Kの決断

 ── 一方、松山で倉庫のピッキング作業をするKに20代のバイト仲間の林田が話しかけてきた。


「Kさん、マッチングアプリとかします?」


「マッチングアプリ?全くしないよ、何で?」


「凄く可愛い子とマッチして今度会う約束したんです。めっちゃお勧めですよ」


「おー、よかったやん!ま、でも俺はいいかな」


 ──運命とかはもう信じていない俺だけれど、俺はそういう出会いよりも自然な出会いがいいし、実際にRさんと出会えて、少し運命を感じてしまっていた。勿論、そういう出会いを否定しているわけではないが。


 ── Kはバイトが終わると、以前より精力的にショートショートや詩などの創作をして、賞にも応募していた。


 まぁ、ダメ元でも挑戦しないとな。


 ── KはRに出会う前は、棒にも箸にもかからない自分の創作に自信をなくしていて漠然と創作をしていたが、Rと出会ってからは積極的に創作をするようになっていた。


 

──その夜にある女性からKにDMが来た。


「こんばんは、凄く素敵な物語を毎回読ませてもらっています。私は愛媛に住んでいるのですが、Kさんの投稿に来島海峡大橋が載っていたので、もしかしたら同じ愛媛ではないかと思って嬉しくなりました。よろしくお願いします」


 ──彼女はよく俺のショートショートに反応をしてくれる人で改めてアイコンを確認すると、昼に林田が見せてくれた女性の写真とよく似ている女性の写真のアイコンで、アカウント名はファンシーだった。


 よく似ている人は割といるし無視するのもあれだから、定型的な返事ををすると、その日からファンシーはあからさまではないがアプローチのようなDMを送ってくるようになり写真まで送ってきた。


 これは間違いない、林田が会う約束をした女性だ。だが、林田に何て言えばいい?


 

── Kは林田にメッセージを送った。


「例の子とはいつ会うん?」


「日曜日ですよー!やっぱりアプリ気になります?笑」


 ──いや、気になるのはお前が会う子だよ。


 そしてRの投稿も気になった。



 ‐Rの投稿‐


 最近、上司たちがウザいよー😵‍💫

絡みたくないのに話しかけてくるし、ラブレターを渡してきた人が私の帰り道で待ち伏せまでして来たし少し恐怖を感じるよ…この人たち、何なの……


 

──俺はこの投稿を見て、いてもたってもいられなくなり、迷いもあったが何としてもRさんを救いたい思いと無力な俺だけれど、せめてRさんに寄り添っていたい気持ちが強く、気が付けばバイトでコツコツ貯めていたお金で東京行きの飛行機のチケットを買っていた。


 ちょうど休みの水曜日の便だが、Rに何も伝えずに買ったから会えるかどうか分からない。


 その事をRにDMをしたらRから返事が来た。


「えー!!嬉しいけれど水曜日もお仕事だし会えても夜だよ?緊張するし、どうしよ。言ってなかったけれど私が勤めてる会社はパラダイスイーだよ。会社は駅前だし、有名な喫茶店が近くにあるからよかったらそこで会う?」


 ──パラダイスイーは確かに大企業で、フリーターの俺には雲の上のような企業だ。


 とりあえず会う約束が出来てよかった。肩をなでおろした俺は眠りに着いた。


 ──水曜日になり、会う約束は夜だが、朝一番のチケットを買っていた俺は、起きてから身支度をして空港に向かった。


 

その間も愛媛の女性のファンシーというアカウントからDMが何通も来ていた。


「もしよければKさんと会いたいです」


 俺はファンシーからのDMは読んでいたけれど返事はせずにいた。


 ──空港には少し早く着いた——


 松山空港から羽田空港まで7時発の便で1時間半と割と早く着くが俺には何回も行ける財力がない。一応、バイト先に木曜日まで休みをもらっていて時間には余裕があるけれど、ビジネスホテルの宿泊代は高いから漫画喫茶に泊まるつもりだけれど、食事代なども考えると割と金額がいく。


 

──前日の東京のRのオフィス、パラダイスイー本社。


 RはKと明日会える期待と不安で胸がいっぱいだった。


「お疲れ様でした」


 ──Rは仕事を終え駅に向かういつもの路地を歩いていた。


「やあ!」


 マスクをしていてもニヤついているのが分かる河田がRを待ち伏せしていた。Rが河田に冷たくしてから毎日だった。


「ほんっとうに、やめてもらえますか!」


「これだけ強い思いなんだよ。好きな奴とかいないんでしょ?」


「いますよ!」


 Rはつい本音を話してしまった。


「え!?どんな奴?仕事は?何歳?」


 Rは相手が部長とかもう関係なくなって言葉が荒くなる。


「仕事や年齢なんて関係ないでしょ!」


「あ、仕事、大したことないんだ、あ、やっぱそうか……あはははは」


「バイトでも夢を持って生きていて女性に真面目な人の方が私はいいわ!」


「ば、バイト?笑 俺がそいつにRちゃんは諦めろって通話をするからスマホ貸してよ」


「部長には関係ないでしょ!あんた最低だし嫌いだからもう仕事以外で関わらないで!」


 Rは早歩きで河田を振り切り駅に向かう。


「ちょっと、待って!」


「これ以上しつこくしたら仕事を辞めますよ!」


 その言葉に河田は何も言えずにその日は諦めたがRを睨みつけるように見ていた。


 Rは頭の中でまた呪文のように唱えていた。


(最低、最低、最低、最低……)


 ──明日はKと会えるがインターネットで知り合った人と会った事のない不安や、それでも会いたい期待と河田の悩みで、この日はなかなか眠りにつけなかった。


 先ずはKさんにDMして、また、Rる。さんに相談をしよう。Kに明日の20時に喫茶店のヴァンパイアで待ち合わせする内容のDMを送り、Rる。にはメルヘンの事や明日、Kが会いに来ることをDMで送った。


 

──翌朝、寝不足ままパソコンを立ち上げて、Kと、Rる。のDMが来ていないかチェックをした。


 お、来てる来てる。どれどれ、まずはKさん。


「おつかれたまねゃん。了解!楽しみやね。緊張もするけれど、多分、早めに喫茶店に行って待ってるよ。今日もRさんがぐっすり眠れますように」


 ──癒される、おつかれたまねゃん笑

本当にKさんが居てくれてよかった。不安より期待が大きくなって来ちゃった。Kさん、どんな人だろうな……


 さて、Rる。さんのDMっと。


「お疲れ様。メルヘンは最低な男ね。会社にそういう相談窓口があるのなら早めに相談するべきだわ。後は業務外は徹底的に無視がいいかもね。あら、Kさんが会いに来てくれるのね。それは楽しみね。今日は思いっきり楽しんできてね。Rちゃんが幸せになれるように願っているわ」


 ──それを読んだRは頷いていた。


 確かに、まずは会社のそういう所に相談するべきよね。後はそうよね、無視がいいわよね。Kさんとは思いっきり楽しめばいいか。


 ──少し気持ちが軽くなったRは朝食にポーチドエッグを作り、それを食べた後に身支度をして出社した。

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