河田の疑惑

 ── Kはスーパーで食材を買い終えて料理をしながら缶チューハイを呑んで酔った状態でDMを送っていた。



 
「おつかれたまにゃん。今日は楽しめたかな?俺は1人で孤独に過ごしよるよ。まぁ慣れとるけれど。寂しかったなー。こんなことを聞くのは失礼かもしれんけれど、Rさんて何歳なん?俺は41歳よ。おじさんとDMしてもつまらんよね?」



「Rさん、何でラブレターで断った相手の家に行ったん?俺にはなんでか分からんよ。俺は通話がしたかったよ。Rさんの声が聞きたかったよー」
 



 ──いつもKさんの"おつかれたまにゃん"がツボなんだけれど笑 そうか、Kさんに年齢を言ってなかったな。Kさん41歳か。SNSのプロフィールにアラフォーって書いてあるから予想は出来たけれどね。私が23だから18歳差ね。


 実は私が年上好きって知ったらどう思うかな。同年代の人とも付き合った事があるけれど、どうもしっくりこなくてね。それに、それに、私の声が聞きたかったってもう告白じゃないの?キャー。


 最悪の展開から最高な展開が来たかも。本当にありがとう、Kさん。
 いつもの創作だけじゃなく、こんな所でも助けてくれて。


 そうだ、もう一人、私の推しの詩人の「Rる。」さんにDMで相談してみよ。



──「Rる。」とは1年前からRが推している詩を書く人で病院関係の仕事をしているRより年上の大人の女性だ。とても優しくてRはよく相談に乗ってもらっていた。



 Rる。さんの詩はKさんの創作とは違い、ちょっとダークなものもあるけれど、それが刺さる日もあるのよね。正に私の推しは光と影だわ。


 
「こんばんは、Rる。さん。聞いてー、メルヘンに触られたー!あ、そんな事よりKさんが私の声が聞きたかったよーって。もうこれ告白じゃない?何て返したらいいと思う?」
 



 ── RはDMを打ち終えて今日の疲れがどっと押し寄せてきた。
 



 とりあえず、今日は疲れたからお風呂に入って寝よっと。Kさん、DMは明日まで待っててね。
 



 
 ──その頃、夜桜が近くで咲いている松山のマンションの一室でKは、やけ酒を呑みながら、煮干しをマヨネーズと醤油に付けて齧っていた。



 ふんっ、DMの返事もないし、俺なんてRさんの中では虫より小さい存在や——っ。メルヘンとあんな事やこんな事を、くそーっ。
 



 ──翌朝、KもRも目覚めは良くなかった。
 



 ── Rは、Rる。のDMが来ていないかパソコンで確認をした。
 


 

あ、来てる来てる——


 
「こんばんは。それは災難だったわね。もう自宅には行っちゃダメよ?無事だったのよね?相手が勘違いしちゃうし。Kさんの件はよかったわね。それは私的には好意がある可能性が高いと思うわ。最近は女性から告白も普通だし言っちゃえばどうかしら?どちらにせよ、ファイトよ✨️」



 
 ──
そうか、好意がある可能性が高いか……
 
 

Rは顔がにやけていた。手鏡を見てそれに気付いた。
 


 女性から告白か。まぁ、Kさん、プロフィールにお仕事がバイトって書いてあるから告白しづらいかも。私は有難いことに家も裕福だし大企業で働かせてもらっているからお金の心配はないのよね。Kさんはまだ知らないけれど年齢差もあるしな。とりあえず。KさんにDMしなきゃ。



 
「おはにゅ、お返事遅れてごめんね。昨日は最悪だったの。メルヘン、変態なの。私、手を触られたし。でもそれだけだから大丈夫よ。あ、私は23歳よ。ぴっちぴちよ笑 Kさん41歳なんだ。まだまだ若いよー。それに寂しかったのかにゃ?笑 私の声を聞きたいの?笑 じゃあ、また来週の金曜日の22時はどう?平日は仕事が忙し過ぎてね💧それに私もKさんの声が聞きたいにゃ笑」



 ──松山のマンションの一室でKは朝食の準備をしていた。今日は卵かけご飯と漬物とインスタントの味噌汁という正に男飯だ。


 
 

"ピロン"
 
 


──スマートフォンに来たRの通知に気付く。
 


来た来た、DM待ってました!
 
 

素早くSNSのDMの画面まで操作してDMを読んだ。
 


── Kは河田の事とRが凄く積極的な事で心臓が激しく打つのが分かった。


 
 

Rさんは俺が思っていたより若かった。それよりメルヘン!!チカン野郎やないか!!くっそー。俺も触った事がないRさんを!!
 
 

Kは複雑な心中だったが、Rへの気持ちは増していくばかりだった。


 


──Rさん、俺にとって君は夢なんだ。

君を誰にも奪われたくない……
 
 


Rさん、もう好きが溢れて零れてしまいそうだよ……


 それにしても、Rさんも俺の声が聞きたいだなんて嬉しすぎる。


  ──Kは金曜日が待ち遠しすぎて、日曜日すら長く感じていた。



 ──月曜日になり都心でオフィースに着いたR。


「おはよーう」


 50代の男性社員の山川は何時もRに元気な挨拶をしてくる。


「おはようございます」


「ん?何か元気ないみたいだけど大丈夫?」


「あ、元気ですよー、いつも通りです」


 ──Rは河田の事で元気はなかったが、KとのDMのやり取りで少しはマシになっていた。


「おー、Rちゃん、おはよう」


 ──河田がRを見つけて挨拶してきた。


「お、おはようございます」


「土曜日はごめんね」


「…………」


「ちっ……あ、ま、まあ、今日も頑張ろう」


(今、舌打ちしたわよね……なんなの…もう……)


 Rは河田からの通知は全て無視したままだった。


 この日からRは河田とは業務的な事しか喋らなくなった。


 ──それを見ていた女性社員達は話しだす。


「いっつもRばっかよね」


「まぁ、私はいいわ。だって部長、変な怖さがあるから……」


「変なって?」


「何だろ?異常な感じ?」


「い、異常!?言い過ぎよ!笑」


「あははは」



 ──時間は過ぎ、昼になった——


 川崎が河田の所に来た後にRに話しかけてきた。


「Rさん、この間はごめんね。また皆んなで遊びに行こうよ」


「あ、いえ、すみません」


 ──終始この2人には冷たい態度だったが河田がまた空気を読まずに話しかけてきた。


「こういうのもいいね!冷たいRちゃんにゾクゾクする」


(き、きもっ……もう、無理……それに最後のゾクゾクするって声がいつもと違って怖いんだけれど……)

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