10話目

 おいおいおいおい…どうなってんだこれ。

 藤崎の車の助手席に乗っている優は、現在混乱中であった。

 交際宣言をしたあの時から10分も経っていない。なぜ今優は彼女の車に乗っているのか。遡るは付き合う事になった時。

『じゃあラブホ行こっ』

『はい!?』

 思わずウーロン茶を吹いた優。

『私達、心の相性は良いと思うけど、身体の相性も確認しないと』

『いくらなんでも、早すぎませんかね…』

『こういうのは早い方がいいの!』

『しかし直子ちゃん。俺はお恥ずかしながらこの歳まで童貞でありまして…』

『むしろ真っ白な優くんをわたし色に染められるなんて感激してる』

 こんな調子でやる気マンマンである。

 まさか初めてのコスプレから初めてのお付き合い、そして初めてのセックスが一日に全て来るとは…優は観念してラブホ到着を待った。


 目の前には洋風な部屋の景色が広がっていた。

 それだけ見ればコスプレのロケーションとしてはアリなんじゃないかと思うくらい。今どき、と言っても生まれて初めて来たラブホだ。まさかこんなに凝っているとは。優は初めて見る景色に感心した。

 …端にあるベッドが無ければ。

 結局優は、藤崎の押しに負けてラブホテルに来てしまったのである。しかし優としても、生身の女の子にえっちぃ事が出来ると考えているので、まんざらでもなかった。

『この部屋でライ×ノエやりたいね』

 藤崎は心なしかテンションが上がっているようだ。

『ラブホで撮影はさすがにヤバくない?』

 そ・れ・が!彼女は人差し指を振りながら言う。

『今どきのラブホは色々ロケーションがいいから、ラブホで撮影する人も多いよ。さすがに高校生とかはダメなんだけど、無視して入っちゃう子もいるね』

 そうなんだ。まあこういう風景ならアリだけど、高校生が同性同士入ったらたまげるわな。

 そう考えていると、藤崎に後ろからぎゅ〜っと抱きしめられた。

『進藤くん、好きぃ』

 そうだ、俺は好きだった藤崎さんと恋人になったんだ。今更ながらに実感して、胸が高鳴った。背中に二つの柔らかい膨らみを感じた、というのもあるかもしれない。

 そしてその流れでベッドに引き寄せられ、藤崎が押し倒す形で優は仰向けに倒れた。

(今更ながらだけど、藤崎さんて肉食系だよな)

 あまりにも積極的、かつスムーズな動作に、優はこれから『食べられる』んだと覚悟した。

 それにしてもこのベッド、凄く柔らかくて気持ちがいい。ラブホのベッドってみんなこうなのか?あまりにも気持ちが良すぎて今日一日の疲れと眠気がどっと襲って来た。

 そう考えていると、藤崎の顔が徐々に近づいて来た。初めてのキスの予感…それが以前から好きな人にされるのだから、本望だった。

 唇が触れる。藤崎の唇はものすごく柔らかくて心地良かった。

 これがキスなのか…

 このままずっとこうしていたいな。そう思った刹那、

(!?!?!?)

 藤崎が優の唇を舌でこじ開けて、侵入してきたのた。

 キスって唇を合わせる事ではなかったのか!?優はあまりの興奮に鼻息が荒くなる。その様子を感じたのか、藤崎は一度唇を離し、小さく呟いた。

『舌、絡めて』

 そう言って再び藤崎の方から唇に触れ、舌を入れる。今度はちゃんと期待に応えようと、たどたどしいながらも彼女の舌に触れ、やがてどちらが始めたのか分からない程、くちゅくちゅといやらしい音を立て、互いの舌を絡めていった。

 どのくらいしていただろう。五分は遊に超えている気がする。次第に優は慣れて来て、手持ち無沙汰だった右手を藤崎の胸に触れると、んん…と彼女が反応を示した。

 藤崎さんの胸、ものすごく大きくて柔らかい。片手では収まりきれないそれを少しずつ堪能するかのように、揉みしだいた。

 そのうち藤崎の鼻息も荒くなって、唇を離した。

『優くんのえっち』

 囁くように言いながら、身体を重ねてきた。

 優は彼女の背中に手を回し、きゅっと抱きしめた。童貞である彼の精一杯の行動。藤崎も身を委ねている。

(なんて幸せな時間なんだ。このままずっとこうしていたい)

 あまりの心地よさに、優は夢のような感覚に襲われた。

『…くん…ゆう…くん』

 藤崎の声が心地良くて、喋る気力も無くなって、優は静寂の闇に包まれていった。


 ちゅんちゅん。

 小鳥のさえずりが聞こえ、優は意識を取り戻した。

 それを察してか、既に藤崎は起きていたようで、

『おはよ』

 と言って昨日買っておいた缶コーヒーを手渡された。気が効くのだが、なんだか不機嫌な感じがした。

『まさか優くんとの初めてのえっちの前に寝落ちされるとは思わなかった』

 あ、やはり。記憶が無いのはその証拠だった。あまりにもベッドの心地良さと藤崎と寄り添って、気持ち良くて寝落ちしてしまったのだ。

 イベント前日から起きていて、なおかつ慣れないコスプレを経験して、どっと疲れたのであった。

『ごめん』

『別に謝らなくてもいいよ』

 そう言って藤崎は優にキスをした。

『今からたくさんすればいいし』

 そして優は童貞を捨てる事が出来たのであった。

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