11話目

 それからの生活は一変した。

 月にニ、三回は藤崎と休みを合わせ、イベントでコスプレ併せ兼デートを楽しんでいる。

 優は彼女のアドバイスもあってか、初心者から徐々にクオリティが上がり、ラインハルト様〜とたくさんの女の子に歓声を浴びられる事もあった。そして、沢山の女の子と友達になれた。

 もちろん藤崎も安定のノエルクオリティで、完成度の高いライ×ノエとして、今ではSNSの地元や、イベントでも一目置かれるようになった。

 そんなある日の事である。

 イベントを終えて藤崎と二人のオフ会をファミレスでしている時。優はさらっと言った。

『そろそろイケ執事以外のコスもしてみたいな』

『確かにそれだけだもんね。色々とコスしたくなるのは分かる』

『恋多鬼(こいおおき)とかどう?アニメ見てゲームしたらすっかりハマった』

『いいね。じゃあ私は千歳(ちとせ)やる』

『俺はやっぱ千草(ちぐさ)かな。あの俺様キャラは好き』

『わあ、ちーちー併せが出来るね!』

 藤崎はノリノリだった。なにしろ恋多鬼を勧めたのは彼女だからだ。

 ちなみに『恋多鬼』とは、乙女ゲームの有名タイトルで、すぐに人気が出てアニメ化したという金字塔だ。

『そうなると小物が大切だね。衣装自体は一万くらいで買えるけど、刀となると衣装代超えそう。厚底の草履も買わないといけないし』

 すると、優の話を聞いた藤崎は声のトーンが落ちた。

『そうだね…私はそんなにお金の余裕がないから用意出来るか分からないけど…』

『ウチは好きな日に休み取れるけど給料は安いからね』

『それもあるんだけど…なんていうか…』

 藤崎の言葉の歯切れが悪くなっていく。

『私んち、貧乏なんだよね。それで給料の大半を家に納めてるから…』

 知らなかった。彼女は実は裕福な家庭ではなかったのだ。そんな話を聞いたのなら、とても新しいコスをする事は悪い。

『じゃあちーちー併せはやめとこう』

『…嫌。それはやりたい』

 大丈夫?と藤崎を気遣ったが、彼女はいつも通りの元気に戻った。

『生活は苦しいけど、今はコスプレが私の心の拠り所だから。それに、今は優くんという相方もいるし』

 藤崎は笑顔で優の手を取り、そう言った。

『分かった。でも厳しかったら言ってね』

『ううん、大丈夫。私は私でしっかりやるから』

 コスプレをするにはお金がかかる。衣装やウィッグ、小物等を揃えるとなると、軽く三万円は超える。

 なので、自分で衣装や小物を手作りするレイヤーもいる。今でこそ衣装の既製品は当たり前に安価で買えるが、昔は衣装は手作りするしかなかったのだから、便利な時代になったものである。

 しかし実際に全部揃えると、今度はそれを披露するイベントやスタジオの費用や参加費、そしてそこまでの交通費がかかる。

 これが以外と財布に響く。イベントの参加費はまちまちだが千円から二千円はかかる。スタジオなんかだと、『一時間』四千円から五千円なんてのもざら。

 その上、交通費。車で行けばガソリン代はかかるし、都内なんかだと駐車場は有料なので、六時間も停めれば下から三千円はかかる。電車の方が荷物が多い時は、しんどいが比較的車を出すより安い。

 閑話休題。

 このように、コスプレというものは物凄くお金がかかる。優の場合、すっかり貯金が底を着きそうな感じだ。なので、彼と同じ状況の藤崎は、先程言った家庭の事情を考えると、気軽に誘いにくいと思った。

 とりあえず、今日の食事代は自分が出そうと思ったが、彼女のプライドが許さないのか、いつもの割り勘になった。ついでに言うとホテル代も…

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