第4話『赤い糸の自販機』

『赤い糸の自販機』


むかしむかし、ある町の外れに、ぽつんと立つ古びた自動販売機があったそうな。


周りには店も家もなく、人通りもほとんどない。それでもなぜか、いつも冷たい飲み物が並んでいて、明かりは消えることがなかった。


けれど、この自販機には――ちと変わった噂があったのじゃ。


「深夜二時ちょうどに、100円玉を入れて、一番左のボタンを押すと、“赤い糸の缶”が出てくる」


そして、それを飲んだ者は、「運命の人」と出会うというのじゃ。


ある若者が、この噂を試してみた。


恋に破れ、仕事も嫌になって、「せめて最後に、運命でも信じてみるか」と、冗談半分で、その自販機に向かったそうな。


時間はぴったり、深夜二時。


若者が100円玉を入れて、一番左のボタンを押すと――カコン、と落ちてきたのは、真っ赤な缶。何の銘柄も書かれておらず、ただ一本、赤い糸が巻きついておった。


面白半分に缶を開けて飲むと、ふんわりと甘く、でもどこか懐かしい味がしたそうな。


次の日から、若者の周りでは不思議なことが起こった。


通勤電車で、向かいの席に座る女性が、毎朝同じ本を読んでいた。


コンビニでは、買おうとしたサンドイッチを、その女性に先を越された。


そしてついに、ある雨の日。傘を忘れた若者に、その女性が差し出したのじゃ。


「同じ缶、飲んだんですか?」


彼女の手には、あの赤い糸の缶が、残っておった。


運命かと、思ったそうな。


けれど、その晩――若者は夢を見た。


糸がねじれ、絡まり、首を締め、最後は真っ赤に染まる夢じゃった。


翌朝、彼の部屋には、誰のものとも知れぬ、長い赤い糸が、床いっぱいに散らばっておったそうな。


自販機は、いつの間にか姿を消していた。


そして今夜も、どこかの町の片隅で――ぽつんと、赤い缶を売っているかもしれん。


――ちょいと妙で、背筋の寒くなる話でござった。


おしまい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る