15話目

 なんだか近くが騒がしい。

 女の子の声がする。声というより短いリズムで『あっあっ』と、可愛らしい声がする。

 と、同時に下腹部が気持ち良さを感じる。誰かとセックスしてるような夢か。最近シテないからえっちな夢でも見るのかな。

『あっあっあっ』と、どんどん女の子の喘ぐような声が高まっている。このまま放っておくと、夢精しそうになる。さすがにそれは面倒なので、優は頑張って重い瞼を開けた。

 そこには――――


 山井が騎乗位で、優の上に乗って腰を動かしていた。


 夢…じゃないよな。むしろ夢であってほしかった。

 山井が衣装のスカートをたくし上げて、優のイキリ立った肉棒と繋がっている。

『か、かすみ…ちゃ…』

 まるで全身に重りを身に付けたような気だるさに襲われながらも、優は必死に声を発した。

『起きちゃったの?でもまだダメ、私イッてないから』

 やめろ…と心の中では思っているが、身体は正直らしい。抵抗する事は出来なかった。

『やば…い…イキそう』

『私も…一緒にイこう』

 そして二人はほとんど同時に絶頂した。


『それで、どうしてこうなった?』

 すっかり賢者モードになった優は、山井を問い詰めた。

『え〜?優さんもノリノリだったよ』

 彼女は悪びれもせずケロッとして、優の側で添い寝をしていた。

 本当にどうしてこうなったのか。今思い出すと、水分補給をした後に急激に意識が遠のいた気がする。

 まさか…

『香純ちゃん、まさか俺のコーヒーに何か入れた?』

『まっさかあ。ただ、よく眠る『おまじない』はかけたけど』

 おまじない…つまり睡眠薬か。今にして思えば、フタが空いてた事に疑問を感じるべきだった。

『さすがにそれは引くよ…帰ろう』

 優は騙された山井に対し、そして快楽に身を投じてしまった自分自身に腹が立った。

 起き上がって私服に着替えようとする。すると山井が立ち塞がった。

『帰るよ』

『別に構わないけど、これを見て』

 すると彼女はスマホを出して画面を見せる。

 そこにはベッドに仰向けになった優に、山井が彼のイチモツをフェラしている画像があった。

 なっ!?思いがけない衝撃に、優は戦慄した。恐る恐る彼女を伺うと、小悪魔のような笑みを浮かべていた。

『これが出回ったら、優さんの人生終わっちゃうね』

 やめろ!と山井のスマホを取り上げようとすると、たちまち彼女は、

『ここで今叫んだらどうなるんだろうね?』

 と、脅迫してきた。

 画像が出回るのも終わりだし、男女二人きりのラブホでイベントとはいえ、叫び声をあげられたらそれこそ警察案件になる。

 山井のシナリオに不備はなかった。

『俺をどうする気なんだ?』

 優は怪訝な顔で彼女を問い詰めようとする。

『私は別に優さんを脅迫してるわけじゃないよ?ただ、恋人になりたいの』

 それを脅迫と言うのではないか。山井は続ける。

『優さんは今フリーなんでしょ?それなら私と付き合っても問題ないよね?』

 フリーではないんだが…頭の中に藤崎がよぎる。しかしこの今の状況であっても、それをバラすわけにはいかなかった。何故か?今の山井なら激昂して暴走する可能性がありうる。

『私、優さんが好き。大好き。こんなに人を好きになったのは初めてなの。だから優さんに他の女に取られるのが考えられないくらい嫌なの』

 山井の切実な想いに、優はたじろいた。

 きっと彼女は今まで誰かに優しくされた事がなかったのではないか。メンヘラな性格と、その証でもある左腕のリストカット跡がそれを物語っている。

『付き合っても他の女と二人で併せしてもいいから。そこまで束縛はしないよ。優さんのコスプレ大好きだし』

 どうする…?今の山井に付き合わずに写真を暴露する最適解があるのか。優は精一杯思考を回転させたが、それに導く答えは見当たらなかった。

『分かった。香純ちゃんの気持ちに応えるよ』

 優はとうとう観念した。

『嬉しい!これで私たちは結ばれたんだね!』

 まるで結婚でもするかのような勢いに、優は怯んだ。

『これから二人でいっぱい併せしようね!…と言いたいところなんだけど』

 けど?優は山井の言葉を待つ。すると、

『私今年は受験勉強に専念しないといけないから、あんまりコス出来ないの。だから、その点は気にしなくていいよ』

 残念そうに話した。

 でも!彼女は続けて言う。

『浮気は絶対許さないからね!優さんカッコいいし、優しいから絶対モテるもん』

 いや、そんな事言われたのは生まれて初めてなのだが。でもコスプレはカッコいいって色んなレイヤーに言われた。

『この写真はね、私と優さんの愛の証でもあり、抑止力でもあるの』

 つまり優は、一服盛られた上に選択の出来ない選択肢を選ばされ、山井と付き合う事となった。

 ハメられたのだ。二重の意味で。

『じゃあ今度は二回戦やろっ!大丈夫、まだまだ時間はあるから』

 そうして優は山井の気の済むまで、精を貪られたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る