21話目
季節は冬。
寒くなったこの頃。
優はというと、馬鹿みたいに女の子とコス併せの予定を入れ、コスプレしまくった。
彼は失恋から立ち直ったわけではないが、その代わり、三次元の女は信じられないという極地に達していた。
だから、コスプレをした。女の子レイヤーと併せをした。甘い言葉を囁き、恋人関係を作るフリをしてヤリまくった。
面白い事に、優は化粧映えするのでヴィジュアル系のイケメンに見えた。その外見に、みんな騙されて、恋愛関係を築いていった。
元々、男のコスプレイヤーは全体の割合として圧倒的に少ない。そこから更にクオリティが高くてイケメンとなるともっと少ない。
女性レイヤーとしては、イケてる男性レイヤーと同じ趣味や好みを共有出来る事は、最高の相性だと錯覚する。
そこに優はつけ込み、女と遊ぶ。ではなくて、女で遊ぶ事を覚えた。
年下の若い学生の子は、得てして股が緩い。犯罪だと分かっていても、高校生に手を出す事も多々あった。
別れる時は自然消滅が多い。何故かは知らないけど、そこに関しては、優は面倒事にならずに済むから助かる。
優は最大で六股をかけた事もあった。すっかりプレイボーイになっていた。
そしてコスプレを優先させる為、仕事を辞めた。週5日の日勤残業無しの工場に転職した。
しかし毎週のように併せの予定を入れ、新しいキャラのコスをするのに一から衣装一式を揃えるのは、今の優の経済力では無理だった。
なので、支払いは全てクレジットカードに頼り、リボ払いにして最低額の返済を続けていた。とてもじゃないが、以前よりも月給の少ない今では到底無理である。
気付いたら借金は100万円を超えていた。
消費者金融三社から借り入れをして、返済のために別社から借りる事も多々あった。
そんなキツイ生活を強いられた中、救ってくれたのは山井香純であった。
彼女は自ら裕福な家と言うくらい、優の生活を金銭面で援助してくれた。
一回でポンと十万円をくれるのだから、ついつい甘えてしまう。
そのお金で新しいコスプレをし、生活費に充ててもやはり生活はキツイ。
それでも山井に泣きついて、愛の言葉を囁いて抱いてあげればお金は簡単にくれるから、やめられない。
優はいわゆる山井の『ヒモ』という奴だ。
消去法で山井が優の彼女と言う事にしているが、彼女も藤崎とはまた違うが、会う度に荒れていた。というより、リストカットの頻度が高くなっているのだ。
今では肘の辺りまで傷痕が広がり、包帯を巻いて長袖を着ている。
優は当然心配するが、彼女は彼の前だと明るく振る舞うが、やはり時々電話で鬱な話を聞かされる。きっと受験勉強で相当なプレッシャーがかかっているんじゃないかと思った。
優としても貴重な『金づる』の、理解ある彼女を失うわけにはいかないので、しっかり話を聞いてフォローしてきた。
裏では併せしたレイヤーと、いわゆるオフパコをしていても。
何も知らない山井は、他の女の子と二人っきりで併せをする事に抵抗はあったが、優は、受験が終わったらたくさん併せしようと約束して、凌いできた。
その時は潮時だな、と、優は考えていた。
金づるを失うのは惜しいが、これ以上山井のメンヘラに付き合う事が面倒くさかったのだ。
当然、彼女とは修羅場になる事は必至だが、いざとなれば他県の遠いところでまた一からやり直すつもりであった。
何を優がそこまで荒れさせているのか…それは今では元カノの存在である。
三次元の女はクソだ。いくら愛し合っても平気で裏切る。結婚を考えていた相手に初めての失恋をした現実に、優はずっと根に持っていた。
それなら俺がクソな奴になっても許されるだろ。優はすっかり荒んでいた。
今思い出しても沸々と怒りと悲しみが押し寄せる。考えてもキリがないので、優は考える事をやめた。
『コンビニでも行くか』
今日は久し振りの何もない休日をダラダラ過ごしていた。
その時、スマホから電話コール音がした。誰からだと確認すると、相手は山井だった。
優は、今は山井と話すのは億劫だったので、電話を無視した。コールが止んだ刹那、また山井からのコールが続く。その繰り返し。
面倒だなあ…優はスマホを手に取りNINEの確認をする。優は戦慄した。山井からのメッセージが99件を超えていた。
怖い…さすがに今回は怖い。今は彼女に構う気にはならなかったので、スマホをマナーモードにし、テーブルに置いて放置し、外に出た。
エレベーターで一階に降り、最寄りのコンビニへと向かう。
面倒くさい。何もかもが面倒くさい。色んな女とヤリまくっても胸にぽっかり空いた穴は塞がらなかった。
そうだ、引っ越しをしよう。当初の予定は来年のつもりだったが、金は惜しいがうざったい山井から離れたかった。
その為には金がいる。また彼女から金を引っ張ろう。
その時、
ドンッ、と何かにぶつかったような音がしたと同時に、眼前が一瞬火花のようなものを見た感覚に陥った。
次の瞬間、右の脇腹辺りに猛烈な激痛に襲われた。優は誰かにぶつかった時に、ぎっくり腰にでもなったのかと、脇腹を抑える。
ぬるっ…
脇腹を抑えた手に濡れた感触があった。彼はなんだろうとその手を見ると、
血に染まっていた
それを見た瞬間、優は、
『ああ…いた…い。うぐあ…』
声にならない声を上げ、膝から崩れ落ちた。
彼は一体何が起きたのか理解不能であった。認識できる事があるとすれば、脇腹から血が流れ、血の気が引いて意識が遠のく感じがした。
優の意識が遠ざかる間際、かろうじて目にしたものは、女の子と思われる人物が、右手に包丁のような物を持っていた。
包丁らしき先端には血が…付いて…
優は意識を失おうとしていた。最期、彼が聞こえたのは、周囲の喧騒でも、救急車やパトカーのサイレンの音でもなく、聞き覚えのある声だった。
『嘘つき』
リアル・レイヤー シーサ総統 @seesa777
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