第10話『深夜のピンポン』

『深夜のピンポン』


むかしむかし、都心から少し外れたアパートに、ひとりの若者が住んでおったそうな。


その部屋は古くて安いが、静かで居心地がよく、若者は気に入って暮らしておった。


ところがある晩のことじゃ。


夜中の二時を回ったころ、**「ピンポーン」**とチャイムが鳴った。


「こんな時間に誰だ?」


不審に思いながら、ドアスコープをのぞくと、誰もおらん。


気味が悪いが、まあイタズラだろうと、その晩は布団にもぐりこんだ。


だがの、それからというもの、毎晩、決まって深夜二時にチャイムが鳴るようになった。


のぞいても誰もいない。けれど、チャイムの音だけは、ぴったりと決まった時間に響く。


数日後、とうとう若者は、ドアの前にスマホを仕掛けて、録画してみることにした。


翌朝、映像を確認すると――


ドアの前に、黒い髪を垂らした女が立っておった。


カメラに気づいておるのかいないのか、無表情のまま、じっと、じーっとレンズを見つめとる。


そして、カメラに向かってこうささやいたそうな。


「開けて。いるの、わかってる」


怖くなった若者は、その日のうちに引っ越した。


が、最後の夜、荷物をまとめて出ようとした瞬間、


「ピンポーン」


また鳴った。


ドアを開けると、そこには――誰もおらん。けれど、足元に一枚の紙切れが落ちておった。


震える手で拾い上げて読んでみると、こう書いてあったそうな。


「なんで逃げるの?つぎは、窓から行くね」


――おそろしい話でござった。


おしまい。


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日本(今)昔ばなし ロロ @loolo

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