13話目

『了承』

 藤崎に事情を話した刹那で許可が出た。

 いや、まさかこんなにあっさり話が進むとは。

『優くんは色んな人と交流して色んなコスをするべきだと思うよ』

 これが噂の、理解のあるカノジョさんという事か。

『でももしその子に手を出して捕まったらサヨナラだけど』

 藤崎は笑いながら言うものの、一応の釘は刺しているかのようだった。

 今日は優と藤崎は夜勤であり、工場の近くに住んでいる彼に会いに、二時間くらい前に来た。

 既に『行為』は終えており、布団の中で二人は裸でいた。ついこの間まで童貞だった優も、回数を重ねれば手慣れたものだった。

『ホントは私も他のコスもしたいけど、余裕ないからなあ…』

 藤崎はため息をついた。彼女は彼女で家庭の事情という悩みがある。優は何度も援助を申し出たが、彼女は頑なに断っていた。

『働いていればそのうち給料も上がるさ』

『そうだと良いんだけどね…あ、私そろそろ出なきゃ。今日はミーティングあるから』

 と言って、藤崎はそそくさと服を着替えた。

『それじゃ、またね優くん』

 彼女は部屋から出て行った。俺もそろそろ起きるかあ、と、立ち上がって着替えを済ませた。

 藤崎とは夏に付き合ってからもう半年が過ぎた。たまにはケンカをする事もあったが、それでも時間が二人を許してくれる。

(そろそろ婚約を考えても良い)

 優は、気の早い話だとは分かっていたが、色々と初めての経験をした初めての恋人を、もっと大切にしたいとと思っていた。

(でも婚約指輪はまだまだ買えそうにないな)

 今の給料では、コスプレ費用だけで限界だ。

 このまま行くと消費者金融からお金を借りないとやっていけない。それくらい、切羽詰まっていた。

 コスプレは金がかかる…けど楽しい。周りはちやほやしてくれるし、自分のカッコ良さにも自分ながら痺れる。

 すっかりコスプレに魅了されていた。

 さてそろそろ行くかな。金については考えないようにしよう。優は気持ちを切り替えて外に出た。


 二週間後、RIOとの併せの日が来た。

 駅で彼女を拾い、車で目的地のラブホへ向かっている。

『香純ちゃん、めっちゃ可愛い服だね』

『優さんに会えるから、気合入れてきた』

 香純というのはRIOの本名だ。山井香純(やまいかすみ)。あれからメッセージをやり取りしたり、時には電話もしていた。それで結構仲良くなっていつの間にか本名で呼び合うようになった。

『このスカートとかどう?ひらひら〜』

 と、山井は紺色のミニスカートの裾をパタパタさせる。適度に肉感のある生のふとももに、優は運転中でなければ釘付けになる所だった。

『やめって事故るって』

 苦笑いで優は注意する。いや本当に山井は良い身体をしている。白い可愛いブラウスから目立つ二つの膨らみ。藤崎には及ばないが、彼女もなかなか胸が大きい。

 車内の密室空間に香る山井の匂いに、優の『息子』が反応して硬くなってきた。

 やばいやばい、運転に集中しないと。彼は自戒する。

『しかし県内のラブホで撮影出来る所があったなんてなあ』

 優は話題を変えて、山井を舐め尽くすように眺めたい欲望を抑えようとした。

『しかも平日にやってるからね、良いよねっ』

『いや、学校はどうしたって話よ』

『大丈夫!休んでも許されるように、今月は登校頑張った。ほとんど保健室だけど…』

『やるじゃん。香純ちゃんなりに頑張ったんだね』

 よしよし、と山井の頭を撫でる。彼女はにゅ〜んと甘えた声を出して受け入れる。本当に可愛いな。これで心が病んでなければ。

『そういや忘れてたけど、カメラはあるの?』

 そう聞かれて、山井は頷いた。

『任せて。20万近くした一眼レフがあるから』

『20万て…さすがお金持ちは違うな』

 でしょう。と山井は自慢げに言った。

『優さんもいい加減一眼レフ買った方がいいよ。写真写りがスマホやデジカメと比べて全然違うから』

『お金がな〜、なかなか余裕が無くて。今は衣装揃えるだけで限界なんよ』

『優さんて仕事してるのに余裕ないの?』

『給料安いからな。親に仕送りもしてるし、裕福ではないな。あ、でもちゃんと今日の分はちゃんと折半するから安心してくれ』

『そっか〜』

 山井は同情気味に返した。

『ま、それはともかく今日の撮影楽しもうぜ』

『うんっ!』

 そう言って、優は悪くなりかけた空気を戻した。

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