東京
──その頃、Kは羽田空港に着いていた。
東京って、高校の修学旅行以来やな。しかし皆んなマスクやし感染対策はよくされとるよな。ほやけど、待ち合わせまで時間があり過ぎるからどうしよう。
──とりあえず、Rさんが勤めている会社パラダイスイーがある新宿までは来た。
いや、それにしても人が多いな……
俺は時間もあったから、コーヒーショップに入って、しつこいDMを送ってきている愛媛の女性、ファンシーに会う気はないし、そういうDMはもう、やめて欲しいと送った。
──2時間後にDMをチェックすると何故か彼女にブロックされていた。
短絡的過ぎる行動に理解が出来ないし、この子と日曜日に会うバイト仲間の林田が心配になったけれど、どう伝えていいのか分からず何も出来ずにいた。
──その頃、Rは会社て新商品の会議中だった。
Rの務めるパラダイスイーは、雑貨や、おもしろグッズ、カードゲームやボードゲームなど幅広い商品を開発販売する会社だ。
──河田部長が仕事モードで会議を仕切っている。
「この、『マンモス少女』というカードゲームなんだけれど、設定が甘いよね?マンモスの生まれ変わりとか、ピンと来ないし」
──Rは思っていた。
この人、仕事になると普段の駄目さ加減が影を潜めるのよね。だから、私以外の女子社員にファンが多いし、彼が私を好きだと公言しているせいで、その人達に冷たくされるから本当に勘弁して欲しいわ。相変わらずマスクでもウザイし。
──女性社員達が河田の噂をしている。
「本当に部長はイケメンよね……私うっとりしちゃう……」
「でも、私は何か怖いのよね……怒ったら人が変わり過ぎて……」
「ま、まあ誰でも欠点はあるわよ……」
「でも、Rばっかりよね、部長」
「本当に、それよ……」
「まあ、胸の大きさはRには敵わないけど」
「それは言いっこなしよ」
「「あははは」」
──そんな会話がされているとは河田もRも露知らず、会議は終わり、昼になってRは仲のいい女性社員の茜とランチに出かけた。
茜はRより2つ上の先輩で、Rと同じくメルヘンの軽薄さに嫌悪していた。
「Rちゃん、メルヘンにまた待ち伏せされたんでしょ?キモいよね」
「そうなの、茜さん、もうメルヘンで病みそう」
──その頃、Kも新宿のパラダイスイーの近くで昼食を食べる所を探していた。
オフィス街で、すれ違った女性2人の1人の声と"メルヘンで病みそう"という言葉に振り返る。
えっ!?もしかして、Rさん!?
──俺は躊躇いもあったがその女性2人の内の1人に話しかけた。
「あ、あの...間違ってたらすみません。もしかしてRさんですか?」
Rは驚いた顔をして茜の目を見つめた。
「えー!?も、もしかしてKさん?」
──Rさん、覚えているかな。初めて会った日の事を。あまりにも君が綺麗すぎて、綺麗だから心配になったんだよ……
Rさん、覚えているかな。あの日の風の匂いや温度を。あの胸のときめきを、生涯1の胸のときめきを……
──何だか一緒に3人で昼食をとることになり、近くのパスタ専門の店に入った。
俺は君に思いがけず早く会えて心臓の音が聞こえてしまわないか心配になるくらいだった。
──店の中は暗めの照明で、その奥の端の席に座れて話しやすくて助かった。
換気もされていて、席には透明の仕切り板があるが、それだけが邪魔だとはどうしても思ってしまう。Rさんと初めての食事なのに……
席に座った3人はマスクを外した。その時、マスクでも美人なのに外した方が更に可愛くなるRさんに俺は驚いていた。後、胸が予想以上に大きいことは会った瞬間に驚いた……
勿論、君の内面を好きになったから、この可愛さは心配の方が上回るんだよ。
茜は嬉しそうに話し出す——
「ねぇねぇ、2人はどんな関係なんですか?」
俺は少し、たどたどしかったかもしれないが今までのRさんとの経緯を話した。
「へぇー、SNSでね。今どきですよね。でもわざわざ東京まで愛媛からって情熱的ですねー」
「あ、いや、あはは。ちょうど東京に旅行したいんもあったし」
俺は照れ隠しで本音を言えなかった。Rさんの方を見ると何だか照れくさそうに俺を見ている気がしたが話しかけてみた。
「Rさん、想像以上に可愛くてビックリしたよ」
後、胸が予想以上にボリュームがあるから視線に気をつけな……あー、馬鹿だ馬鹿だ、俺は……
「あはは、そんな事ないよ。Kさんは想像してた感じで素朴な感じでいいわよ。ん?胸見てるー?笑」
「み、見てないよ!」
俺はちょっと見てしまっていた……
茜は自慢げに話しだした——
「まあまあ、Rちゃんの胸を見ない方が不自然だから笑 それに、Rちゃんは我社の看板娘ですので。だけど変な虫も沢山寄ってくるから大変なんですよ」
──俺は直ぐにメルヘンの事が頭に浮かんだ。
パスタが席に並べられ、食事をする前にRは話し出した——
「だけど、待ち合わせもしていないのに会えるなんて奇跡よね。ほんっとに驚いちゃった」
「俺もよ。まさか「メルヘン」という単語が会わせてくれるとは思わんかったよ笑」
「「あはは」」
3人は隣の席に聞こえるくらい笑い声をあげた。
──あっという間に時間は過ぎて、彼女たちは会社に戻っていった。
勿論、夜に合う約束は確認して。
──君に会えて俺は興奮していた。目的地もないのに早歩きになり、新宿の街を人を避けながら歩いていた。
君との待ち合わせの時間まで長かったよ。そして心が落ち着く事はなかった。
──その頃、オフィスに戻ったRも興奮していたが表情には一切出さなかった。
Kさんに会えた!会えた!素朴な感じがまた可愛くてよかったな。早く20時にならないかな。
──その時、また河田がRにちょっかいを出してきた。
「Rちゃ~ん、今晩こそディナーに行こうよ~」
Rは無視して仕事に取り掛かった。
河田はRを睨みつけているように見える。
茜が話しかけてきた——
「聞いてたわよ。しっつこいわよね」
「本当にそう。もうあまりにも酷かったら会社に相談してみるよ」
「うんうん、それが一番いいよ」
──そんなこんなでもう19時になっていた。R達はフレックス出社でいつも少し遅めの帰りになる。
Rは茜に話しかける——
「じゃあ、着替えたら待ち合わせの喫茶店に行ってくるね」
「うん、お化粧もバッチリ直して頑張って来てね」
「はーい、お疲れ様でした」
──日は暮れたが街灯や店の光やネオン、ビルの窓から漏れる光で街は明るい。
──Kは早めに待ち合わせの喫茶店「ヴァンパイア」に着いて、好物のアイスコーヒーを注文していた。
凄くいい雰囲気だし、コンセプト喫茶?みたいなのかな?吸血鬼をイメージさせる内装になっていて見ているだけでも飽きない。喫茶店だけれど食事の種類も多くて、普通にお腹いっぱいになりそうだ。
感染対策で席の間隔もたぶん開けてあるし、ただ透明の仕切り板がどうしても邪魔だとは思ってしまうが、これは愛媛の飲食店でもこうだから仕方がないか。
──そんな事を考えながら運ばれてきたアイスコーヒーを飲んでいたら喫茶店特有のあの音がした。
"カランコロンカラン"
──そこには清楚系の服に着替えたRがいた。
俺はRさんを夢のように眺めていた。
他の客までRさんを見ている。マスクをしていてもそれくらい綺麗で可愛いんだ。
──RはKを見つけると小走りに駆け寄ってきた。
「おつかれたまにゃん!お待たせー」
「おつかれたまにゃん!全然待ってないよ。思ったより早かったね」
「そうなの、早く終われてラッキーだよ。Kさんのパワーかも笑」
「あはは、そんな力ないよー笑」
俺は幸せ過ぎてこの時間が永遠ならどれだけ幸せだろうと思ったか。
マスクを外した君の顔を中々直視出来ないでいた。後、胸も……
2人の出会いからの話やKのショートショートや詩の話、通話をした日の話やRの職場やメルヘンの話、最近行ったコピーバンドの話など会話が途切れる事はなく1時間半はあっという間に過ぎた。
透明の仕切り板が憎らしいこと以外は幸せな時間だった。
終始にこやかだったRさんだったけれどメルヘンの話になると顔を曇らせる君を抱きしめて守ってあげたくなったよ……
食事を終えデザートを食べ終えた2人はRがスマートフォンで最近撮った花の写真をスマートフォンの写真アプリで見ていた。
「ねぇ、Kさんは最近、写真何か撮った?」
「何か撮ったかな?ちょっと見てみるね」
「うん!」
透明の仕切り板の外からKのスマートフォンを少し除き込むR。
「え!?」
俺はバイト仲間の林田がマッチングアプリで日曜日に会う約束をしているメルヘンという女性の写真を林田に、俺にも彼女が誘って来た事を伝えるために保存していたのをすっかり忘れていた。
「こ、これ誰!?妹とか?派手な髪色の女性……」
「妹はおらんよ、この子はSNSで……」
──Kの話を遮り興奮して話し出すR——
「え!?じゃあ、じゃあ私以外にも女の子とやり取りして、私たちは写真の交換もしていないのにその子とはしてたって事よね」
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