
「その分厚い表紙の本はなんだ?
革と金箔で彩られた立派な表紙の割に
文字ひとつ彫られていないじゃあないか。」
「これは…なんでもありません。
ゲヴァニエル様。ただの本でございます。」
「だから、
なんの本かと聞いているではないか。」
ゲヴァニエルは香油の瓶から香油を手に取り、
キシュの柔らかい白に近い淡い桜色の髪に乗せ、
手ぐしをして髪に馴染ませながら言った。
ザクロの甘酸っぱい匂いが
ゲヴァニエルの鼻腔をくすぐる。
少しきつく香るザクロの香りと同じ位にキシュが本の内容を語ろうとしないのにゲヴァニエルはもどかしさを感じた。
「聖書か?俺は決して怒らないぞ。
花嫁殿。
俺を愛しているなら怖がらず教えておくれ。」
「ただの
ちょうどキシュの髪の毛全体に
香油が行き渡った時、
キシュの発言で二人に気まずい沈黙が訪れた。
「…そうか。」
そう言って、ゲヴァニエルは少し納得した。
そして、同時にキシュの今は見ることの出来ない日記の内容にゲヴァニエルは深く興味を持った。
「…腕と脚までは俺が塗ってやるが、
あとは自分で香油を塗るといい。」
(不思議だ。何故、この娘は俺にここまで
触れられて怯えもしない?)
(何故見ず知らずの俺にここまで心を許しておきながら、日記だけは頑なにずっと持っているんだ?)
(わからん。わからんから、この娘は面白い。)
怯えもしないし、恐れもしない。
寧ろ心地良さそうにキシュはゲヴァニエルに
身を委ねている。
だが、キシュが日記を持つ手だけは
堅く日記を握りしめている。
「花嫁殿。右腕に香油が塗れないではないか。
俺は決して日記を読まないから。
一度、日記を置いてくれないか?」
「嫌です。」
そう言ってキシュは露骨に日記を守るようにしてキシュはゲヴァニエルに背を向ける。
「おやおや、悲しいのう…
俺はそんなに花嫁殿に信頼されていないのか。」
「読まれたくありません。それだけは嫌です。」
ゲヴァニエルがわざとらしく悲しそうに言っても、キシュの姿勢は揺るがない。
ゲヴァニエルはため息をつき、
ひとまず諦めたフリをして、キシュの脚に香油を塗り始めた。今は虎視眈々とキシュの日記をいつか読むその時を待つことにした。
次、キシュが風呂に入っている時にでもメイ・ヒューに言って日記を盗らせて勝手に読んでしまえばいいだけの事だとゲヴァニエルは考えながらキシュの脚に香油を塗った。
(ああ、俺がこの娘に負けたようで
心做しか少し悔しい。)
(魔界まで長旅をしたからなのか、
まあ、腕もそうだったが、
キシュの脚には筋肉がしっかりある。)
(どうしてこんなにも俺の心に入り込む?
わからん。だが、わからんままでは終われない──そうだ。少し意地悪をしてやろうか。)
そう思って、ゲヴァニエルがキシュの足首を掴んだ時、買い物から帰ってきたメイ・ヒューのノックの音がゲヴァニエルの部屋に響いた。
「チッ…。」
ゲヴァニエルはキシュに対する憎さと
キシュの足裏を擽れなかった惜しさを
胸に押し込みながらキシュの足首を離して、
ドアに向って「入れ。」と言った。
「ゲヴァニエル様…?」
メイ・ヒューはその手に新しいキシュの服を持ちながら、有り得ないものを見る様な目で二人を見て言った。
「あまり勘繰るなメイ・ヒュー。
俺はただ我が花嫁殿と
”甘い時間”を過ごしていただけだ。」
そう言って、ゲヴァニエルはキシュをやや強引に抱き寄せてキシュの左頬にキスをした。
「なぁに。大したことではない。
ただ香油の使い方が分からんそうで、
使い方を花嫁殿に手取り足取り教えていたんだ。」
「そうだろう?花嫁殿。」
キシュが否定出来ずに困った顔をしていると
メイ・ヒューは「し、失礼致しました!」と言ってキシュの服を2着扉のそばに置いて出ていってしまった。
キシュはゲヴァニエルの胸を押して離れようとしますが、ゲヴァニエルはキシュを離そうとしません。
「あまり動くとバスタオルが
はだけてしまうぞ花嫁殿。」
「俺は紳士だから花嫁殿に訊くが、
やはり、まだ俺達は初対面に変わりないし、
初夜は今晩じゃなくていいと思うか?」
─バシン!!
ゲヴァニエルの腕が緩んだ一瞬の隙をついて、
キシュは日記の角でゲヴァニエルの頭を本気で叩いて、ゲヴァニエルが本気で痛がってるうちに服を持っていった。
「部屋を一部屋借りさせて頂きます。
我が旦那様。」
とキシュは言い捨てて部屋を後にした。
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